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苦渋の決断

 シロはムロと電話をしていた。シロのことを気にしてムロが連絡をしてきたのだ。


「アノンをなんとかしてあげられないかなぁ」


 自分より年下であるにも拘らず王をするヨウに、シロは会ったことがないのにシンパシーを感じていた。

 もし自分が王の立場で同じ目に遭ったとしたら、きっと耐えられない、と。


 死者を生き返らせることができるムロならば……。

 シロの脳裏に浮かぶのは、ゴッツィズの件での頼もしいムロの背中。

 しかし、そんなシロの期待をムロはバッサリと切り捨てた。


「オレたちは、お人好しかもしれないが善人じゃない。なんでもかんでも救っていたら自分自身を滅ぼすことになる」


「悪人だってこと?」


「そうじゃない。中途半端なお人好しで関わるなってこった。優しさは時に毒になる。そりゃあ全部を救えるなら救いたい。だが現実は甘くない。日々、世界中で何人も亡くなっているけど、お前は全員を把握できるのか? どんなに優秀な奴でも全員は無理だ。一部だけを生き返らせて気が済むのか? そんな自分勝手に命を扱う方が酷だとオレは思う」


「でもムロ兄ちゃん、あのときは!?」


「武装石はオレも関係していたからだ。オレは、中途半端なお人好しで身を削ったりしない」


 ムロの言葉がシロに突き刺さる。誰かを救うことになんの疑いも持ってこなかったため、時に突き放すことが優しさとは思っても見なかった。


「ごめん。なんか悪かったよ」


「なんで謝るんだ。誰かを助けたいってのは人として当然だろう。突き放すことを選ばせているオレが謝るならわかるがな」


「……アノンの王は生きているのかなぁ?」


「さぁな。誤解を招く言い方になるが、国と一緒に死んでた方が幸せかもなぁ。苦しまなくて済む」


「でも俺は生きていてほしいと思ってるよ」


「そいつは酷な願いなこった。やっぱオレたちは善人じゃないな」


「……そうかも。ムロ兄ちゃん、連絡ありがとう。おかげで気が楽になったよ」


「役に立てたのなら良かった。またそっちに行くから、そんときはよろしく頼む」


「うん。楽しみに待ってるよ」


 受話器を置いたシロは胸に手を当てる。突き放すことに納得したのか自問自答。

 都合のいい世界なら誰もが歩みを止める。生きていれば何度も苦渋の決断を迫られる。その決断が正しいかは決断しなければわからない。


『世の中は理不尽だらけ。だからこそ人は足掻くんじゃない?』


「シィ……。そうか、俺は少し傲慢になっていたようだよ」


『ボクはシロの決断を尊重する。完璧な世界がないように、完璧な人間もいないんだ』


「そう言ってもらえると心が軽くなるよ。でもさ、完璧を目指すのは構わないよね。理不尽がないに越したことはないもん」


 シロは静かにアノンの冥福を祈る。

 お人好しな王子の声は、あの世にきっと届いていることだろう。


* * *


「ったく。たまにはコーヒー以外も出してくれ、親父」


「わがまま言うな。数少ない楽しみを奪う気か」


 帰宅したガントに差し出されたのはコーヒー。しかも無糖。ダイレクトに苦みとコクが舌に伝わる。

 口を尖らせるガントの言葉をかわしてコーヒーを味わう男性は幸せそう。茶色い髪を靡かせ喜びを表す。


「親父の国がなくなったんだぞ。悲しみとかないのかよ?」


「全くない。父さんが逃げ出すほどの国だぞ。これっぽっちも湧かん」


「うわぁ……。それを聞いたら、親父の兄貴と甥っ子はどう思うかねぇ」


「知らん。わがまま放題に国を動かした奴のことも、そんな奴に捨てられた挙句、抹殺師を騙っていた奴のことも。あの世で親子仲良くしていることだろう」


「血も涙もないのか!?」


「父さんの血も涙もコーヒーでできているんだ。決して王族の血なんかじゃない。数十年前に抹殺師という負を生み出した王族の血なんかじゃない」


「さすがは、アノンを逃げ出した第二王子。今やコーヒーを飲むのが幸せな人は言うことが違う。負には負をだと、抹殺師の力を奪って改良した人は言うことが違う」


「ふん。父さんが王になっていたらお前は王子だ。想像できるか? アノンが生み出したものをアノンの人間が壊して何が悪い」


「想像したくない。俺がヨウの立場なら死を選んじまうけど、あいつは前を向いた。同い年だけど尊敬する。悪いかどうかは俺に聞くな」


「尊敬に歳は関係ない。それより伝えたのか?」


「言えるわけないだろう。『俺とあんたは親戚だ』なんて」


「愛想がないところなんか誰に似たんだか」


「俺の目の前でコーヒーを飲んでいる親父でーす」


「どこがだ? 髪と瞳の色は母さん譲りだろう」


「とくにこの目付きだ。この吊り目のせいで俺がどんなに辛い思いをしてきたことか!」


「いいじゃないか、強そうで。面倒な奴が近付くことがない」


「ふざけるな。おかげでぜんっぜんダチができやしない」


「焦らなくてもそのうちできる」


「はぁ。抹殺師を続けているうちは無理かも」


 ガントは年頃の悩みとコーヒーの苦みを体に流し込み「苦い」と一言呟いた。

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