ポニーテールとツインテール
スケルトンの装備は骨。骨である。
ミルフィライトは、それが他のスケルトンの一部と見抜き、それが何を意味するのかもすぐに察した。
「ネクロマンサーの魔力が尽きかけているよう」
「ネクロマンサー? 死体を操るというやつか?」
「そう。ただ実際はそういう魔術。本物のネクロマンサーは魔力ではなく、自分の命を消費する」
「じゃあなんだい。この先にネクロマンサーの猿真似をしてるのがいるのか」
「間違いない。私たちに会いたくないみたいだけど、ちょっと興味が出た」
「儂が手を貸そう。そんなのは並行世界の海にでも捨てればいい」
「最低。あなた、命をなんだと思ってる」
「もう死んでる。魔術で無理やり動かされてるだけの骸骨に情など湧かん」
「長生きのあまりに死生観が壊れてしまったみたいね、気の毒に。そんなあなたの手を借りるわけにはいかない」
「そうかい。では、儂は手を出さんぞ」
ミルフィライトは、マオルの言葉に黙って頷く。
活発な印象を与えるベリーショートが軽く靡いた。
――私には似合わない。可愛くないから。
周りの声に全く耳を貸さず自分を貫くことに迷いはなかった。マオルと出会うまでは。
――可愛い奴が我慢してどうするんだ。もっと自信を持てよ。おまっさんは可愛いんだからな。
十歳にして初めての恋。
それはミルフィライトを大きく変えたが、封印によって道半ばで途絶えてしまう。
「今からでも遅くないかな? 今からでも変われるかな?」
「少なくとも今のおまっさんを儂は知らん。変わることに早いも遅いもあるものか」
「ふふっ。それを聞いて安心した」
無愛想な表情が崩れる。まるで止まっていた時間が再び動き出したよう。
ミルフィライトの気持ちに呼応して艶やかな銀色の髪が伸びて揺れる。そこに現れたのは恋する乙女そのもの。
「おまっさん、いったい何を!?」
「ずっと昔に使えるようになってたけど封印してた。けど解禁する。本当の私を見てて」
ミルフィライトがスケルトンに向ける目は優しくも冷たい。もう対象は先の人物へと変わっていた。
「あなたに恨みはない。でも、あなたを止めるために私は戦う。刀装――ポニーテーラー」
かつて存在した和の国で生まれた薄桃色の羽衣を身に纏い、同じ和の国で生まれた刃を構える。腰まで伸びた髪を後ろにまとめた姿は凛々しくも可憐。
スケルトンは真っ直ぐ向かってきた。自分で考えることはできないのだ。当然だろう。もう死んでしまっているのだ。
「悲しいことよ。魔吸」
スケルトンを一刀両断。
スケルトンを動かしていた魔力は刀を通してミルフィライトに渡った。
「終わったのか?」
「まだ。この先の根源を倒さないと終わらない。一緒にきてくれる?」
「言ったろう。置いてけないと」
「そう言ってくれると思った。ありがとう、マオルン」
「マオルン? まあいい」
柔らかくなったミルフィライトに困惑しつつも、どこか満更でもないマオルがいた。
二人は先へと進んでいくと同時に鼻をつまむ。悪臭がどんどん増していき、目も開けられなくなる。
「大丈夫かい」
「私の心配をしてる場合? あなたの方が重症のように見える」
「この手の悪臭なんざ飽きるほど嗅いできた。さっきのスケルトンは骨だけだったからマシだったが、おそらくこれは死臭だ」
「おそらくだなんて消極的。どう嗅いでも死臭じゃない。聞こえるでしょ、呻き声が」
ミルフィライトが言うと同時に死臭の正体が現れた。生ける屍――アンデット。
「げっ! やはり儂は苦手だぞい」
「だったら隠れてて。それにしてもネクロマンサーの最後の対象が自分自身とは」
「どうしてわかるんだ?」
「この魔力の感じでわかる。あなたはわからない?」
「儂にはさっぱりわからん」
「さすがは鈍感」
「老いには勝てん」
「どこも老いてないくせに。ああムカつく! ぶっ放してやるっさねえ!」
ミルフィライトが怒りに任せて魔術を発動。
かつて和の国で暗躍していた、くノ一の姿へと変わる。銀色のツインテール、日差し知らずな白い肌が露出した服装に目を奪われたら最後。
「おーい、キャラが変わってるぞ」
「これが本当の私さねえ。忍装――ツインテーラー。喰らうさねえ、業火犬乱!」
犬型の火がアンデットに飛び付き燃やしていく。骨以外に何も残らない。
「おまっさんを怒らせるのはやめておこう。燃やされるのは嫌だ」
「覚悟しておくさねえ、マオルン。私の機嫌を損ねたらこうなる」
アンデットの遺骨を拾い上げて言い放つミルフィライトは満面の笑みを浮かべていた。
マオルの表情は硬くなる。決してミルフィライトの笑みに強張っているわけではない。長年の勘がそうさせるのだ。
「出るぞ、おまっさん」
「どうしたさねえ?」
「建物が崩れる! おまっさんも十分鈍感だ!」
「ひゃっ、ひゃいっ!?」
急にマオルに手を引かれて高鳴る鼓動。銀座のツインテールも跳ね上がる。
日差し知らずな白い肌が赤くなるのを見て、体温が上がっているのを自覚するミルフィライトであった。




