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伝説の居場所

 剣を握る手が震える。説明できない恐ろしさに手を離そうとしたが、どういうわけかできなかった。

 ならば剣を引き抜くしかない。これは試練と割り切り力を込めた。


「うぐー!」


 両手でしっかりと握り、引き抜こうと引っ張る。

 伝説の剣といっても見た目は普通の片手剣である。これが大剣ならば苦労するだろうが、片手剣ならば楽に抜けると踏んでいた。


「くううううっ! おりゃああ!」


 だが、その考えはすぐに改められた。いくらやっても抜けない。それどころか少しも動かせない。

 次第に疲れが見え始め、汗が流れ不快感に襲われる。集中力が切れているのを自覚してしまう。


『抜けないの? アタシを殴り倒した根性はどこいったのかしら』


「全く手応えがない。手の感覚がなくなってきたよ。俺には抜けないのかも」


『諦めちゃうわけ。せっかくユグドラシルに選ばれたっていうのに。情けないったら情けない。こんな奴にアタシは負けたのね』


「ユグドラシルが勝手に選んだだけだ。俺に非はない」


『なんて罰当たりなことを。ユグドラシルがどんだけ偉大で神聖なものか』


「堕天使が言えた口かよ。とにかく俺は諦めた。そーら諦めた。無理やりにでも離すよ」


 強引に剣から手を離すと力尽きて倒れてしまう。放っておけば寝てしまうくらいに疲れているのは一目瞭然だった。


『シロくん、降参するですか』


「君も俺に意地でも抜いてほしいのか」


『わたしはそこまでじゃないです。望まない人に抜かれるのは不本意です』


「話がわかる神様で助かるよ。じゃあ俺はおさらば……ぐぬぬ……やっぱ抜いてやるよ!」


 剣に対して背を向けたシロだったが、ここで投げ出すことが本当に正しいのか苦悶する。

 この世の中に全てを完璧にこなせる人がどれだけいるのだろうか。少なくともシロは違う。勉強も運動も苦手で、国を背負うにはまだまだ足りない王子である。


『どういう心境の変化なの? コロコロと忙しい』


「俺は気分屋なんだよ。構われるよりも構いたい派なんでね」


『勝手なだけじゃない。それに気分で抜けるほど安い剣じゃない』


「かもなぁ。けど、適度に肩の力を抜いた方がうまくいくかもしれないだろう」


 シロは再び剣を掴み、深呼吸をして肩の力を抜く。

 視界からの情報を目を閉じて遮断し、剣から流れてくる感情に耳を傾ける。


『シロくん、大丈夫ですか』


「……うん。今度はうまくいきそうだ」


 根拠のない自信が湧いてくる。

 誰かに背中を押されているかのような不思議な感覚に目を開き、一気に剣を引き抜いてみせた。


『うっそ!?』


『やったです!』


「抜けた! 俺、伝説の剣を抜いたんだ!」


 喜びのあまりに剣を振り回すシロ。片手で軽々と得意げにカムアとネルガに披露している。


『調子がいい奴だね、まったく』


『苦労して抜いたです。嬉しいのは当たり前ですね』


「この剣扱いやすいなぁ。これはいい」


『気に入ってもらえてユグドラシルも喜んでいるでしょうねー』


「なんだなんだ。もしかして堕天使も剣がほしいのか?」


『アタシには自分の剣があるからいらない。ただ、守り人をやってあげてることを少しは考慮してくれてもいいんじゃないかなーって』


「堕天使がよく言うよ。見返りを求めるのは違うんじゃないか」


『うっさい。言われなくてもわかってるわよ』


「理解ある堕天使で助かったとユグドラシルも思ってることだろう。それにしても軽い軽い。ちょいと強く振ってみるか。おりゃ!」


 ――バリバリバリ!!


「ありゃりゃ……やっちまった」


『ああああ!?』


『はわわわわ!?』


 シロが振った剣から放たれた斬撃によってユグドラシルが切り倒されてしまった。

 ドスンという音と、地震かと思ってしまうほどの揺れに三人は膝をつく。


「ごめんごめん」


『謝られたって困るっつーの! ユグドラシルを切り倒すなんてあり得ない!』


 ユグドラシルが瞬く間に消滅。同時にそれは世界の崩壊を意味していた。

 絨毯のように咲き誇っていた花が一斉に枯れ、明るかった空は真っ暗に。どう見ても普通ではない。


『カムアちゃん、逃げるです! 嫌な予感しかしないです』


 ネルガが白い盾を呼び出し構える。

 ただならぬ異変にシロは頭を抱えた。自分が起こしてしまったのは明白で、それによって二人に迷惑をかけることになってしまった。


「神様、堕天使。俺、どうしたらいい」


『お前はさっさと帰りなさい! 人間がどうこうできるわけないでしょうが』


『わたしに任せてです。自分が託した剣で切り倒されてユグドラシルは驚いちゃったかもですけど、怒ったりはしてないですよ』


「でもこの状況は!?」


『ユグドラシルという栓がなくって、あの世から悪い魂が溢れちゃうようです。でもわたしは神様です。なんとかしてみせるです』


 どこからともなく悪の魂がやってくる。

 堕天使であるカムアを頭痛が襲う。ネルガがカムアに逃げるよう言ったのは、堕天使ということで悪の魂に引っ張られてしまうことを危惧していたからであった。


『これ以上……堕ちて……たまるもんか!』


「堕天使!」


『うっさい。意地でも役に立ちたいのなら……アタシを刺しなさい。どうも踏ん張れないみたい』


「そんなことできるかよ!」


『これ以上の害を増やそうっての! 責任感じてるなら刺してみせろ!』


『カムアちゃん!?』


『ネルガ、ちゃんと集中して。神様なら堂々と構えてなさいよね』


「俺は! 俺は!!」


 シロは剣を構え、覚悟を決めて駆けていく。

 白い剣はシロの感情に呼応するように輝きを放つ。その輝きは振られることで残像を残す。


『お前、何をやってんの!?』


「決まってるだろう。悪霊退治だ」


 シロの舞うような剣技で悪の魂が祓われていく。

 しかし次から次へと魂はやってくるためキリがない。


『今のシロくんは魂だけの存在です。悪気に引っ張られちゃうです』


「心配ご無用。魔王と比べればなんでもない」


 ユグドラシルがあった場所に剣を刺すと事態は一変。悪の魂はあの世へ戻り、白い花の絨毯が咲き広がったのだ。


『なんで? ユグドラシルはもうないのに』


「ユグドラシルの伝説の剣なんだ。もしかしたらと思って刺してみたが正解だったようだな」


『でもそれって』


「俺には無用の産物だったのさ。俺の目的は果たされてるし構わないよ。迷惑かけたことは謝る。堕天使、神様、助けてくれてありがとう」


 シロは二人に笑顔を見せて帰っていった。

 カムアとネルガは脱力して座り込む。お互いに顔を見合い、たった一人の人間に振り回されたことに笑い合った。

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