シィ、喜ぶ
ヨウはインから話を聞かされ絶句する。王城が壊されたことよりも、インが自分と双子の兄弟で、父を殺した張本人だということに。
「俺が憎いか? 遠慮なく殺してくれて構わないんだ。やれるものならな」
「自分に兄弟がいるなんて聞かされなかった」
「言うわけないだろう。俺は捨てられたんだからな」
「捨てられた!?」
「そうだ。俺たちは物心つく前に引き離された。アノンが次々と国を吸収していったのは知っているよな。そんな中、吸収した国の女に奴は手を出した。女は奴の子を孕んで産んだが、奴は金を渡すだけで黙らせたんだ」
「そんな!」
「それだけじゃない。奴は……奴は……! 俺と妹の目の前で女を――母を殺しやがった!」
「!?」
ヨウの体を悪寒が襲う。自分の知らない父に頭を抱えてしまう。
「なんで母を殺したと思う? あまりにも身勝手な理由だ」
「教えて……ほしい」
「後悔しても知らないからな。理由は――」
インが言葉を発しようとした瞬間、何かの気配を感じて息を殺す。だが、すぐ気配が離れていき胸を撫で下ろした。
「どうしたの?」
「抹殺師を追っている奴がいるんだろう。面倒なことだ」
「本当に抹殺師なんだね。どうして抹殺師なんかに」
「復讐のためだ。たとえ邪の道だろうと知ったことか。あんな最低な奴が王でいられた世界なんてお断りだ」
「父を殺したのなら復讐は済んだはずじゃ!」
「甘い! 奴が生きていたという証を消さない限り、俺の復讐は果たされない!」
双子でも育った環境で変わる。インが目を血走らせながら放った言葉にヨウは胸を痛める。本当は兄弟がいたことを喜びたいのだが。
「自分のことは殺さないの?」
ヨウが自分を指差して聞く。どうしてアノンから生きて連れ去られたのかが疑問であった。
「殺せとは言われていない」
「じゃあ言われたら殺すんだね」
「それが抹殺師だ」
インが自問自答をするかのように三つ編みを触る。焦げ茶色の瞳が少し揺らいだように見えた。
「これからどこに行くの? 仲間の抹殺師のところ?」
「ああ。連れてくるのが俺の役目だ」
「嫌だと言ったら?」
「一切聞かない。問答無用で連れていく」
「双子なのに……悲しい」
「親を恨め。死人を恨んだところで虚しいだけだがな」
ヨウはインを心から憎むことができない。自分の住処と支えを奪ったと知っても、アノンの王としてインを裁こう、父を恨もう、という考えになれない。
それどころか、どうにかしてインを救ってあげたいという思いが生まれていた。
「まだ堕ちない。自分はアノンの王だから」
「いつまでそんな態度でいられるか見ものだ。アノンの坊ちゃん」
インはヨウを坊ちゃんと呼ぶ。血の繋がった兄弟ではあるが、二人の育った環境はあまりに違う。共に過ごせていれば、こんなことにはなっていない。
* * *
稽古を終えたシロはベッドに身を預けていたが、視界に入った人影に驚いて飛び起きた。
自室の扉はしっかり施錠されていることを確認。ルリならカチャカチャッと入っても不思議ではないと思ったが、今、目の前で笑顔を見せているのはルリではないので固まっている。
『こうして会うのは初めてだね、シロ』
「その声は……シルフ!?」
『うん。シロならすぐに認識できると思っていたんだけど、ボクの魔力が十分じゃなかったんだ』
腰まで伸びた緑色の髪と瞳が眩しい女の子。どういうわけか裸であるが本人は気にしていない。
シロは顔を真っ赤にして逸らす。見た目から自分と同い年だと思い気が気でない。
「はっ、早く服をっ!?」
『あはは、シロは男の子だったね。でも大丈夫。ボク、平たいから』
「そういうことじゃないんだよっ。女の子なら恥じらってよっ!」
『ボクは永遠の少女だけど、シロよりうーんと年上。安心して見てごらん』
シルフは一切恥じらうことなくその場で一回転。平たいとはいえ、やはり女の子。手足の細さや腰のくびれが色っぽい。おまけに幼さが残る顔と人懐っこい性格である。精霊でなかったら大勢の人の気を惹いているに違いない。
「それはダメだってばっ! 俺の服を貸すから着てよ」
『仕方ない。他でもないシロのお願いだから聞こう。服を着るの久しぶり』
シロはクローゼットから適当に服を出す。
シルフはニコニコしながら服を受け取り着ていく。パーカー、ミニスカート、靴下はどれも緑一色。選んだのはシルフ自身のため、彼女の好きな色なのだろう。
「ようやくまともに顔を合わせられるよ。着心地悪いだろうけど我慢してほしい」
『そんなことない。でも不思議。どうしてシロがミニスカートを持っているの?』
「それは……聞かないで」
『うん、なんとなく察しはつくからね。でもパーカーは男物だね、ボクにはちょっと大きい。袖も余っちゃってる。萌え袖~』
(ヤバい。なんなんだこの破壊力は。これは精霊の能力なのか? ダメダメ! 俺には……あいつが……)
『シロは素直じゃないね。そうそう、ボクのことは好きに呼んでいいよ。シルフじゃ寂しい』
「俺にネーミングセンスを求めるのは間違ってるよ。でもまぁ……シィ、でどう?」
『シィだね。やったぁ!』
(これはヤバい。こんなに喜んでくれるとは。しかしあれだ――萌え死ぬよ)
計算されていないシィの魅力がシロにクリティカルヒット。稽古の疲れなど忘れてしまうほど効いていた。




