軍認の核師
土の大陸の国――セラテシムン。議院内閣制や絶対王政ではなく、軍事政権で成り立っている。首都のロイズを始め各地に司令部があり、街を軍人が歩いているのも珍しくない。
現在ロイズは慌ただしい。セラテシムンのトップである元帥が隣街からきているのだ。
「ロンド司令部は堅苦しいにょん。何かにつけて抜け出そうとすると止めてくるんだよ。信じられないにょん」
元帥はエメラルドグリーンの前髪を真ん中で分け、後ろ髪を肩まで伸ばしている。そこにおかしいところはないのだが、おかしいところは別にあった。
軍人のため軍服を着ている……問題ない。
語尾に「にょん」をつける……まあいい。
元帥なのに護衛の目を盗んで抜け出そうと何度も試みている……ダメだろう。だがそこではない。
元帥と相対している軍人たちの視線は一点に集中している。しかしどこか定まっていない。元帥と同じ空間にいることに緊張しているからではない。目のやり場がわからないのだ。
「みんな、どうしたにょん。にょんちゃんの顔に何か付いて――あっ!」
ようやく元帥も気付いた。人と話すときのマナーとしてわざわざ言及するまでもないが、特別な理由がないのなら仮面を外すべきだということに。
「あなたのそのスタイルに私はどうこう言うつもりはありません。ですがそれは一部の人に対してにだけです。大多数の人にそうはいきません」
「あはは、ごめんごめん。元帥室にいるときは外さないからついにょん」
元帥が仮面を外す。その瞬間、軍人たちが一斉に息を呑んだ。仮面の下から現れた素顔は、とても美しい女性の顔をだったからだ。
「少しは自信を持ってくれると助かるのですがね。せっかくの美貌を隠しているのはもったいない」
「おやおやライド君、もしかして口説いてるにょん」
「どうしたらそういう発想になるのですか。たかが大尉である私とあなたが釣り合うとでも?」
「階級差なんて関係ないにょん。ライド君が求めるなら考えてあげる」
「考えなくてけっこうです。私には私にふさわしい相手がいるのでね」
「そうだったにょん!? いったい誰なにょん! 聞かせてにょーん!」
目を輝かせる元帥。女性は恋バナに目がない。しかし今は公務中である。
ライドは小さくせき払いをして話を止めさせると、数枚の写真をテーブルに置いた。
「あなたに頼まれていた件を調べました。どうやらセラテシムンにもきているようです」
「やっぱり。すでに土の大陸に上陸しているとの情報があったから気になってたにょん。これは要注意だにょん」
元帥が指差した人物は、銀色の髪と瞳が眩しい少年だった。一緒に写っている少女と男性は眼中にないようである。
「あなたに情報を報告したのは彼ですか」
「そうにょん。彼が協力してくれて助かってるにょん」
「どこにでも首を突っ込みたがるものだ。軍に懐くとは変わり者め」
そう言いつつ嬉しそうに顔を緩めたライドだったが、すぐに真面目な顔つきに戻る。写真の人物はそれだけ危険ということなのだろう。
「セラテシムンに危害を加えるというのなら容赦しないにょん、千年生子」
* * *
灰色の手がかりを求めてセラテシムンにやってきたマオルたち。グレンはミルフィライトをホテルのベッドに寝かせて背筋を伸ばす。ちょくちょく休憩を挟んでいたが、さすがに筋肉が硬直していた。
「うぅうう!! 背負って歩くのもトレーニングになると思ってたけどキツいぜ」
「そんなに強がらなくてもいいんだぞ。儂だって背負える」
「そんな強がりいらないぜ。マーオの体でミルちゃんを支え続けるのは至難だ」
「舐めてもらっては困る。だがその前に食事だ。腹が減ってはなんとやらだ。外にいっぱいレストランがあった」
意気揚々とホテルを出たマオル。
ロイズの警備はいつもより厳重であるが、それを二人は知らない。ただ様子が変だということにはすぐに気付いた。
「なんかオレたち睨まれてないか」
「おまっさんも気付いたか。念のため警戒しろ」
自然と歩く速度が上がる。しかしそれは同時に誤解を招いてしまった。
「そこの二人止まれ。特に銀髪の方」
二人の前に立ち塞がるように現れた少年。黒い髪と瞳から強さを感じさせる。
「おいおい、オレの方が扱い軽いのかよ。いきなり呼び止めといてそりゃないぜ」
「ずいぶんと余裕ぶってるけど、俺から逃げようだなんて無理だから」
少年は髪と瞳を赤く染め、体に炎を纏う。
マオルとグレンを睨んでいた軍人たちが離れていく。少年の実力を信じて疑わないからこそできる。
「炎の魔法か魔術か知らないが、いい構えだぜ」
「そりゃどうもって。けど悪いね、用があるのは銀髪なんだって!」
少年が気合いを入れた刹那――。
「なっ!?」
グレンは背後を取られて蹴飛ばされてしまった。
「ほう、なかなかやるようだな。そこまでして儂を狙う理由はなんだ」
「ジャンジャラで起きた物体消失の件、身に覚えがないとは言わせないって!」
「物体消失……ああ、それは儂も気になってたんだ。ジャンジャラの首都の塔とか、街のこととか」
「あっさり吐きやがって。千年生子は口が軽いのかって」
「セラテシムンにもその名が知れ渡っているとは驚きだ。いったい誰が言い出したんだか」
マオルは喋りながら指を鳴らす。使いたくはなかったが致し方なしと判断した。しかしそれは不発に終わる。
「――何かしたのかって」
少年にマオルの魔術が通用しなかった。周りの人は、街は止まっているにも拘らず。
「この魔術が効かない奴は初めて――いや、おまっさんで二人目だ。名前を聞いても構わないか」
「俺はウル。軍認の核師だ」




