ユグドラシルの守り人
魔王の影響でユグドラシルに触れなかったのだが、ネルガとキスをしたことにより触れるようになったシロ。しかし、さすがのネルガでもどうすることもできない壁とぶつかってしまう。
二人してユグドラシルを見上げる。体育座りをしながら待っている。ユグドラシルの果実が生ることを。
「まだかぁ」
『まだです。待ってれば生るです』
「もうどんだけ待ったかなぁ」
『三時間くらいですね。気長に待つです』
そんなに現実は甘くなかった。ユグドラシルにはユグドラシルのペースがある。そこを急かすのはお門違いである。
体育座りからあぐら、次第に横になってシロは眠り始めてしまう。寝ている間に生っているだろうと期待をしつつ。
「ふわぁ~。どうだ?」
『まだです。まるで変化ないです』
「な、なんですと!? いつまで俺は待ってればいいんだよ! こうしてる間にも俺の体は好き勝手されているのに」
『焦りは禁物です。時間はたっぷりあるから、筋トレでもしたらどうですか』
「魂だけの状態で筋トレしても意味ないだろう」
『そんなことはないですよ。やることに意味があるです』
「これは困ったな。戻った頃にはみんな老けてましたは嫌だぞ」
『わたしにはどうすることもできないです。ユグドラシルはすごいですからね』
「神様が言うとすごく聞こえるよ。はぁ、俺と同じユグドラシルって名前なら、なんか特別な反応とかあってもいいと思わないか」
『そういう奇跡が起きたら苦労しないですね。ユグドラシルの果実、すごくおいしいと聞いてるので食べてみたいです』
「最後に果実が食べられたのは何年前だ?」
『うーんとですね……十年前でしたっけ』
「十年!? そんなに待ってられないよ。十年あれば色々できるよ」
『そうですよね。時間は有限です』
「なんとか死ぬ以外の方法がないかと必死になって、どうにかここまできたってのに。体を鍛えることができないし、勉強するにも教材がない。死んでいるのと変わらない」
『そんなことはないですよ。死んでは何もできないです。こうして会話することも。違いますか?』
「そう言われちゃうと、返す言葉がない」
『帰れる望みがあるだけで幸せです。十分恵まれているです』
「神様が言うと重いな」
シロは気持ちを切り替えてユグドラシルに触る。自分の想いを送ることだけでも心持ちが違う。
すると、シロの想いに呼応するかのようにユグドラシルが金色に輝く。
『これは!』
「えっ? 俺、なんかやっちゃったのか!?」
ユグドラシルの輝きは一本の枝に集まっていく。そして丸く形成したかと思うと、金色の果実が花の絨毯に落下した。
『シロくん』
「これがそうなのか」
『そです。お待ちかねの果実です』
「そうか、じゃあ早速食べさせてもうよ。切るものないし丸かじりでな」
シロは果実を一口食べる。口の中に広がる甘さに目を丸くしつつ、ネルガに実を渡す。
ネルガも果実を一口食べて笑みを浮かべ、感動のあまりに涙を流した。
『わたし、悔いないです』
「オーバーだなぁ。これで俺から魔王成分は抜けたんだな」
『はい、完全に抜けたはずです』
「そうか。短い間だったけど世話になったよ。それじゃあ帰るか」
『待ってです。ユグドラシルが呼んでいるです』
「はい? 木が喋るわけない……だろう……!?」
シロが今一度ユグドラシルを見る。そこにはさっきまでいなかった少女が立っていた。
『タダ食いはダメみたいですね』
「あれ、ユグドラシルだってのか」
『正確にはユグドラシルの守り人です。堕天使なんですよ』
「神様の次は堕天使かよ。俺、死んでないんだよな」
シロは腰が引けてしまう。少女が殺気を放っており、その手には黒剣が握られている。
『カムアちゃーん、手加減してあげるですよー!』
「ちょっと待ってくれ神様。誰も戦うだなんて言ってないぞ」
『ダメですよシロくん。カムアちゃん、一度決めたら引かないです』
「そ、そんなぁ~」
今のシロに対抗策はない。丸腰である。魂だけの状態で痛みがあるかもわからない。冷や汗を流して目を泳がせることしかできない。
堕天使少女――カムアは軽く舌打ち。紫色の瞳でシロを捉えて離さない。
『いつまでそうしているつもり? 男ならシャキッとしなさいよ。棒立ちのままで斬られたいの?』
「そんなわけないだろう。誰が簡単に斬られてやるもんか」
『へぇ、なら見せてくれない? 少しは楽しませてよね!』
殺気を放ちながら笑みを浮かべ駆け出すカムア。
シロは動けない。カムアの強気な感じがフィリウスと重なってしまい首を振る。
「ここで頭に浮かべるとはなぁ。負けて帰るのも後味悪いもんなぁ。しゃあない、やるか」
気持ちを切り替えて構えるシロ。カザトとの稽古の成果を出すべく気合いを入れた。




