財布を握った者は強い
アンデットとの戦いから三日後。
マオルとミルフィライトの姿は、輸出大国のジャンジャラにあった。
土の大陸の国の中で、もっとも金や石油を輸出しているジャンジャラだが、この国にはもうひとつ有名なものがある。
ジャンジャラの首都は今日も人で溢れかえっていた。
金ピカな高層ビルが嫌でも目に入り、あちらこちらに金造の噴水がある。夜になるとそれらの輝きが一層際立ち、人の服装も派手なものへと変わるのだ。
胸元がバッサリ開いたセクシーなドレスに身を包む美女たちが笑顔で開く扉を抜けると、圧倒的な声と音が耳を刺激する。
「こんなところで情報を入手できるさねえ」
「おまっさんは知らんだろうが、こういうところの方が色々知れるもんだい」
「こういうの私は苦手。正攻法で挑んでも馬鹿を見るだけさねえ」
「人混み嫌いは儂も一緒だ。それでもここにきたのは、おまっさんを封印した者を探すためだ」
「生きてるわけないさねえ。私やあなたが例外なだけ」
「儂が確証なしでくるわけないだろう。数日前にここに現れたと聞いた」
「ここにくる人は口が堅いんじゃなくて?」
「店前にいたお姉さんは、可愛い男の子に弱いようだ。実に屈辱的なものであったが仕方ないと耐えてやった」
「いったい何をされたさねえ」
「頬擦りを少々な」
「見た目の若さを使って行為を誘発させるとは。やはり変態さねえ」
「儂からしたんじゃないぞ。あくまで向こうからしてきたんだ」
「別に私に弁明しなくてもいいさねえ。元カレが誰に何をされようが気にしないから」
「そ、そうか。おまっさんが気にしないのなら安心だ」
ミルフィライトの反応に胸を撫で下ろしたマオル。しかしやはり鈍感である。ミルフィライトが強烈な視線を向けていることに気付かない。
「現れたのが数日前なら、入れ違いになってるはず」
「それがわからないから探すんだ。儂たちには時間がたっぷりとある」
「見つけたら殴ってやるさねえ! 私を封印するなんて許せない!」
「仮にも女が、殴るだなんだ言うもんじゃない」
「私に女を感じてる?」
「やれやれ、冗談を言う余裕はあるみたいだな」
「じょっ、冗談ではないさねえ」
ミルフィライトが訴えるも見事に聞き流されてしまう。
それどころか、マオルの意識は別のところに移っていた。
「せっかくだ、儂たちの財布を厚くしておこう。スロットには自信があってな」
「これがスロットさねえ? 聞いてはいたが眉唾だったさねえ。絵柄を揃えるとメダルがジャラジャラ出るんでしょ」
「色々とコツがあるようだが儂は知らん。自己流を貫くまでだ」
マオルはスロットの前に座ると、カウボーイハットの被り角度を微調整。目的の絵柄を銀色の瞳でしっかり見つめ硬貨を投入。
隣でミルフィライトは固唾を呑む。
「千年の功は伊達じゃない。マオル・ナナシノの前にメダルを吐き出すがいい」
――カチャン。
――カチャン。
――カチャン。
「何やってるさねえ。おまっさんがスロットに吐き出してどうする」
「こんなのはインチキだ。儂の目押しが通用しないのはおかしい」
「こんなところで稼ごうという甘さに神がお仕置きしたんでしょ」
「ふんだい! 神なんかいない。儂に嫌がらせして喜ぶのは精霊くらいなもんだ」
「精霊?」
「ずいぶん昔のことだ。精霊を見える人間が珍しかったのか知らんが、火の精霊がしつこく絡んできたことがあってな。確か名前はサラマンダーだったか」
「そのサラマンダーってのは女の子?」
「だったらなんだ。おまっさんが気にするようなことはなかったぞ」
「どうだか。精霊って可愛い子だと聞いてる。可愛い子が絡んできて喜ばないあなたじゃない」
「おまっさんの目に儂はどう映ってるんだ!?」
「教えるわけないでしょ。だいたい、あなたに言ったところで通じないさねえ」
「儂をどんだけ馬鹿にするんだ」
「私の気が済むまでさねえ」
「一生終わらないじゃないか」
「一生……そう……一生さねえ」
「なんで嬉しそうなんだ?」
「教えてあげない。悔しかったら考えることさねえ、マオルン」
機嫌がよくなったミルフィライトは、運が味方したのかポーカーで勝ちまくり旅費を握ることになった。
それからレストランに行き食事を済ませてホテルに泊まることに。ジャンジャラにくるまで野宿だったため、久々のベッドの寝心地にマオルは寝息を早々と立てている。
一方、ミルフィライトは疲れを取るべく入浴していた。
「こうしてゆっくりできるなんて夢みたい。またマオルと一緒にいられるなんて夢みたい。お湯の肌触りも夜風の冷たさも懐かしい。封印されていたときなんて意識ははっきりしていたけど、体の感覚はなかったし、視界は真っ暗だったもの」
ちょうどいい湯加減で眠気に誘われたため湯から上がる。すると、火照った体に視線がいった。
「やっぱり、大きい方がいいのかしら?」
十歳のままの体を見てため息を吐くミルフィライトであった。




