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闇を背負う者

 本物の抹殺師とガントが言い放つ。

 隊長の動きを魔術でガントが封じたので心に余裕ができたヨウは、インの亡骸を抱きしめたまま立ち上がりガントに視線を移す。


「あなたはいったい?」


「俺はガント。何度も言うが抹殺師だ」


「本物の、とはどういう意味?」


「どうもこうもない。俺のリストバンドは紫色だけど、隊長含めた抹殺師のリストバンドの色は黒だ。紫色が本物のリストバンドなんだ」


「そう言われても……自分にはわからない。あなたも彼も怪しいよ」


「ま、そうだろうなぁ。」


「おい! 俺を無視するとはずいぶんと舐めたことを!」


 隊長がガントとヨウを睨む。ガントの魔術で動きを封じられているのにも拘らず。伊達に抹殺師の隊長をやってはいないということだ。


「へぇ、俺の魔術を受けても動けるなんて。大人しく金縛ってくれてりゃあ痛い目に遭わずに済んだのに」


「痛い目、だと? 意気がるのもいい加減にしろ。ガキが背伸びをしたところでたかが知れる」


「意気がってるだけなのか試してみるか? あんたを料理するなんざ朝飯前だ」


 ガントは魔術を強めるが、隊長は負けじと魔力を高め反抗。魔方陣を展開して二人をまとめて氷漬けにしようとする。


「凍ってしまえ!」


 魔方陣の輝きと共に氷が具現。戦い慣れているガントは瞬時に反応して避けることができたが、戦闘経験が乏しいヨウは避けられない。ほんの一瞬が命取りになってしまう。

 ヨウは死を覚悟して目を閉じた。インの亡骸を強く抱きしめながら。


「なーに勝手に覚悟決めてんだ。そう簡単に死ねると思ったら大間違いだ」


 氷を具現していた魔方陣が消滅。ヨウは九死に一生を得た。

 魔方陣を消滅させたのはガント。隊長の戦法に呆れて髪を掻いている。


「ま、魔方陣が!?」


「あんたは馬鹿なのか。俺がさっき魔方陣を消したの忘れたのか」


「ちっ! 魔法がダメならこうだ!」


 隊長の姿がパッと消える。魔術で体を透明にしたのだ。何も見えないほど厄介なことはない。隊長は誰にも見えない笑みを浮かべる。だが、どんなときでも油断は禁物ということを忘れていた。


「こんな馬鹿が率いた偽抹殺師に振り回されていたとは情けない。多くの血を流させていたと思うと腹が立つ!」


 ガントの瞳が紫色から金色へと変わる。常時吊り上がっている目がさらにキツくなる。まるで獣のよう。

 隊長はガントの変化に気付くことなく近付くと、小さな毒針をガントの首筋に刺す。完全な勝利を確信し魔術を解いた。


「あーはっは!」


「これだから年上は。相手を格下と判断した瞬間、馬鹿みたいに油断する。その油断が命取りになることを学習しない」


 ガントは首筋に刺さった毒針を抜いて隊長に飛ばす。表情ひとつ変えず、蚊に刺されたように首筋を触る。


「な……に……!?」


「人は見た目によらない。たかが十四歳のガキだろうと年上に勝るものを持っているんだ。年功序列でしか人を見られない奴に俺は負けない」


「な……な……」


「抹殺師を長々とかたりやがって。こんな馬鹿な歴史、今日で終わらせる。じゃあな」


 ガントのリストバンドが輝くと同時に隊長の首がストンと地面に落とされた。


「ひぃっ!?」


 人の首が胴体から落ちた瞬間を目の当たりにしたヨウは、体をガクガクと震わせる。

 ヨウの反応にガントは髪を掻く。これがアノンの王の限界なのか、と。


「悪かったな。こいつを生かしておく意味がないと思った。言ったろ、俺が本物の抹殺師だとよ」


「抹殺師とはいったいなんなの!」


「世界の負を裁く者。暗躍するという点は一緒だが、本物の抹殺師が殺すのは、あくまで世界の負だ」


「世界の……負」


「あんたの親父はどのみち死んでた。あんたの親父は世界の負だったんだ。あまりにもやり方が乱暴で自分勝手で、なによりも自分を肥やすことしか考えていなかった」


「父が……負……ふふふふ」


 ヨウは笑うしかなかった。国も民も家族も失い何も残っていないところに、とどめの一言を告げられたのだから。

 誰の助けもなければ立てない。ただただ崩れて震えていることしかできない。十四歳が受け止めるには重すぎた。


「いつまでそうしてるつもりだ」


「ふふふふ」


「……そうやって壊れたフリをしてりゃあ助けてもらえると思っているなら大間違いだ。自分の足で立てる奴が甘ったれるんじゃない」


「……立ってどうするの?」


「座っているよりも遠くが見える。いくらでもやり直せるんだから立ってみせろ。立てないだなんて言わせない」


「なんて偉そうなんだ。自分たちの尺度で相手を負と決めつけ殺すのが抹殺師なんだろう。結局は匙加減じゃないか」


「うだうだ言ってるだけの奴よりマシだ。目には目を、負には負をだ。いくらでも責めたきゃ責めろ。ただ俺が言えることは……半端な覚悟で殺しはしないってことだ」


 ガントは言うだけ言って森を駆けていく。世界の負である偽の抹殺師を殲滅するべく。

 森を抜けた先に待っていたのは、他ならぬ偽抹殺師。ガント一人に対し、その数は二百人。


「これだから年上は嫌なんだ。群れることでしか強さを示せない奴らは大っ嫌いだ!」


 ガントの掌に闇の魔力が集まる。

 右足を踏み鳴らし二百人の動きを止め、掌の闇を一気に放った。

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