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蘇生の光

 散りゆく薔薇のように砕けた武装石が、ナティの体に吸い込まれていく。

 ナティの肌が赤く染まる。黒い髪と瞳も赤く染まる。ひたいに武装石の角を生やした姿を形容する言葉は――赤鬼。


「ここで死んでも誰も気付かない。人知れず殺される覚悟はある?」


「生憎ないんで。殺される覚悟なんざ、タダでもいらない」


 ガラスのように割れ散る武装石が、ムロの右腕を覆っていく。

 無色透明、攻防一体の剣。右腕で防ぎ攻撃することに特化した装備がムロの切り札なのである。


「何それ? 武装石にそんな機能があるなんて知らない」


「知るか。魔法の増幅器ってだけじゃないってことだ」


 ある日、ムロの脳裏にそれは浮かんだ。家族の形見として常に持ち歩いていたからなのか。武装石というものの呪いなのだろうかはわからない。

 カザトが武装石を全く使いこなせていないことから、武装石となんらかの関係がないと発動できないのだろうか。


「奇跡かなんだか知らないが関係ない。アッシの邪魔をする以上、無事で済むと思うな!」


 足を踏み込み、飛び掛かる。瞬きをする時間もない。まさに刹那であった。

 棍棒を持たずとも赤鬼。人間を超越した重い拳がムロを襲う。


「速いじゃないか。けど、こんくらいなんでもない!」


 右腕を覆う剣で拳を防ぐ。剣は微動だにせず、ムロに攻撃の瞬間を与える。

 ムロは全く剣の重さを感じてはいない。元から体の一部だったかのように馴染んでいた。だからこそ、すぐに攻撃に移れる。


「ちっ!?」


 ナティは反射的に後退するが、ムロの剣に一撃見舞われていた。右腕から流れる血は黒い。


「武装石を体内に取り込んだ代償がそれか。黒血なんて笑えない」


「笑ってくれなくてけっこう。殺す相手に笑われたらムカつくだけさ。それにこれは代償なんかじゃない。これは進化だ」


「進化?」


「ゴッツィズがなんなのか、冥土の土産に教えてあげる。アッシらゴッツィズは、不治の病に見舞われ余命宣告を受けた。もう一年ないのさ」


「不治の病、か。自分たちが生きられないことに絶望して大勢を道連れにしたってことか。ふざけんじゃねぇ!」


 ムロの瞳が怒りで燃え上がる。


「ふざけてない。ふざけて殺しなんかできるわけないでしょ! 心を鬼にして、人類の未来のために動いてやったんだ!」


「誰も頼んじゃない」


「頼んだってできないからでしょ! 誰もやろうとしないでしょ! だから、ゴッツィズが代わりにやってあげたわけ。武装石を――不老不死の石を作ることをさ!」


「不老不死だと!? そんな夢見てんじゃ――」


「夢を見て何が悪い! アッシは生きたいだけなんだ! それをとやかく言われる筋合いはない!」


 ナティは飛び出す。さっきよりもとびきり速く。

 ナティは繰り出す。さっきよりも重い拳を。


「命を奪った奴が言うことか! てめぇらは、生き続けるはずの命を奪ったんだぞ!」


 ムロは受け止める。さっきよりも重い拳を。

 ムロは振り払う。拳よりも重い剣で。


「なっ!?」


「不老不死だってんなら証明してみせろ。死なないことを証明してみせろ!」


「ああああ――!!」


 ムロによる一閃がナティの腕を斬り落とすと、切り口から流れる黒血を靴で踏みもう一閃。左腕も斬り落とす。


「――っ!!」


 ナティは痛みに苦しむ。両腕を斬り落とされた痛みは尋常ではない。意識が吹き飛んでも不思議ではない。

 ナティの表情を見るムロ。普通の人なら思い留まるだろうし、そもそも腕を斬り落とすこともできない。


「もっと苦しみやがれ!」


 腹、足、頰、喉。ムロは躊躇なく斬りつけていく。

 右腕に纏われた武装石の剣が黒血に染まるのも構わず、真っ直ぐナティの目を見ながら。


「あ……う……あ」


「喉を潰し損なったみたいだな。微かに声を出せるか。ちょうどいい。てめぇ、言いたいことはあるか」


「た……す……け……て」


「聞こえないなぁ。不老不死が命乞いなんざするわけないもんな!」


 ムロは、ナティの心臓に剣を突き刺す。全ての怒りを込めて。心を鬼にして。

 ナティの目から後悔の涙が流れる。そして、すぐに反応がなくなった。そう、不老不死ではなかったのだ。


「馬鹿な奴だ。この世に魔法や魔術があっても、これまで不老不死が現れなかったのは、絶対に命は尽きるものだからなのに。不老不死は夢物語なんだ。まったく……せっかくの美少女が台無しじゃないか」


「アタシ、死ぬの?」


 ナティを側で見つめていたフィリウスが呟く。依然として瞳に輝きはないものの、言葉を発する意識はあるようだ。


「君を殺したらオレが殺されちまう。とはいえ、帰りのことは考えてなかったなぁ」


 ナティが作り出した異空間が消えようとしていた。それは同時に、術者であるナティが死んだことを示していた。


「殺したんだね」


「生け捕りが良かったんだがなぁ。カザトやクーゴがうるさいだろうなぁ」


「人が死ぬとこ、見たくなかった」


「オレだって見せたくなかったし、殺したくなかった。いや、殺したい気持ちがあったことは否定しない。オレから大事な人たちを奪ったんだ。復讐したくて追いかけてたのは間違いない。けど、やっぱダメなもんはダメなんだよなぁ」


 ムロは剣を解き、武装石を掴んだ手をナティの亡骸に突っ込み、剣で貫いた心臓に当てる。


「これから起こること、みんなには黙っていてほしいんだ。この世のことわりを犯すことだから」


「何をする気ですか?」


「なーに。ちょいと蘇生させるんだ、彼女を」


「えっ!?」


 ムロが発した言葉に驚いたフィリウスの瞳に輝きが戻り始めると同時に、ナティの心臓部から武装石の光が放たれる。


「オレの武装石も特別でな。完成形武装石、発動」


 武装石の発動と同時に、異空間ごと三人は消えていった。虹色の光に包まれて。

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