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白世界樹の精霊術師

 暗い空間を抜けると、白い花が絨毯のように咲き誇る場所に出た。立派な白い大木の圧倒的な迫力が場を鮮やかに引き締めている。


「あれ?」


『あれじゃないでしょうが。なーに戻ってきちゃってるのよ』


 シロの目の前に現れたのは、堕天使でユグドラシルの守り人であるカムア。


「堕天使がいるってことは、俺は死んだのか」


『ここはあの世じゃないって言ったわよね。お前は死んでないから安心なさい』


「安心できるわけないだろう。精霊たちに協力してもらってきたんじゃないんだ」


『普通じゃないってことは確かなようね。あの世はパニックで処理が追いついてないもの』


「実は、俺の国で魔王が暴れちゃってさ」


『やっぱりそうか。魔王の転生者はお前だから、魔王の魂はとっくに消滅してるの。だけど、魔王は四大精霊に倒され絶命する直前に魂の欠片を残していた。どっかの誰かさんがユグドラシルを切り倒したりしちゃったもんだから、消滅しかけていた魔王の邪気が下界の欠片に引っ張られてしまい魔王が復活してしまったわけね』


 カムアがシロに呆れた視線を向ける。生きながらにしてあの世や神様、堕天使を困らせる者など前代未聞だからだ。


「ユグドラシルを切ったことは悪いと思ってるよ。本当に反省してる!」


『まったく! そういう顔をすれば許してもらえることをわかってるようね』


「そんな言い方されたら、俺が計算高い奴みたいじゃないか!?」


『それが計算じゃないとしたら、お前は罪な男だわ。この天然ジゴロ』


「天然……なんだって?」


『うっさい。アタシと話してる場合じゃないでしょうが。早く戻って魔王を倒しちゃいなさいよ』


「魔王なら倒したはずだ。俺ごとサラが攻撃したからな」


『残念ながらそれはないわ。魔王の魂はあの世にいない』


「そ、そんな!? カザト兄ちゃんやヒラ姉ちゃん、四大精霊だって歯が立たないのをやっとこさ相手にしたってのに。俺は結局弱いのかよ!」


 魔王を追い出したことで本来の実力を発揮できると思っていた。魔王の攻撃が自分に効かないことで確信に変わり思い上がってしまった。これまでの反省など吹き飛んでいたと、シロは奥歯を噛み締める。


『女々しいとこがお前の悪いところ。後悔してる時間こそ無駄だわ。四大精霊に選ばれたんだから胸を張りなさい』


「選ばれたわけじゃないよ。俺の魔王化を防ぐためなんだ」


『ばっかじゃないの! あのね! ただ魔王化を防ぎたかったんなら、寝込みを襲ってさっさとお前を殺してるっての!』


 ――パチン!

 シロの頰に伝わる痛みと熱さ。後ろ向きな考えに動いていた脳が強引に引き戻される。頰を叩いた反動で揺れ動くカムアのポニーテールにシロの心は見事に奪われた。


「いったー」


『目は覚めた?』


「覚めたし奪われたよ。さすがは堕天使」


『意味わかんない。寝言は寝て言うことね』


「それもそうだな。安心して寝るためには悩みを晴らさないといけない。俺、もうちょっと頑張ってみるよ」


『死ぬ気で頑張んなさい。死んだら容赦しないけど』


「おっかないエールどうも。神様と一緒に祈っててよ」


『死ぬ気で祈ってあげる。それとこれは餞別(せんべつ)だわ』


 カムアは、ユグドラシルから生み出された伝説のひと振りをシロに渡した。


「なんでこれが?」


『お前がぶっ刺した剣が新たなユグドラシルになって、新たなユグドラシルが新たな剣を生み出した。どうしてもお前に受け取ってほしいみたい』


「物好きな大木なこった。ありがたく受け取るよ、ありがとう」


 シロとカムアは二度目の別れを交わし、シロの魂は下界へと戻っていく。


 自分の体に戻ったシロの視界に入ってきたのは、懸命に治癒を施してくれている涙目のシィだった。


『シロ……シロ……死んじゃダメ!』


 シィが無事だったことにシロはホッとした。治癒の風に包まれて気持ちよくなり心も温かくなる。それから気配を探り、他の精霊も無事なことを確認した。


「ありがとう、シィ」


『シロ! 良かった!』


 シィはたまらず抱きつく。シロの胸に顔を埋めて喜びを表す。シロがお礼の気持ちを込めて頭を撫でれば、さらに強く抱きついてみせた。


「あはは。そんなに俺を心配してくれてたなんて思わなかったよ」


『シロは鈍感。精霊の心も虜にするなんて』


「鈍感、か。魔王に言われたことをそのまま鵜呑みにしてシィたちが無事なことに気付けなかった俺は鈍感だったな」


『そっ、そういうことじゃないんだよ』


 シィが頰を膨らませて不満そうな反応をみせるが、シロは全く気が付かない。そういうところが鈍感なのである。


「よし、みんなが無事なら勝機はある! 不思議とそう思えるんだ」


『どうするの?』


「えーっと」


 シロがシィに作戦を伝えると、作戦を聞いたシィは期待と不安を抱くが飲み込んだ。悩む時間がないのも背中を押す。魔王が怒りを露わにしていたのだ。


『たかが人間風情が! たかが精霊風情が! 魔王である我に傷を負わせたことを後悔させてやる!』


 灰色の魔力の塊の雨あられがシロに浴びせられる。地形はどんどん変わっていき大きなクレーターができるもののシロは無傷であった。

 魔王の表情は硬い。少年のとも王子のとも違う風格を纏ったシロが立っていたからだ。


「どうした魔王、もっと攻撃してみろよ」


『な……何者だ……!?』


「俺はシロ。たかが人間でファルスの王子、そして――白世界樹の精霊術師だ!」


 四大精霊を憑依させたシロは、白剣を片手に殺気を放つ。それだけで魔王は動けなくなってしまう。

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