届かぬ望み
首都ベルリスは戦場と化していた。
死にものぐるいで逃げる人々を横目にレオと向かい合うシロ。髪と瞳を緑色に染め、いつもと雰囲気が違う。
「わかる。わかりたくないけどわかる。お前、大勢の人を殺したな。ついさっきも殺しただろう」
「ああ。雷を纏った奴だ。全く運動にはならなかったが」
「殺しを運動とは反吐が出る。どんだけ命を軽く見てるんだ」
「命は儚く脆いものだ。だから、俺たちゴッツィズが革命を起こそうとしている」
「ムロ兄ちゃんから聞いたよ。不老不死なんて夢のために迷惑な話だ。誰も頼んじゃいないし、武装石で不老不死になれるなら苦労しない。現に失敗したそうじゃないか」
「それはベオとナティのことを言っているのか? ならば話にならない。二人はそこまでの価値だったまでだ。だが俺は違う」
レオは自分の右腕を切り落とす。しかし顔は笑っている。不気味なまでに。傷口から流れる黒血には目もくれず、切り落とした右腕を食べ始めた。
「うげぇ」
目の前の光景にシロはたまらず不快感を示す。
『相手の一挙手一投足に気を取られないで。油断は禁物』
「言われなくてもわかってるよ、シルフ」
風の精霊シルフが気を引き締めさせる。
シロとシルフの呼吸がぴたりと合わさる。長年一緒にいたかのよう。
風の剣を構え狙いを定める。命に安らぎを与える風を剣に変え、レオに勝るとも劣らない殺気を放つ。
「……なるほど、口だけじゃなさそうだ。さっきの奴とは違うことを期待する」
右腕を完食したレオの体はさらに赤さを増した。が、それだけではない。傷口から流れる血が固まり腕として再生した。
「ずいぶんとやってくれるじゃないかよ。なんのパフォーマンスだ」
「パフォーマンス、か。これは証明だ。俺が不老不死であることの」
「体を再生させられるだけじゃ証明にはならないと思うけど。それに本当に不老不死だってんなら、世界中に武装石を配ったらどうだ」
「ふっ。何か誤解をしているようだな。世界中を不老不死に? そんな無駄なことをしてなんになる」
「お前たちと同じように、不治の病で苦しんでいる人たちを助けたいんじゃないのか」
「誰がそんなことを。そんな他力本願な奴らなど知ったことか。俺たちは俺たちのために武装石を作ったまで。他の奴らなど邪魔だ」
「やれやれ。それがお前の本心なんだな?」
「だったらなんだ」
「俺は別に。ただ、お前の仲間はどうだか」
シロが振り向いた先には、ムロに連れ出されていたナティがいた。
「レオ」
「ナティ、無事だったのか」
「レオ。アッシたちは間違っていたの? 自分たちが生きるためには仕方ないと、必要な犠牲だと思っていたけど、でもそれはアッシたちの都合なわけで」
「未知なことに反対は付き物だ。俺たちが成功すれば掌を返すだろう」
「でも不老不死はダメだった。アッシ、不老不死になれなかった」
「いくつもの失敗のひとつにすぎない。不老不死になれることを俺が証明してみせる」
地面を蹴ったと思った瞬間、シロの目の前にレオは現れていた。突然のことに脳と体が反応できない。
目と目が合ったと思った瞬間に痛みが走った。殴られた衝撃で吹き飛びながらも体勢を直す。
「人間離れしていやがる」
「言っただろう。不老不死だと」
「不老不死になることとは別だと思うが。それにしてもやり方が気に食わない。もっと簡単に殺せるんだろう?」
『相手を窒息させるのがレオの魔術』
「君を通してわかるよ。でもそうしてこない」
『精霊に魔術は一切通用しない。でも魔法は有効だから気を付けて』
「十分気を付けてるよ。用心に越したことはないけど」
シロは体に風を纏い突撃する。
風の双剣を素早くレオに浴びせていくことで、レオの体には傷が刻まれていく。
「そんな攻撃が――」
「一撃一撃は小さくても、いくつも浴びればどうだろうなぁ」
「うっ! か、体が動かないだと!?」
レオの傷口がどんどん広がり深くなる。黒血が流れ出ては地面を染める。痛みを感じて顔を一度は歪めるレオであったが、すぐに気を取り戻した。
「ずいぶんと余裕じゃないかよ」
「当たり前だ。俺は不老不死……だ……!?」
「さっさと傷を治せよ。不老不死なんだろう」
「な、何故だ……傷が……」
レオの傷は治るどころか悪化していく。出血の量は増え、体はどんどん膨れ上がる。
「残念無念ってやつだよ。不老不死だなんてものは夢物語だったのさ。お前の体は武装石に耐えられなくなっている。リバウンドだろう」
「リバウンドだと!?」
「武装石一つでも厄介なのに、大量の武装石を合わせてできたのが赤い武装石だ。どんなことになるのか想像できたはずだけど」
「そんなはずはない! 不老不死はそこまできている」
「いや、不老不死には届かない。どんなに命を掻き集めようと、命には限りがある。不老不死――永遠はない」
『命は儚いもの。だからこそ懸命に生きようとする。悔いなくあの世へ行けるように』
「ムロ兄ちゃん。俺とレオを異空間に飛ばしてよ」
「どうするつもりだ」
「このままだと街が危ない。大爆発に巻き込まれるよ。その前に異空間に飛べば無事に済む」
「生憎だが、それはオレの専門じゃねぇ。あのときは武装石同士で引かれ合ったにすぎない。ここはナティの番だ」
ムロは黙ってナティに頷いてみせる。任せたということだ。
「飛ばすのはレオだけでいいでしょ」
「ダメだ。何が起きるかわからない。俺も一緒に飛ばしてよ」
「わかった。レオのことをお願い」
「ああ、ちゃんと見届けるよ」
精霊に魔術は効かないため一度元の姿に戻ったシロは、ナティに合図を送りレオと共に異空間に飛ばされた。




