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戦いを止める連絡

 矢継ぎ早に名乗りを終えて攻撃に移るウル。炎を纏ったまま、躊躇なくマオルに拳を振るう。


「どうした千年生子! こんなもんじゃないだろうって!」


「なんと忙しない奴だ。儂の言葉に耳を貸す気はないのか」


 マオルは、なんとかウルと距離を置きひと息吐く。

 自分の魔術が通用しないという現実に頭を悩ましながら戦術を必死に練る。

 しかしわざわざ待ってはくれない。マオルの動きが止まった一瞬を見逃すウルではない。グレンのときと同様に背後に回る。


「これで決まりだって」


「――そいつを待ってたぞ!」


 ウルが自分に対して突っ込んでくることは想定済みであったマオルは、並行世界へ通じる穴を瞬時に展開させた。見事に引っ掛かったウルは並行世界へと吸い込まれる。


「……やった! よくやったじゃないかマーオ! どうなるかと思ったが、相手が猪突猛進で助かったな」


 蹴られた背中をさすりながらも勝利を喜びマオルを労うグレン。自分たちを睨んでいた軍人たちの悔し顔を見てやろうと辺りをきょろきょろ見る余裕さえある。

 軍人たちは、目の前で頼みの綱が負けたことに落胆してはいなかった。むしろ余裕の笑みを浮かべている。


「なんじゃこの雰囲気は。まるで儂らが勝ったようには思えん。儂の魔術を理解してないだけか」


「ただ強がってるだけだぜ。構わずレストランに行こうマーオ」


 気楽に歩くグレンに対し、誰も道を塞ごうとはしない。戦いの邪魔になる(・・・・・・・・)とわかっていたからだ。


 空間に亀裂が生まれる。それはマオルの魔術ではない。グレンでもない。軍人たちは見ているだけ。となれば一人しか思い浮かばない。


「――油断大敵だって!」


 亀裂が円を描くと、炎を纏ったウルがそこから飛び出してきた。狙いを定めて右ストレートをマオルに炸裂させる。


「ぐふっ!?」


 さすがのマオルも反応しきれず地面に転がるしかなかった。頬にパンチを喰らったことよりも、どうやってウルが戻ってきたのかという方が気になって仕方がない。


「俺を甘く見たのが運の尽きだって。万が一のことも想定してこそ一流なんだ」


 倒れるマオルに掌を向けて勝ち誇るウル。

 グレンが立ち向かおうとするが、ウルの隙のない構えに動けずにいた。


「おまっさんの言う通りだな、儂が甘かった。しかし気になる。いったい何をした?」


「俺も同じことができるってだけだ。理屈うんぬんは知らない」


「こりゃ驚きだ。自分の魔術のことを知らないとはな」


「この左目は俺のじゃないんだ。色々あって……もらったんだ」


「そうか、あまり詮索せん方がよさそうだ」


「お気遣いどうもって。でもこっちはそうはいかないんだって。物体消失の件、洗いざらい吐いてもらう」


「そう言われても困るんだこれが。儂も全く原因がわからん。こっちが聞きたいくらいだ」


 倒れながらも逆転の隙を窺うマオル。

 見下ろしながらも気を抜かないウル。

 両者言葉を交わしながらも拮抗したまま。このまま探り合いの睨み合いが続くかと思われたが、軍人たちが腰に付けたトランシーバーから聞こえた連絡がそれを切り裂いた。


 ――ロイズ運行の幼稚園バス一台がジャックされた模様! 人質は園児、教員合わせて二十名!


「なんてこったって!? こうしちゃいられないって!」


 明らかにウルに焦りが見え隙が生まれた。だが、そこを狙うような野暮なことをするマオルではない。起き上がるとウルの足を踏み注意を向ける。


「焦ってどうするか。バスは止まってはくれないだろう。外部の人間が手出しをするのは難しいのだから、ここは一度冷静になるのが賢明だ」


「敵に諭されるとは不甲斐ないって。軍が出て犯人を刺激したら厄介になる。ここは軍認の俺が出るしかない」


 ――バスは現在、ロイズデパート前を走行中!


「犯人の目的がわからないの。バスジャックをしてどうするつもりなのか」


「わからないなら直接聞いてみるだけだって。だいたいあの辺だろう」


 ウルが右のこめかみに右手人差し指を当てる。

 マオルはその仕草が何かの合図だと察してウルに触れた。


「儂も付き合おう。追われるよりかはマシだ」


「しょ、正気かって!?」


「ああ。グレン、すまんがミルフィライトを頼む」


「わかったぜ。任せとけ」


 グレンが返事をしたと同時にマオルとウルの姿が消えた。


 バスジャックをしているのは二人の男。一人は見るからに筋肉隆々で、もう一人はガリガリである。

 筋肉隆々の方は苛立ちを隠そうともしない。命令口調で運転手に指示を出す。


「このまま走れ! 目指すはロイズ司令部だ!」


「い、今は元帥がいるから無理だ!」


 運転手が反論すると、筋肉隆々の男がガリガリの男に合図する。


「やれ」


「へい」


 ――パン!!


 銃声と共に運転手が腹から血を流し気絶した。ガリガリの男が運転手を雑にどけて席に座る。

 園児たちも教員たちも言葉を失う。恐怖で泣くことすらできないほど怯えていた。


「軍認になれば稼げると思っていた。だが紹介されるのは報酬の低い任務ばかりだ。だいたいあのウルって奴はなんなんだ。どうして奴ばかり高報酬の任務を受けられるんだ! まだ十六のガキが!!」


 筋肉隆々の男が苛立ちから窓ガラスを割る。若者に対する一方的な恨みで動いていた。

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