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さらばファルスの王子

 四大精霊を憑依させたシロは怒涛の攻撃をしてみせた。絶対無敵と思われた魔王を完全に圧倒してみせ、思わず浮かべてみせた笑みが余裕であることを覗かせる。


「お、おのれー!」


「なんだか俺、生まれ変わったみたいな気分なんだ。魔王の呪縛から解き放たれたからなのか、四大精霊と共に戦えているからなのかはわからないけどよ。今ならなんでもできる気がする。なんでもな」


「調子に乗ると命取りになることを知るがいい」


 灰色の魔力が魔王の頭上に現れ膨れ上がっていく。とても巨大で異質で不気味な塊。魔王の目は血走っており、シロを見下ろし見下すべく宙に浮かぶ姿は脅威で恐怖の塊だ。

 だが、見下されているシロは笑みを絶やさない。余裕たっぷりに腕を組んでみせ、なんならと欠伸をし、やってみろよと顎を出す。完全に挑発している。


 魔王の怒りのボルテージは高まりすぎた。シロに向けるは憎しみの視線のみ。ただただ殺したいという衝動をぶつけるだけ。魔力の塊を放つ顔は醜く歪んでいた。


「死ねええええ!! この世界ごと消えてしまえええええ!!」


 魔力の塊が落ちてくる。まともに喰らえば命はない。それをわかっていてもシロは笑みを絶やさない。


「まったく。拍子抜けだよ、こんなの。もっと魔王の力を見せてくれちゃってもいいんだぞ」


 シロは面倒そうに魔力を放出すると、片足で魔力の塊を蹴り上げた。


「なっ!? いったい何をした!!」


 自分に向かって返ってくる魔力に魔王は驚きを隠せない。どんなことをしても無駄なはずの、魔王としての全てを込めた攻撃なのにと。


「俺の方が強いってことだよ。どう? 馬鹿みたいに見下していた相手に負ける感想は」


「ふざけるな! 我が人間に、精霊に負けることなどあり得ん!」


 再度魔力をシロに当てようと力を込める魔王だが、完全に力負けしていた。視界が灰色に染まる。

 シロは欠伸をするしかなかった。あまりのあっけなさに。そして同時にムカついていた。他でもない自分自身に。こんな奴にファルスの命を奪わせてしまったことを責めた。


「こんなんじゃ王子失格じゃないか。ごめんよ、みんな。もう恐れることはないようにするから」


 伝説のひと振りが虹色に輝く。腕を組んでいたシロは剣を掴み、魔力の塊と魔王を斬った。


「こ……こんな……ああああ!!!!」


「うるさい断末魔だ。死ぬときくらい静かにしろよ」


 魔王の死を見届けたシロの目は冷たい。死んで全てを償えるわけではないのだ。


『終わったんだな、戦いが』


『少し、少しは見直したわ』


『シロ、お疲れ様』


『終わった、終わった』


「いや、まだ終わってない。まだやることがある。今の俺ならなんでもできる」


 白世界樹の精霊術師となったシロに不可能はない。どんなことでもできてしまうのだ。

 虹色に輝く剣を天に掲げ、静かに想いを口にする。一人の人間として、王子として、精霊術師として。十六年生きてきた中での本音、謝罪、感謝を。


「今度は平穏無事で頼むよ。誰もが明るく元気でいられる国を築いてくれ。みんな……元気で!」


 ファルスに虹色の魔力が雨のように降り注ぐ。

 一度は失われた国と命が舞い戻る。そして人々の記憶から悪夢が消された。余計な苦しみは不要なのだから。


 シロは満足そうに頷く。悔いはいっぱいあるけれど、それが選んだ道だと飲み込む。

 シロが選んだ道は、この世界から消えること。とは言っても実際にいなくなるわけではない。世界から、シロ・ユグドラシルに関する全てが消えるのだ。


『いいの? シロ。みんな忘れちゃっても』


「その方がいいんだよ。魔王は油断ならないからな。なんかの拍子で復活するかもわからないだろう。万が一、億が一のための予防だ。そんな顔しないでくれよ、シィ」


『だって! せっかくシロが死なずに済んだのに……! やっとフィリウスに想いを伝えられたのに……!』


「俺とフィリウスが両想いだとわかっただけで十分だよ。あんなに可愛くて、花に負けないくらい笑顔が素敵で、なんだかんだ献身的で、俺にはもったいないよ」


『その言葉、本人に言ったら。王子なのに不器用で情けない』


「ウンディーネはキツいなぁ。軽々しく言うもんじゃないだろう。口説き文句って」


『シロの顔、赤い、赤い』


「ノームは鋭くて敵わないや。俺も見習おう」


『で、これからどうすんだ? 四大精霊はどこまでも付き合うぜ』


「苦労してたんだから自由にしていいのに。そんなこと言われたら甘えたくなっちゃうじゃないか。責任取れよ、サラ」


 元に戻ったファルスを見て安心したシロは、四大精霊とどこかへ行く。かつて精霊の声が人々に届いたことを思い出し、「今までありがとう」と言葉を残して。シロに関する全てが消えた世界に声は届いたとしても、それがシロの声とは誰もわからない。

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