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恋する乙女は不器用です

 様変わりした世界。いくつもの大陸が連なっていたことが嘘のよう。残った大陸は四つ。

 火、水、風、土の精霊たちは決意を固める。この世界の未来を見守ることができなくなることを覚悟する。


「火の力を」


「水の力を」


「風の力を」


「土の力を」


「「「「全てをひとつに!!!!」」」」


 己の体をも魔力へと変えて精霊たちは合わさる。未来への灯火となって悪魔にぶつかっていく。


「どうしてそこまでする!? 人間は精霊を知らないんだぞ!」


 悪魔は疑問を口にする。誰に感謝されるわけでもなく、自分たちはただただ見ているだけの世界になぜ命を、と。

 精霊たちは悪魔の疑問を攻撃をもって一蹴。人間が誕生してからのこれまでを見てきた――ただそれだけの理由を悪魔が理解できるわけがない、と。


「「「「共に滅びろおおおお!!!!」」」」


「……愚かだ。そんな無駄なことを……馬鹿げたことを……ぐわああああ!!!!」


 灰色の髪の隙間から覗く灰色の瞳に世界はどう映っていたのだろうか。それは誰にもわからない。精霊たちによって滅ぶ運命を辿る悪魔を除いては。


※ ※ ※


「……う……!? 一日に二回も見るのは初めて……」


 悪夢から目を覚ましたシロはすぐに気付いた。体が元に戻っていることに。そして気付いてしまった。元のサイズの服を着ていることに。


「……ななな……なんじゃこりゃああああ!?」


 すっかり頭も目も覚めたシロはリビングへと向かった。犯人はもうわかっている。こんなことをするのは彼女以外にあり得ないと睨んでいる。


「父さん、母さん! 姉ちゃんは!」


「なんだ騒々しい。寝起きで機嫌が悪いのか?」


「十六歳というのは難しい年頃。あなた、親は黙って見守ってあげましょう」


「俺を着替えさせたのは姉ちゃんだ! 俺で遊びやがってちくしょう! 弟をからかって楽しむ歳じゃないだろう!」


 シロの頭に浮かぶのはルリの部屋。考えるよりも先に体が動く。だが体は動きを止めた。目的のルリが現れたからだ。

 ルリは笑顔をシロに向けながら抱きつこうとする。しかし、さすがに空気を読んでか足を止めた。


「シロ……?」


「なーにとぼけてるんだよ! 俺の部屋に勝手に入っただけでなく、俺を着せ替え人形みたいに扱いやがって!」


「いったいなんのこと? 私、シロの部屋には入ってないよぉ。まして着替えなんて……してほしいのならするけどぉ?」


「してほしくなんかない!」


 シロは冷静にルリを見る。舐めるように頭のてっぺんからつま先まで。ルリは「照れるぅ」と体をくねらせるがお構い無し。鼻先が触れるかというくらいに顔を近付け目を合わせる。


「シロ……近いよぉ……私、まだ心の準備がぁ……」


 ぽっと顔を赤くして照れるさままで画になる。ルリの反応を十分に確かめ、ようやくシロは諦めに至った。


「はぁ。その感じからして姉ちゃんは白だな。ちくしょうめ」


「そんなに残念な顔をしないでよぉ。ほらほら、お姉ちゃんが癒してあげるぅ」


「お、おい……ほぐぅ……ほぐぅ!」


(苦しい……。にしても……だったらいったい……?)


 シロはルリの豊満な胸に顔を埋めながら考えるが、息苦しくなり考えるのをやめた。


※ ※ ※


 シロとルリが帰ったリビングのソファーに座りくつろぐフィリウス。オレンジ色の瞳を輝かせて見つめる視線の先にはビターチョコレート。

 つまみやすい一口サイズのチョコレートを紅茶と一緒に頬を綻ばせながら楽しんでいる。まだソファーにはシロの温もりが残っている。


「ぐへへ~」


 チョコレートと紅茶に頬を綻ばせているのは間違いないが、シロの温もりに頬を綻ばせていることも間違いない。決して本人には見せない顔。素直になれない乙女の顔。


「シロ~、シロ~ん」


 恋する乙女の奥手な行為と捉えられるのか、ただの変態の行為と捉えられるのか。第三者からどう捉えられるかなどという考えは一切過らない。


「うっ!?」


 忘れ物を取りに戻ってきたシロ。彼は幼馴染の行為をどう捉えたか。シロは一歩一歩後ずさりする。ただの変態の行為と捉えたようだ。

 だが、不運なことに足を滑らせてしまった。一刻も早く立ち去りたいという焦りが招いた失態。当然だがフィリウスは物音に気付いて顔を向ける。


「あっ……」


「……よ、よう」


 二人の視線が重なる。ドキドキと心臓が高鳴るがロマンチックなど欠片もない。あるのは羞恥心と後ろめたさ。穴があったら入りたいフィリウスは顔を真っ赤に涙を溜め、忘れ物をしなければと自分を責めるシロは背を向けた。


「うわああああん。アタシ生きていけなああああい!」


「待て待て早まるなよ! 俺が忘れ物をしなきゃこんなことには」


「じゃあ、こっち向いてよ」


「わ、わかったわかった」


 フィリウスの声色から怒っていないと判断したシロは振り向く。しかし、振り向いた先にフィリウスはいない。ソファーで体を丸めていたりではない。首を傾げるシロであったが、すぐに脳裏に記憶が過った。


(ヤバい! あいつは感情的になると表情や声色じゃなくて――)


 そう思い動き出そうとした瞬間、シロの体に激痛が走る。目には見えない攻撃を二発三発と受けていく。


「今すぐ記憶から消して! 消せ消せ消せ消せええええ!」


「ぐは!?」


 痛みで立っていられなくなりうずくまる。視界がぼやけて這うこともできない。


「はぁ……はぁ……。どう、忘れてくれた?」


「……わ……忘れ……ました」


 視界がぼやけていても意識ははっきりしていた。耳ははっきりとフィリウスの声を聞いている。嘘をつくのは心苦しかったものの、これ以上の痛みは勘弁したいのがシロの本音。

 しかし逆効果であった。自分の表情を見ることはできない。自分の表情が硬いことにシロは気付けていない。フィリウスにとって感情的になれと言われているようなもの。沸き立つ感情が体を刺激して高ぶらせる。


「嘘つきにはお仕置きあるのみ。記憶が消えるまで――」


「待って待って! 嘘をついたことは謝るよ! だけど記憶を消すってのはやめてくれ!」


「……わかった。それじゃあ約束して。絶対に思い出さないって……わかった?」


「わ、わかった! 絶対に思い出さない!」


「……ふーん。いいよ、許してあげる」


 フィリウスの目に映るシロの顔は必死だった。死に物狂いなのが伝わったのである。しかし、これではシロが浮かばれない。


(忘れ物を取りに戻っただけなのに。とほほ)


「女の子の秘密を知った代償は大きいんだから。覚えておいてね」


(理不尽だぁ。こんちくしょう)


 シロの視界が戻り、体の痛みが引いたのは三十分後。

 その間、シロの隣ではフィリウスが上機嫌で鼻歌を歌っていた。

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