ミルフィライトは小悪魔系
少女――ミルフィライト・クリステリアは口元を少し動かす。視線は真っ直ぐマオルを見つめたまま笑みを浮かべるものの、目は笑っていない。
同じ色の髪と瞳を持つ二人は、出会いが必然で運命なのだと信じて疑わず、惹かれ合うことは自然なことであった。
「若かったなぁ。儂にとっては大昔だ」
「その姿で言われても説得力に欠ける。私の幼い姿に欲情している変態老人が言うと余計に」
「欲情するか! 儂は十分大人である。儂を欲情させたいのならば、もっと女性らしくすることだ」
「お断り。私は面食いで有名だったのを知らない? ほんの少しの気の緩みだったとはいえ、あなたに惹かれただなんて屈辱の極み」
「男をたらすのが趣味だと聞いてはいたが……。当時から十歳の思考回路ではなかったな」
「私に年相応を求めるのは馬鹿のすること。つまりあなたは馬鹿で、長生きの秘訣は馬鹿ということから私は短命に違いない。なぜなら私は馬鹿ではない」
「そんなんだから封印されたんだ、おまっさん」
「私にも隙は生まれる、そこを狙われてしまった。私の一番の不名誉で黒歴史。今すぐ消してしまいたい」
ミルフィライトは泣く。
ミルフィライトはしゃがむ。
ミルフィライトは落ち込む。
指先で地面に絵を描いては舌打ち、描いては舌打ち。好き、嫌いと乙女が花占いをするかのように見えて、描かれた絵は刺激的だ。
「おまっさん、何を描いているんだ?」
マオルは絵を見て身の毛を立てる。ミルフィライトの刺激的な絵に恐怖を覚え体を震わす。
「あなた、千年生子と呼ばれてるのだろう? 私、封印されていても世界の情報が入ってきて退屈知らずだった。おかげで眠りたくても眠れなく、怒りが日に日に増して減らなかった」
「どうやって発散させてたんだ?」
「ひたすら世界中の悪人に念じていた、死ねとね」
「おまっさんが一番の悪人ではないか。人を呪い殺すなんて」
「実際に呪い殺してはいない。勝手に人殺しにするのはよせ」
ミルフィライトは上目遣いを発動。効果は抜群。甘さと辛さを巧みに操る魔性の少女は危うい。可愛さに惹かれて誘われたら最後、全てを持っていかれる。
「さすがは男たらし。危うく吸われるところだった」
「そんなに吸われたいのなら吸ってやってもいい。遠慮をすることはない」
ミルフィライトは手を動かす。妖艶で甘美な音が鳴っていると相手に錯覚させる。本能を起こす誘惑に勝る武器はない。
「そんなに儂に襲われたいのか」
「体は若いままなのだろう? 私もあなたも盛ったままなのは幸運ではないか」
「何度も言わせるな、儂は欲情しない。体は若くとも心は熟しているのでな」
マオルはミルフィライトから離れた。一度は惚れた相手だが遥か昔の話。失恋の傷は癒えていないが、それとこれとは別であった。
「つまらん男」
「面白くなる予定はない。それよりもこれからどうするつもりだ?」
「こうして自由になったのだから吸い尽くす。あなたのように心まで老いてはない」
「盛った老人が面倒なことを儂は知っている。ちょっとした隙でも狙ってくるからな」
「それはいい。私の見た目に惹かれた男を味わうまで。想像しただけで胸が高鳴る」
「残酷な奴めが。儂がおまっさんの封印を解いた理由を聞かないのか」
「聞いて心変わりされては困る。それに見当はついている。今度会ったら礼を言ってやろう」
「儂には言わないのか」
「こんなに若々しい姿で言ったら最後、獣のように襲ってくると見た。襲うのは得意だが、襲われるのは勘弁願おう」
「襲わない! 失恋は懲り懲りだ」
「そうか。ならば言おう、助かった」
「やめろやめろ、寒いだけだ。さっさとズラかるぞ。イグラズを向こうに移したままだ」
「早よ戻せ。若い命を乱雑に扱うでない」
「調子のいい奴よ。誰のせいだと……まあいい」
並行世界に移したイグラズを戻すマオル。国そのものを動かせるほどの魔術の恐ろしさを本人は感じていない。巻き込まれる方は迷惑でしかないのに。
「私を導けマオル。私に負わされた失恋の傷を癒したければ」
「とか言って傷を深めるつもりだろう」
「その手もあった!」
「笑顔で感心するな! 年寄りを敬えろ」
「敬えられるようになる方が先」
「おまっさんは鬼だ。儂の恋心を粗末にしよって」
「粗末にしたのはお互い様」
「自分も被害者みたいに言いよって。卑怯め」
マオルは地団駄を踏む。とても千歳の人間とは思えない姿と行動。いや、大人とも思えないかもしれない。
二人は行動を共にすることになった。
肉体と精神の年齢が異なるという共通点に再び引き合わされたのは偶然なのか、それとも必然なのだろうか。
「あなたはショタジジイ」
「なら、おまっさんはロリババアになるな」
「「……却下」」
二人だけにしておくと危ないのは確かだろう。




