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崩壊のファルス

 シロの魂は肉体へと戻る。体に稲妻が走ったような衝撃と共に目を開くが、飛び込んできた光景に思わず息を呑んだ。


「いったい……何が……」


 平穏とはかけ離れた光景が広がっていた。

 見慣れた街の面影は全くない。巨大な生物が暴れ破壊したかのような、天変地異が起きたかのような、すっかり変わり果ててしまったことにシロは頭を抱えた。


『一人で絶望してんじゃない。しかし悪い。あまりに突然すぎて即座に反応できなかった』


「サラマンダー、説明してくれよ」


『今のが説明だ。精霊でも即座に反応できないのが現れやがった』


「いったい誰がこんなことを!」


『魔王だ。かつて倒したはずの魔王だ。どういうわけか復活なさっちまったんだ』


「魔王だって!?」


 シロの頭はパニックになる。魔王の転生者である自分は無事で、魔王の邪気は消滅したはず。それなのになぜだ、と。


『なんか心当たりないのか』


「心当たり……まさか……!?」


『んだ?』


「俺、ユグドラシルを切っちゃったんだ。その影響がこっちにも起きたってことか」


『なんとまあ罰当たりな。じゃあなんだ、完全に消滅する前に魔王の邪気がこっちにきちまったってか。冗談はよしてくれっての』


「それしか考えられない。だとしたら俺の責任だ。崩れた世界のバランスは元に戻したのに」


『どうする。魔王の相手をするのは骨が折れるぞ』


「骨折で済むなら安いもんだよ。国民は大勢死んでしまったんだよな。俺が死なせてしまった」


『死なせたのは魔王だ』


「同じだよ。俺がやらなきゃダメなんだ」


『なら精霊の力を使いな。魔王と完全に離れたのなら、精霊の力を極限まで引き出せる』


「ごめんサラマンダー」


『サラでいい。うまく使えよ』


「自信ないや。全力でサポート頼むよ、サラ!」


 シロとサラが呼吸を合わせる。

 髪と瞳を赤く染めたシロが威風堂々と佇む。強い殺気を放ち敵を刺激する。


「さっさと出てこいよ、魔王! 俺と戦いたくてしょうがないんだろう!」


 何度もルリやリミリア、フィリウスと歩いた街は空虚な姿に寂しく変貌を遂げている。

 シロの怒りがふつふつと沸く。冷静でいようと思えば思うほど怒りを増幅させていく。


『気を付けろ、おいでなすった』


「ああ」


 シロが赤い瞳で鋭く睨む先に魔王はいた。

 かつて四大精霊によって倒されたときと同じ姿した魔王は、灰色の髪と瞳を見せつけるように佇んでいる。


『ようやく現れたか、我の分身よ』


「お前の分身になった覚えはない! ずいぶん好き勝って暴れやがって!」


『こうして再び降臨したのだ。挨拶でもしないとと思ったまで』


「ふざけやがって! ちっ! 国を――ファルスそのものを滅茶苦茶にしたのか!」


『肩慣らしに潰したまで。次は大陸全土を消す』


「俺が黙って見てると思うか! お前から解放された今、俺は全力が出せるんだ」


『魔王に対して一人で敵うつもりか。馬鹿も休み休み言うことだ。さっきまで相手をしていた奴も大したことはなかった。あんな剣、避けるまでもなかったな』


「……それって……!?」


『拳に自信があったのか知らんが生意気な女も同じだ。口は達者だったがあっけなかった』


「……カザト兄ちゃんとヒラ姉ちゃんを! 許さない!」


『大きく出たな分身め。我に敵うことはない』


「やってみなきゃわからない! 俺には四大精霊がいるんだ。負けるわけがない!」


 サラの火を纏ったシロは真っ直ぐ魔王へ向かっていく。触れれば軽傷では済まない火の魔法を次々に放ち、魔王に攻撃と逃げる隙を与えない。


『ほほう。さすがは我の分身ということか。悪くはなかった』


 シロとサラの攻撃を受けてもなんともない魔王。腕を組んで余裕の態度をとっている。


「サラ、全く効いてないぞ」


『これはヤバい展開だ。あのときよりも強くなっていやがる』


「そんなことは聞きたくなかったよ。こりゃあ死ぬ気でやらなきゃいけないな」


『無駄なことを、そして鈍感な分身が。他の精霊がどうして見当たらないのか不思議に思わないのか』


「どういうことだ」


『察しが悪い分身だ。水、風、土の精霊は我が殺したのさ。あまりのあっけなさに眠くなったがな』


「ウンディーネ……シィ……ノームを!? どこまでも腐った奴だ!」


『なんとでも言え。精霊と同じ場所に行けるか知らないが、すぐあの世に送ってやろう』


「そう簡単に死んでやるもんかよ。少なくとも俺だけで死んではやらない」


『シロ、気合い入れろ。気を抜けば、あっという間に殺される』


 シロとサラが集中しようとするが、戦場のピリピリとした空気が肌を不快にさせてくるため思わず舌打ち。

 魔王は灰色の塊を放ってきた。邪魔をするのならば容赦しないという表れであり、絶対的な余裕の表れでもある。


「くっ!」


 魔王の攻撃は一撃一撃が重く、避ける余裕がないほど素早い。なんとか致命傷を負わないよう防ぐのが精一杯。


『大丈夫か!?』


「大丈夫と胸張って言えたらいいんだけど。まったく、あれは反則だろう」


 シロは魔王に対して手も足も出なかった。せっかくサラの力を使うことができたというのに、自分の無力さを改めて感じてしまう。


『もう終わりのようだな。くたばれ分身よ』


「ちくしょう!」


 自分に向かってくる灰色の魔力の塊に固まるしかないシロ。あまりの実力差に目を閉じてしまう。


『諦めちゃダメだろうが!』


 シロの体から出て、火の壁を張り攻撃を防ぐサラだったが、それは気休めにもならなかった。あまりに簡単に壁は破られダメージを負ってしまう。


「サラ!?」


『……戦いに集中……げはっ!』


『無理をするなサラマンダー。今、楽にしてやる』


 魔王がサラに近付いていく。

 四大精霊としての誇りを胸に魔王から目を逸らさないサラ。魔王は小さく笑いサラの髪を掴む。


『ああああ!』


『痛みはすぐに引く。死ねば全て終わりだ』


「――ひどい。そんな野蛮なことをしてはダメ。ワタシの友達に乱暴しないで!」


 目を閉じた少女が悲しげに佇む。戦場に咲く一輪の花のように儚げで、それでいて力強くも見える。

 魔王はサラの髪から手を離し、信じられないといった驚きの表情を少女に向けた。


『なぜだ……そんなはずは!?』


「ワタシは不老不死なの。あのときのようにはさせない。もう悲劇はたくさんだから!」


 少女――リミリアは、力強く目を開いた。

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