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名残の噂

 ジャンジャラには、死者が眠る街がある。その日の気候など関係なくいつも霧で覆われており、日中でも薄暗い。

 不気味といえば灰色という安直な連想を口走ったグレンにマオルも乗っかり、なんの確証もなく赴いたのだ。変わらずミルフィライトは眠ったまま。


「きちゃったぜ、きちゃったぜ。この感じがたまらないらしいぜ」


 グレンは興奮している。普通に出会った場合、今の彼に近寄ろうと思う人はいない。


「まさか、ただ自分がきたかっただけじゃないだろうな」


「そんなことないぜ、マーオ。眠ることに関して死者よりも長けるのはいない。この街の噂がオレの予想に説得力を持たせる」


 ――満月の夜、墓という殻破り、死の眠りを拒む亡者覚める。


「くだらん。ネクロマンサーじゃあるまいし現実的じゃない」


「ネクロマンサー? それこそ眉唾物じゃないか」


「ふむ、おまっさんの反応はごもっともだ。だが儂はこの目でしかと――」


「おい、あれを見てくれマーオ! 人がいるぜ!」


 マオルの言葉を遮って走り出すグレン。

 街だから人がいても不思議ではない。至る所にある墓を管理する上で人の手は欠かせない。

 グレンに応対したのは、恰幅のいい女性だ。


「おや珍しい。こんな街に人がくるなんて」


「珍しい? こんなに墓があるのに? 確かに気味悪いけど、人が珍しいはどうなんだ」


「実は、この街にある墓の大半が不法投棄同然のものなんだ。勝手に作られてしまって困っていてね」


「だったら撤去しちゃえばいいだろう。このままだと増えるばかりだぜ」


 墓をよく見てみると、ただ石を置いただけだったり、花を一輪挿しだけだったりとお粗末なものがあちこちにある。

 墓を撤去するということは、ただ墓石を片づければいいというわけではない。ジャンジャラは土葬を用いているためだ。


「ここには墓参りに?」


「いんや、この街の噂に興味があるんだ」


「噂……ああ、満月の夜に死体が墓から出てくるというやつね。誰が言い出したのか知らないけど、いい迷惑だ。興味本位でくるのは構わないさ、街は潤うしね。けど片づけが大変で大変で。勝手に墓は作るわ、ゴミを捨てるわ。ここはゴミ箱じゃないんだ」


「オレはそんなことしないぜ。噂の有無を確かめるだけで帰る。というわけでおばちゃん、泊まるとこない?」


「ジャンジャラでも小さな街だ。ホテルだなんて大それたものはないが、宿屋ならいいところを知ってる。付いておいで」


 案内された場所は、小さな宿屋。

 女性が従業員しか入れないカウンターに入り、さっとサインを促す。


「あんたらは運がいい。理由はなんであれ、人がくれば商売の血が騒ぐもんだ。カモられる可能性は大いにある」


「宿屋だとは思いもしなかった。おばちゃんはカモらないのか」


「商売人は人を見る。あんたらをカモるのは時間の無駄だと判断した。他の客でカモるとするさ」


 女性の目が一瞬だけ商売人のそれに変わり、グレンは悪寒を感じた。


 サインを済まし、二階にある部屋にミルフィライトを寝かせてから二人は街を散策に出た。女性が言っていたようにゴミをが捨てられており、霧が濃いため歩くのも一苦労。


「人が歩いてないな」


「早朝はまだマシな霧らしいぜ。だから日中の人通りは少ないんだと」


「それでか。店も開いてないようだ」


「いんや開いてる。扉を叩けば応対してくれるんじゃないか」


 グレンは店の扉を叩く。すると中から、見るからに筋肉隆々で髭が似合う男性が出てきた。


「この時間に客とは珍しい。何か必要になったか?」


「あまりにも人がいなくて。オレたち観光客なんだけど、どっかいいとこない?」


「墓以外には何もないがなぁ。この街は森を潰してできたんだ。その名残が少しあるくらいだ」


「やっぱ金とか!?」


「残念ながら違うなぁ。森に行くと精霊に会えるという噂があるんだ」


 男性の言葉にマオルが反応する。


「その噂は本当か!?」


「確かじゃないから噂なんだ。精霊って言うと本を思い出すなぁ」


「精霊の声を聞いたって本か。それなら儂も知ってる。それに儂は――」


「よし決まりだマーオ! 森に行くぜ。灰色と精霊って繋がってそうじゃないか」


「また遮りおって。行くのは構わんが、用心を怠るんじゃないぞ」


「またまたー。マーオも一緒に行くんだぜ」


「儂は断る。そういう噂に関わり良かった試しがない」


 カウボーイハットを目深に被り誘いを断るマオルだが、どういうわけかグレンがクスクス笑う。


「何が可笑しいんだ」


「またまたー。どうせ眠り姫と一緒にいたいんだろう?」


「ちっ、違うわいっ! 年寄りをからかうもんじゃない」


「年寄り? どう見ても子どもだろう。面白いことを言うカウボーイだなぁ」


 男性がカウボーイハットの上からマオルの頭を撫でてきた。


「えーい、やめないか! これだからこの姿は不便なんだ」


 恥ずかしさから無理やり手を振り払う。少しは大人を見せようと睨むマオルだったが、二人には全く相手にされなかった。

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