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紫色の殺気

 四大陸を股にかけて暗躍する集団が存在する。ゴッツィズのような突発的なものではなく、何十年も前から存在している。

 抹殺師と恐れられている集団は、今日もどこかで暗躍し誰かを抹殺している。


 火の大陸の国――アノン。

 ファルスと同じく絶対王政で、現在は十四歳の子どもが国を治めている。が、それは表向き。子どもに国を任せることは難しい。実際は、前の王の側近たちが指示を出している。


 アノンは、ここ数年で大きく栄えていた。近隣の国を次々と吸収していき富と知恵を得ることで。前の王は国々のトップに有無を言わせないやり方を貫いた。だが、吸収された国々の民からは恨みを買うことになる。

 一年前、前の王の命は奪われた。吸収する国の視察に向かったときのことである。訪れていた国はボラン。ファルスとは友好国である。


「う、うぅ~!」


 ボランからの客人に十四歳の王は怯えていた。親が殺された国の人間と会うということに体は震えている。なんとか震えを止めようと、焦げ茶色のゆるふわな短い髪をいじり気を逸らす。それでも同じ色の瞳を逸らそうとはしない。

 王の両端で客人を警戒する二人の側近の目付きは鋭い。客人はフードを目深に被り、決して取ろうとはしないのだ。


「王、ようやくお会いできましたね。一年前のことは今も残念に思います。抹殺師の動向を追っていますが、確かな拠点すら掴めないもので」


「……父のことはもういい……。死んでしまった以上、それは運命だったのだと受け入れている」


「王はお強いのですね。失礼ながら、仇を討ちたいとは?」


「如何なる理由であっても殺生は望まない。友好国であるファルスでは、絶対王政の下、罪人を裁いているようだけど」


「ファルスのやり方は気に入らないと?」


「そうは言ってない。ファルスにはファルスの方針があるだろうし。でも……気持ちのいいことではない」


 もし、ここに親の仇がいたら、どうしているのかと自問自答する王。ファルスの王と同じように裁くのだろうか、と。

 客人は、視線を王から城内へと移す。

 縦より横に長い城の中は、金、金、金で埋め尽くされていた。


「城内は王の趣味で?」


「ううん。絨毯から椅子、壺やカーテンに至るまで金だなんて嫌でしょうがない。けど、これは父の形見なんだ。王である自分が責任を持って守らなければ」


「きっとあの世で喜ばれていることでしょう。おや、話が逸れましたか。ボランから足を運んだのは、わざわざ世間話をするためではなかった」


 客人が胸元に手を突っ込む。

 二人の側近が腰に提げている剣に手を伸ばすが、もう遅い。声を上げる暇もなく首をはねられた。


 ――びちゃ。


 王の体に側近の血が降り注がれる。いったい何が起きたのかと放心状態。


「目的はあなたの身なんですよ。ついでなんで、この城も壊しちゃいますね」


「えっ!?」


 客人が言った意味を理解するのに間が生まれ、その間に目の前が真っ暗になってしまう。王は気絶させられたのだ。


「アノンの坊ちゃんが王とは世も末だ。王以外の関係者は皆殺しだったな。面倒だ。本当に城ごと消してしまおう」


 客人は王を抱えて王城を出ると、楽々宙に浮かんでみせる。空から覗く王城は小さく映る。

 客人が手を王城に向けると魔方陣が出現。開いた手を閉じた瞬間、魔方陣と共に王城は消滅した。


「アノンの消滅はまだ(・・)言われてない。今回はこれでズラかるか」


 客人の左手首にはリストバンド。魔方陣を出現させたときにリストバンドは輝きをみせた。そして驚くべきはその容姿。目深に被ったフードを取った顔は王と瓜二つ。違うのは髪の長さだけ。三つ編みに結われた髪を触り舌打ちした。


「いいご身分だ。まさか思いもしないだろう。双子の兄がいて、その兄が親を殺したなんてよ」


 アノンの王――ヨウと、抹殺師――イン。

 生き別れていた双子の数奇な運命の歯車が動き出した。


* * *


 水の大陸の国――イグラズ。

 イグラズの首都――クラッティスの、煉瓦造りの建物の街並みはそれだけで芸術的で、定時で鳴る時計塔の鐘の音は耳と心を落ち着かせる。


「やっぱうまい。クラッティスのパン屋に外れはないなぁ」


「うん。パンはおいしいし、アッシ、なんだか落ち着く」


 街のベンチに腰掛けてパンを食べているムロとナティ。今の二人の拠点はクラッティスになっていた。

 ファルスからイグラズに帰ってきたムロは仲間と合流して事の顛末を話した後、ナティを簡単に紹介したのだが、そこで妙な噂を聞いた。


 ――クラッティスに抹殺師がいる。


 抹殺師の存在はムロも知っていた。とはいえ、自分たちには関係ないとも思っていたのだが。噂は馬鹿にできないという経験をしているため、こうしてきたのである。


「お前は残ってても良かったんだぞ」


「アッシだけ残ってもつまらないし」


「みんながいるじゃないか」


「みんな、か。アッシ、ゴッツィズのみんな以外とまともに接したことなかったし」


「オレやカザトたちとは普通に接せるじゃんか」


「それだけじゃない。ムロの仲間の彼女が恐い。なんかアッシを睨んでくる」


「そりゃあ気のせいだろう。あいつは元々目付き悪いからなぁ」


「それだけにしては……うーん」


 ナティが髪を掻いて悩んでいると、街に植えてある木々が揺れるほどの風が吹く。

 ムロが、風の中に紛れる殺気に気付いて立ち上がり一瞬で戦闘態勢に入る。赤い瞳に映る人影。一際目立つ紫色の髪の少年が立っていた。

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