元凶の正体
銀色の髪を揺らしながら階段を駆け上がっていくマオル。息を切らしても足を止めることはない。
塔の中は階段地獄。螺旋階段なんて生温いとばかりに長々とクネクネと上へ下へ続く。そのせいで、ちゃんと最上階に着けるのか疑いたくなる。
「なんだこりゃ! 儂の体力が尽きるのを狙っているのか!」
もう、かれこれ三十分は階段とお友達状態。
いい加減面倒になったマオルは飛ぶことを考えた。正直に付き合う必要などないだろうと。
見上げれば吹き抜けの天井が見える。
魔力を集中し、一直線に飛び上がった。
卑怯と言われようが知らん、それが答え。
「――いったああああ!!」
頭を襲う痛みと振動に騒ぐマオル。いったい何が起きたのかときょろきょろ見回すが障害物はどこにもない。
「わ、儂が石頭じゃなければ大惨事だったぞい。ぬぅん、視界がふらついて困ったもんだ」
今度はゆっくり浮上していく。すると、見えない障害物に塞がれていることに気付く。
「けったいなことを。あくまで階段を使えということかい」
壁を作り出している者が最上階にいると察したマオルは意地になる。
塔にきた全員に対してそうしてるのか、マオルに対してだけなのか。
「儂の気は短い。今は超短い。この塔を壊されたくなければ歓迎してくれよ」
口元を緩めるが、決して気は緩めない。
今度は階段を数段飛ばしで駆け上がる。想いを体力に変えて。
* * *
マオルの奮闘を塔の最上階で嘲笑う者がいた。
絹のカーテンのような銀色の髪を白い指で遊ぶ美女。見事としか表せない体つきは異性の本能を無条件に奮い立たせると想像するに難しくなく、それでいて同性の気を逆撫でするようないやらしさはない。
髪と同じ瞳で見つめる先には、同じく銀色の髪を持つミルフィライトがいた。
「こんな簡単にきてくれるだなんて思わなかった。いらっしゃい」
「あなたに歓迎されるつもりなんてないさねえ。私をどうする気か知らないけど、あなたにどうこうされるつもりはないさねえ」
「久々の再会だというのにさっぱりしてること。お互い生きてるなんて奇跡なのに」
「よく言う。私を封印した張本人のくせして」
「その若さを失わせたくなかったの。その愛らしさを失わせたくなかったの」
「あなたの願いなんて知らない。私の人生を奪ったことを許す気はないさねえ」
「奪ったとは聞き捨てならないわ。だって死んでないじゃない。これから膨大な時間を生きられるのよ」
「膨大、ね。やっぱり私は不老不死さねえ」
「素敵じゃない! 永遠に死なず老いずだなんて羨ましいわ!」
「いい加減教えなさい。あなたの狙いは何?」
「そんなの決まってるでしょ。若さと愛らしさが永遠に溢れる体をもらうの」
「私にはわからない。不老不死になったら、苦しみも永遠に続くさねえ」
「苦しみなんて排除すればいいだけじゃない。取捨選択は大事なことよ」
「それで自分の体を捨てて私の体を得ようとしてるわけさねえ」
ミルフィライトは顔をしかめた。
若さのためなら体すらも捨てる覚悟。どうしても理解し難い思想に気分をさらに害す。
「そういう目が私を奮い立たせるのよ。ふふっ、そろそろその体をもらうとしましょう」
「誰があげるか。あなたに封印されてた分、私は人生を謳歌するんさねえ!」
ミルフィライトは、ポニーテーラーを発動させ刀を構え距離を置く。相手を睨み威圧感を出すが、恐怖からくる体の震えを隠すことはできない。
女性は微動だにしない。それどころか笑みを浮かべている。目の前で刀を向ける者がいるにも拘らず。
「活きがいいことは素晴らしいことよ。その刀で私を切り刻んでごらんなさい」
「私を封印したことを後悔させてやるさねえ! はああああ!!」
目にも止まらぬ速さの太刀筋。避けるどころか、白刃取りみたく受け止めることすら叶わない。アンデットと同じように切り刻まれるのがオチ――。
「ふふふ! ふははは! あなたは意外とお馬鹿さんなのかしら。鏡に刀を振るって勝てると思って?」
「……ぅううっ!!」
ミルフィライトは一切手加減をしていない。その証拠に刀を握る腕は力を込めて震えている。それでも女性の指一本落とすことすら叶わない。
「今のままでも世の男を骨抜きにすることに苦労はしない。けどね、今のままでは理想の男に出会えないの。若返りを試みてこの身止まり。あなたを実験台にした後、結果次第で自分も試してみようと思っていたけれど、それよりも手っ取り早い方法が見つかり変更することにした」
「それで私の体をということかさねえ。勝手放題さねえ」
「私が私をどうしようと構わないでしょ。この世は弱肉強食よ」
「そんな勝手が許されてたまるもんですか。並行世界に帰るさねえ!」
ミルフィライトはツインテーラーを発動。
業火犬乱で並行世界の自分を燃やすことに迷いはない。
「やはりお馬鹿さんね。私も使えるのよ、火犬」
並行世界のミルフィライトも業火犬乱を発動。身なりは変わらないが、その威力はツインテーラーのミルフィライトを凌駕していた。




