囚われの幼馴染
フィリウスが意識を取り戻す。
オレンジ色の瞳に映るのは、黒い髪の少女。黒いローブを着た姿は恐怖を与えている。
「お目覚め? そのまま寝ていれば良かったのに」
「あなたは? ここはどこなの?」
フィリウスは困惑していた。
どこを見渡しても真っ白。何もない空間。何も聞こえず、何も感じられない。
「アッシの魔術だ。アッシだけの世界と言ってもいいか。アッシが望むままに動かせる。理想郷だ」
「理想郷? いったい何が目的?」
「あんたは人質。囚われのお姫様。まぁ、今はアッシのおもちゃなんだけど」
「おもちゃ? いったい――」
「だーめ。アッシの許可なく喋らないで」
フィリウスの口が開かなくなる。金縛りにあっているかのように。
(なっ!? 声が……口が!?)
「アッシの名前はナティ。クソみたいな世界を壊す者。ゴッツィズの紅一点だ」
ナティが舌舐めずりをしながらフィリウスを見つめている。ローブを脱ぎ、白い肌を露出すると、フィリウスの頰に細い指で触れてうっとり。
(なっ、なんなの!?)
「オレンジ色の髪と瞳。ムカつくけど綺麗。嫉妬で切り裂いてやりたいくらい。だけど今は我慢してあげる。人質としての価値が下がるし。それよりもアッシは悲しいかな」
ナティがフィリウスの胸元に指を置くと、「えい!」と可愛らしく声を発した。
(えっ、えぇ!?)
フィリウスの体温が上昇する。心臓の鼓動が高鳴る。無理もない。着ていた服が消えてしまったのだ。
「下着は残してあげる。というかアッシが脱がす。これぞ醍醐味ってやつ」
ナティがポニーテールをほどく。長く黒い髪を垂らし頬を染めたかと思えば、何かを口に放り込み、そのまま唇をフィリウスの唇と重ねる。
フィリウスは目を見開いて驚きを隠せない。気絶させられ、次に目を開けたら真っ白な空間にいて、服を消された挙句にキスされたのだから。
(はわわわわ!?)
「口を自由にしてやった。無駄な抵抗はよし、アッシと絡み合おう」
ナティがフィリウスの口を深く犯していく。クチュクチュと音を立てて目を細め幸せそう。フィリウスの腰に腕を回し、甘い吐息を漏らす。
「「はぁ……はぁ……」」
ようやくナティが離れたため、体を動かそうとするフィリウスだが、これまた全く動かない。じんわりとかいた汗の感触は伝わっている。
「体が動かないでしょ。アッシが単にキスしたと思う? ちょっとしたプレゼントをしてあげたの。その副作用だから勘弁だ」
そう言って指で軽くフィリウスの腹に触れるナティ。
「はひっ!」
「どう? アッシのプレゼントの味は?」
「あっ! あぁん!」
ナティが指で触れてくるたびに、フィリウスの体を快楽が襲う。
必死に快楽に抗おうとするフィリウスだったが、その意地は次第に消えていく。涙を流し、汗をかき、髪を濡らして体はぐったり。
「いい声、いい顔。アッシ好みの反応してくれて嬉しいな。ふふっ、そろそろ本番といくか」
ナティは下着を脱ぐと、フィリウスの下着も脱がす。
一糸纏わぬ姿になった二人の少女が体を重ね合わせる。ほんのりと赤みがかった手足を絡ませ、オレンジ色と黒の髪を交わらせ、同じ色の瞳で見つめ合う。
「あぁっ……あ、アタシ――」
「アッシ色に染めてあげる。アッシに身を委ねればいい」
「おかしくなっちゃう! アタシ、全部が真っ白になっちゃう!」
「なっちゃいな。女同士、感じるところはわかるでしょ」
「そこはダメ……そこは……ダメ」
「ダメじゃない。一緒に、ね? アッシと快楽に溺れちゃお」
ナティのダメ押しの一声が耳元で囁かれる。
フィリウスの思考は停止した。何も考えられず、ただ快楽に溺れることしかできない。
* * *
王城の警備が厳しくなり、シロの行動は制限されていた。目を盗んで抜け出すことも、門番に頼み込むこともできない。
自室のベッドで横になっているシロの楽しみといえば、風の精霊との会話となっていた。
「へぇ、そういうことになっていたのかぁ。俺に情報が入ってこないもんだから参ってたんだよ。ありがとう」
風の精霊の姿は見えない。それでもシロにとっては命の恩人である。
何が起きているのかを知ったシロの目に火がつく。白い髪を一本に束ねて気合いを入れ、そっと扉を開けて部屋を出た。
(風の精霊――シルフ。早速頼むよ)
シロの体が風に包まれ見えなくなる。音を立てず、完全に風景と同化する。
城内を警備している近衛騎士の間を縫うように進んでいく。ネズミ一匹入れさせまいとする近衛騎士の間を王子が進んでいるなど誰も思うまい。
(武装石、ゴッツィズ、死者多数。火の大陸の国々で警戒しているけど、すでにボランが被害に遭っている。ファルスに不穏な動きあり。いくら近衛騎士ってたって限界がある。なんとかしないと)
王城の門を抜けて街中へと飛び出すシロ。透明化の風を解いてもらい歩いていく。
少し歩いたところで女性の困惑した声が聞こえてきたため向かうと、着いた先は花屋。声の主はフィリウスの母だった。
「おばさん?」
「シロ君! フィリが……!」
「フィリウスがどうかしたのか!?」
「いなくなっちゃったのよ! 黙って店を抜けることをしないあの子が。少し前に誰かと話しているところを見たって人がいたんだけどね」
「おばさんは、ここで待ってて。俺が探してくる」
「それはダメ。シロ君は王子で――」
「おばさん。俺は王子である前に、あいつの幼馴染なんだ」
シロは、フィリウスの母に一礼して走り去る。
すぐさま、風の精霊にフィリウスの気配を探ってもらうが、返ってきた言葉に耳を疑った。
「はぁ? 異空間だって!?」
シロの金色の瞳が動揺で揺らぐ。




