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ハヤ・ライナ

 カザトとの稽古を終えて疲労困憊のシロは固まっている。緊張しているわけではない。机に存在している現実から逃げたくて固まっている。


「ちゃちゃっと解いちゃってくれ。かれこれ三十分も固まっちゃってるではないか」


 机に向かうシロの隣で気だるそうに座る少女。黒髪を後ろで一本に束ねており、時折振り回して意識を保っている。


「そんなこと言われたって困るよ。頭使うの苦手なんだから」


「苦手だからこそ勉強をするのではないか。苦手を克服すれば、明るい未来が待っているのだ」


「そんなことで俺は動きません。お菓子で喜ぶ年齢じゃないんで」


「可愛くないのだ! そんなことじゃ立派な大人になれないのだ!」


 黒髪のポニーテールを振り回し頬を膨らませる。グーパンチでシロを軽く叩いて感情を表す。まるで子どものような反応をしているが、実際は十八歳でカザトと同い年。

 シロは呆れるしかない。少女が自分より年上であることが信じられない。先生と呼ばなければいけないのを完全に無視して接している。


「はぁ。ハヤ姉ちゃんこそしっかりしてくれよ。ただでさえ先生ぽさの欠片もないんだ」


「こーら。またそうやってまったく。ちゃんと先生と呼ばないとダメなのだ」


「死んでもお断りだよ、ハヤ姉ちゃん。さらに改めたいくらいだ。ハヤちゃんなんてどうかなぁ?」


「だ、断じて反対なーのーだー! せーんーせーい!」


「……そういうところのことを言っているんだけどなぁ」


「何か言ったか?」


「言ってない言ってない。さて、ハヤ姉ちゃんをからかってリフレッシュしたことだし、もうひと頑張りするか!」


「からかった!? わたしは王子に(もてあそ)ばれていたのか!?」


「変な言い方をすんなよ!」


「ははは! 見事にからかい返してやったのだ!」


 黄色いワンピースを着て仁王立ち。年下をからかって優越感に浸るのはどうなのだろうか。童顔と控えめな胸が年下感に拍車をかけている。

 シロの家庭教師――ハヤ・ライナ。どうして彼女がシロに勉強を教えることになったのか。それは意外と単純だったりする。


※ ※ ※


 王城はとにかく広い。誰も使わない部屋があるくらいだ。掃除をするメイドはたまったものではない。仕事と割り切っても心は折れてしまうはず。そして、心が折れてしまった少女が一人いた。


「もう限界なのだ……死にたいのだ……死のう!」


 メイド服に身を包む少女――ハヤ・ライナ、十六歳。王城の芝生に横たわり現実逃避からの自殺を決意。首を吊るのに最適な木を探すべく立ち上がる。


「なんだなんなのだ! こんなにメイドがブラックだとは思わなかったのだ。誰よりも早く起きなければいけないし、決まった時間までに食事を用意しないといけないし。髪の毛一本、塵一つ残さず綺麗に掃除をしたって誰も気付きやしない。おいしい紅茶を出しても普通の反応しかしない。全く達成感がないのだ!」


 首を吊るのに最適な木を見つけたハヤの目には涙。日頃の仕事に対する感謝がないことが悔しくてたまらない。ただでさえ難関なメイドの試験に必死に勉強して合格し、メイドの憧れである王城に仕えることができたのに辛いだけ。

 風魔法で浮いてひもを木に結ぶ。首を吊るわっかを見つめて深呼吸。意を決して人生に終止符を――。


「そこの君、何やってるんだ」


「……死のうと……ダメ?」


「君が自分の命をどうしようが勝手だ。だが場所を考えてほしい。ここは王城なんだ。王城のメイドが首を吊ったとあらば国中が大騒ぎになる。誰かの迷惑になる死に方は歓迎できない」


「ほっといてくれ! こうでもしないと誰もわからないのだ! 毎日どれだけメイドに支えられているのか!」


「要は自分の頑張りを認めてほしいんだな」


「だったら悪いか! わたしは死んで認めさせてやるのだ!」


 ハヤが首を吊ろうとした瞬間、木に結んだひもが地面に落ちる。ハヤは視線をひもから人に移す。視界に映る少年は欠伸をしている。


「悪いけど阻止させてもらったぞ。夢見が悪くなるし、目覚めが悪くなる。第一パンツ丸見え。俺にパンツ見られながら死ぬのは恥ずかしい――」


「この変態いいいい!!」


 ハヤは思わず蹴りを変態の顔面に炸裂させてしまう。変態は宙を舞い地面に叩きつけられた。


「ご……ふ……!?」


「ごめんなのだ!!」


 ハヤは変態を膝枕して介抱する。その目には涙。

 変態はそっとハヤの涙を指で拭い微笑む。漆黒の瞳は優しくハヤを見つめている。


「死ぬには惜しい。メイドになるため懸命に勉強したはずだ。憧れと現実のギャップが苦しいことも、誰かに認められたい気持ちもわかる。君には違う道があるはずだ。死ぬ以外の道が……きっと」


「あなたは、いったい……?」


「俺はカザト。元・近衛騎士で今は剣の先生をしている。近衛騎士は三ヶ月で辞めた。規律だなんだと堅苦しくてね」


「違う道……」


「メイド以外で認めてもらう方法はある。例えば、家庭教師とか。ファルスの王子は手強くてね。最近も家庭教師が逃げたんだ」


「家庭教師、かぁ」


 このカザトとの出会いがきっかけでハヤはメイドを辞め、家庭教師として王城を出入りすることになった。現在、シロの家庭教師として一番長続きしており認められている。まぁ、シロの成績は伸び悩んでいるのだが。

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