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反則技でごり押し

 王城には緊張感が走っていた。王座に座る王の真剣な表情は、空気を共にしている者たちの緊張を増幅させる。

 王座の数段下で片膝をつくカザト、ムロ、ヒラ、団長代理のメトイークの視線の先には、手足を拘束されたナティがいた。ナティは微動だにしない。ただただ王を見つめるだけ。


「では始めようか」


 王が判決を下す聖なる場――王間おうま

 これまでいくつもの判決が下され、びっしり敷かれた赤い絨毯に血が浴びせられた。絨毯はあえて替えられずそのままである。

 王間を使うのは殺人などの重い罪を犯した者を裁くとき。人が人を裁く――王は毎度苦しんでいた。それでも心を鬼にして下し続けてきた。今回も、また裁く。


「おい王よぉ。あたしは気に入らないねぇ。絶対の権力を振りかざして何様なんだい」


 ヒラの一言で場が凍りつく。七人の王城専属近衛騎士が剣に手を伸ばす。


「どういうつもりかな。ここは神聖なる王間であり、私はファルスの王であるぞ。絶対王政の名の下、君を如何様にもできるのだ」


「ほーん。で?」


「で、だと」


「あたしを煮るも焼くも勝手にしやがれ。それがあんたの強さなんだろう? 王であることしか能がないんだろう?」


 矢継ぎ早に王を煽るヒラ。肝が据わっているのか無鉄砲なのか。空気は全く読まない。

 専属騎士たちの剣先が一斉にヒラに向けられる。七本の剣先がヒラの首に触れ、血を流させる。


「大きく出た度胸は認めよう。だが、時と場合によってはケガの元だ」


「汚い剣だ。これで国を守れているのか疑問だねぇ」


「それ以上の愚弄は慎むことだ。首が飛ぶことになる」


「飛ばしたきゃ飛ばせば? あたしを殺して得るもんはないと思うがねぇ」


 剣を向けられても気を吐くヒラ。王に向けた目はさらに吊り上がる。

 さすがにヤバいと感じたカザトとムロがヒラを制止するべく立ち上がり、王間から連れ出した。

 安堵した七人の専属騎士が一斉に剣を納めた瞬間――。


「全員武器を納めろ!」


 王座に座る王の首にナイフを当てたシロが現れた。

 七人の王城専属騎士は動揺を隠せない。手を出そうにも相手は王子。迂闊な行動はできない。


「やめてください王子。何を血迷ったことを!」


「血迷う? 俺は至って冷静だよ。冷静に王の首を取ろうとしている」


「そんなことをさせるわけにはいきません。王城専属騎士として、ここは心を鬼にします!」


「武器を納めろと言ったはずだ。聞こえなかったか」


 躊躇を振り切り立ち向かおうとした騎士に言葉を放つシロの目は本気だ。王の首に当てたナイフに力を込めて威圧する。

 王の首から血が流れる。浅い傷ではあるが、王に傷を負わせてしまったという事実には違いなく、騎士たちにダメージを負わせるには十分であった。


「シロ、どういうつもりだ! 親子とはいえ、場を弁えろ」


「うるさい。俺の望みは、そこのナティを無罪放免にすることだ。彼女のしたことは許されることじゃないのはわかってる。けど、彼女一人にゴッツィズの罪を全て負わせるってのは気に入らない」


「そんな私情を聞いて誰が納得するものか! 国際的な問題になっている以上、さすがの私も庇うことはできない」


「どうしたら納得してくれる」


「犠牲者全員が生き返ったりでもしないことには無理だろう」


 王の言葉にシロの表情が緩む。


「じゃあ納得してもらおう。ムロ兄ちゃん!」


 シロの合図で扉が開く。疲労困憊のムロをカザトとヒラが支えられながら王間に入ってきた。


「王子……あとは頼むぅぅ」


「うん。ありがとう、ムロ兄ちゃん! よし、シルフお願い」


 シルフがシロに憑依する。

 髪と瞳を緑色に染めたシロは外に出ると、強力な風を起こす。風は火の大陸だけでなく、水、風、土の大陸にも吹き届く。


『これは事実。人が起こした奇跡』


 風に乗ってシルフの声が届く。

 死者蘇生という、にわかには信じられないことをどれだけの人が信じただろうか。


「な、なんということだ!?」


「これで考えを改めてくれるよな、父さん」


「やれやれ、これは一本取られたようだ。詳しいことは後で聞かせてもらうぞ」


「詳しく、か。俺よりもムロ兄ちゃんの方が大変だ」


 王が玉座から立ち上がる。世には信じられなくとも、起きたことは事実。色々と湧き上がるものを呑み込み、ただ一言発してみせた。


「犠牲者の蘇生を確認。よって、ゴッツィズを不問とする!」


「不問……!?」


「良かったなぁ、ナティ。これで無罪放免だ。晴れて自由の身ってやつよ」


 ムロが疲れながらもナティを祝う。

 世の理を無視した荒技で救われる人がいるのならばと力を行使した。その代償は大きい。どんな代償を払ったのかは誰にも言わないとムロは決めていた。


「アッシ……アッシ……!」


 許されていいはずのない罪を犯した。だが、その罪は帳消しになった。共に病で苦しむ仲間ではなく、敵だった者たちによって。それが嬉しくとも苦しい。人の温かさに触れ、自分は愚かだったとナティは思うのだった。

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