表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/85

ヒラッと参上

 東方司令部の取調室に座るヒラは不満げだ。

 頬杖をついて催促している。何を催促しているのかというと、食事である。


「取り調べといえば飯だろう。どうして何も出ないんだよ」


「そんなものはない。どんなに催促されようが出さない。どうしてもっていうのならば自腹になる」


「ケチ。あたしの空腹は限界なんだっての。何か食わせろ馬鹿野郎おお」


「馬鹿は君の方だ。確かに君はヒイラギを救った。だが、同時に大勢の人に恐怖を与えた。救い方が問題なんだ」


「あんなヤバいのを野放しにしろってことかい。それこそ大間違いだね。あたしが殺さなきゃ大量の血が流れていただろう」


「まったく。ファルスが絶対王政で良かったな。君を裁くのは王だ」


「もしあたしを裁くってんなら、王も大した奴じゃないってことだ。お手並み拝見拝見」


「王を侮辱するとなれば別問題だが?」


 近衛騎士が手を剣に伸ばす。

 ヒラは悪びれることなく、拘束された両手を上げてみせる。


「こんな状態の乙女を斬るってかい。そいつは面白い。騎士道に反しないのかねぇ?」


「ちっ!」


 剣から手を離した近衛騎士は、一枚の紙をヒラに差し出した。


「あん?」


「これに指印をしろ。それで解放してやる」


「なんのつもりだ?」


「指印で解放してやる、だ」


「わかったよ。どうしてもあたしを解放したいらしいねぇ。しょうがない。あたしの心が広くて良かったねぇ」


 近衛騎士が朱肉を差し出す。

 ヒラは朱肉を払い除けると、親指の腹を歯で噛み切ってみせた。


「なんのつもりだ!?」


「どうせならと思ってねぇ。朱肉に毒でも入ってたら嫌だし。あたしの血は良質だ。綺麗に押せる」


 血が紙に染みていく。正真正銘ヒラの手によって。拘束を解かれ肩を回したヒラは、制服に目を落として青ざめた。


「だいぶ血に染まっている。それは捨てるしかない」


「あちゃー。二、三日で用意できるわけないか。これじゃ授業受けられないねぇ」


「入学の際に三着買うはずだが?」


「これが最後だったんだ。この制服は脆くてしょうがない」


「いったいどういう学園生活を送っているんだ」


「食って殴って食って蹴って食って殴って食って蹴って――」


「もういい、わかった。今回のことは学園にも伝わっている。学園が君に処分を下すのかまではわからない」


「停学かねぇ」


「それで済めばいいがな。退学もあり得る」


「そいつは絶対にない。学園はあたしを買っているんだ」


「こんなことを言うのはどうかと思うが、とても成績優秀には見えない」


「人は見かけによらないって知らないの? とにかく退学は絶対にない。あり得ない」


 自信満々のヒラ。その表情は清々しいほど黒い。いったい何を企んでいるのだろう。


* * *


 東方司令部から送られた亡骸を見たクーゴとメトイークは絶句する。肉は剥がれ骨は砕けた状態は、とても人間がやったとは思えなかったからである。


「オラでも引くぞ……これは」


「力うんぬんではない。こういうことができてしまう心が問題だわ」


「こりゃあわっかんねぇぞ。街を救ったことを考慮しても、重い処分を下されるかもなぁ」


「それがですね……ははは……停学でも退学でもないんです。予想の斜め上の展開でして――」


「ここが中央司令部ねぇ。近衛司令部ってのは堅苦しいってのは十分身に沁みた。早くシャバに出たい」


 メトイークの言葉を遮るように言葉を発したのは、今回の功労者であり問題児でもあるヒラ。頭の後ろに腕を回して呑気に構えている。


「おめぇが噂のヒラか」


「もう伝わっているとは恐れ入るねぇ。その血だるまと一緒に送られたのはムカつくけど」


「血だるま、ですか。その血だるまにしたのはあなたでしょう」


「したんじゃない、させられたんだ。過剰防衛だとあたしを責めるかい。そいつはあんまりだねぇ、美人さんよ」


「び、美人さん!? 私が!?」


「おや、無自覚とは恐れ入る。さぞかしおモテと見受けるけど?」


「あなたの目は節穴のようですね。生憎、私にそのような浮いた話はありません。ありぃまぁせぇん」


 眼鏡を曇らせ俯くメトイーク。両手に拳を作り不満を表す。


「おめぇも言うんだなぁ。オラの周りはそればっかだ。オラにはさっぱりわかんねぇ。メトイークのどこが美人なんかなぁ?」


 クーゴは首を傾げて困り顔。自分がわからないことが、身近な人のことなので余計にである。


「伊達にあたしも女やってない。恋愛に興味はないがわかるんでねぇ。まぁ、頑張りな」


 ヒラはメトイークの肩を優しく叩く。

 メトイークは余計に落ち込んだ。年下に応援されることは嬉しいのだが、同時にそれが切なくなる。


「ま、いっか。で、ヒラの扱いはどうなってんだ」


「私の扱いを――いえ、ごほん! 彼女の扱いですが、クーゴ団長預かりの警護対象者となります」


「オラ聞いてねっぞ!?」


「今言いましたので当然です」


「マジかい。あたしを自由にしとく気はないってわけね。オーケーオーケー」


「余計なことをしなければいいだけよ」


「それは約束できないねぇ。あたし、血の気が多いもんで」


 ヒラは不敵に笑ってみせる。

 クーゴとメトイークは不安で仕方ないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ