決着
異空間で向かい合うシロとレオ。
武装石のリバウンドで体が膨れ上がり、今にも破裂しそうなレオの体。不治の病を治すため、不老不死になるための武装石が病気よりも早く死に近付けるとは、レオにとって皮肉な話である。
「うがぁ……」
「自業自得としか言えないよ。命を弄んだ罰として受け入れろ」
「し……にたく……ない」
「わがままな奴だよ。武装石を作るとき、血を抜かれる前に何人が命乞いをしたことだろうな。その声を無視した結果が今のお前だ」
「い……や……だ」
「俺がしてやれるのは、精々苦しませずに逝かすことだ。あの世で謝罪でもするんだな」
風の剣を構え呼吸を整えるシロ。どんな理由であれ殺しをするのは生半可なことではない。ライズを殺したときもそうだった。だからこそ躊躇が生まれる。
『本当に殺してしまってもいいの?』
「ああ。君の力なら彼を戻せることはわかるよ。けど違うんだ。ここで彼を戻しても、きっと彼は自らを罰するよ」
『え?』
「誰かに殺されるより、自分のタイミングで死ぬ方が楽――なのかはわからないけど、ここで生かしても彼はそうするはず」
『覚悟、ですか』
「俺はファルスの王子だ。この先、もっと苦しい選択を迫られる。この戦いは俺に課せられた試練でもあるんだよ」
王子としての試練を乗り越えるため一歩踏み出す。躊躇を掻き消すように声を上げながら走り出し、左右の風の剣を交互に繰り出していく。
「ああ!!」
「これが俺の慈悲だ。どうしても納得いかなきゃ道連れにしろ。そう簡単に連れてかれたりしないけど!」
とどめの一撃を見舞うべく一度目を閉じる。
レオを斬っているときも躊躇していることを反省し、迷いを振り切るために目を開けた。
「斬れ」
レオの言葉が耳に届く。願いを叶えるためと剣を振り下ろした。
緑色の瞳に映るレオは笑っていた。最期を受け入れた晴れ晴れとした笑顔を見せてきた。
「俺はシロ。最悪な王子だとあの世に知らしめてくれて構わない。達者でな」
せめて笑顔で送り出そう。シロは笑ってみせた。
異空間から引き戻される感覚を覚えたシロは座り込む。震える体を落ち着かせるためだ。
『大丈夫?』
「生半可な覚悟じゃダメだと思っても躊躇して情けないったらありゃしないなぁ。戦いが終わった瞬間にこのざまだ」
『平気で殺しをできる方が恐い』
「俺をフォローしてくれるのか。ありがとう、シルフ」
異空間から元の世界に戻されたシロ。座り込んだままの彼に手を差し伸べたのはカザトだった。
「カザト兄ちゃん」
「また辛い思いをさせてしまった。俺はつくづく情けない先生だ」
「そんなことないよ。たまたま俺が決着をつけただけ。カザト兄ちゃんからの教えがなかったら勝てなかったよ」
「そう言ってくれると助かる」
カザトに立たせてもらったシロの視界にナティの姿が飛び込む。ムロに頭を撫でてもらい心を保っていた。
「ナティ。レオのことは済まなかった。俺を恨むなら恨んでくれていい」
「ううん。アッシにもレオにもベオにも誰かを恨む資格なんてない。いっぱい恨まられることはあっても。王子になら殺されてもいい」
「もしかしてフィリウスのこと?」
「彼女に心の傷を負わせてしまった。謝ったところで許されない」
「悪いけど無理だよ。罰を与えるのは王だ、俺じゃない」
「ムロにも同じことを言われた」
「へっへーん。王子と同じことを言えるオレってすごい!」
「やれやれ。調子がいいのはけっこうだが、いつまで彼女の頭を撫でているつもりなんだ」
「いやぁ~、ナティの髪の触り心地が良くってなぁ」
カザトに対するムロの何気ない返事が、隣のナティの顔を赤く染める。ムロは小首を傾げるだけ。
カザトはため息を吐いた。呆れたことと、戦いが終わった安堵感からだ。
シロは喜べずにいた。王子としてはこれからが本番。立場上、王側に付かなければならず、王の決定に不服があろうと逆らえない。家では親子でも、公の場では王と王子なのだ。
「ナティのこと説得してみるかなぁ。外堀を埋めていけばなんとかなるかもしれない。うーん……やっぱ無理かも」
ファルスだけの問題ならばともかく、ゴッツィズの件は国際問題となっている。火の大陸だけでなく、水の大陸でも被害が出ている以上は厳しい。
一人頭を悩ませているシロの様子から何かを察したムロが声をかけてきた。
「悩みなら聞くぜ」
「聞いたら一緒に悩んじゃうよ」
「一人で背負うこったない。オレも血濡られた人間だ。カザトより親身になれるかもしれない」
「優しいなぁ、ムロ兄ちゃん。じゃあ話すよ」
抱える悩みをムロに打ち明けるシロ。話を聞いてもらうだけで気持ちが軽くなる。
一緒に悩む気満々だったムロであったが、考える素振りを見せながらも表情は明るいままだ。
「ムロ兄ちゃん、ちゃんと悩んでる?」
「これっぽっちも悩んでない。オレなら力になれる」
虹色の武装石を見せるムロ。
悩むシロには眩しくてたまらない。頼もしく映って仕方ない。頼れる年上がそこにいた。




