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嫉妬

 ムロは武装石を見つめている。落ち込んでいるわけではない。ただただ黙って見つめているのだ。

 近衛司令部の仮眠室のベッドに腰掛けている姿は画になっている。黒いワイシャツを肩に掛けており、上半身は裸の状態。鍛え抜かれた体が屈強さを感じさせている。


「よく眠れたか?」


 同じく仮眠室で寝ていたカザトが話し掛けてきた。

 いつものボロボロな格好ではなく、近衛騎士の制服を着ている。


「近衛騎士だったのか」


「元だ。普通の服よりも丈夫だからと渡されたんだ。今も体がムズムズしてしょうがない」


「オレにはくれないのか。黒地に赤い線なんてオレ好みなんだけどなぁ」


「簡単に着られるものじゃないし、着ていいものじゃない。どうしてもっていうなら聞いてみるぞ」


「そこまでしなくてもいいや。クリーニングして返せと言われても嫌だし」


「堅苦しいのが嫌で辞めたんだがなぁ。人生ってのはわからん」


「十八で人生語るなよ。一気に老け込んじまうぞ」


「少々背伸びしていないとやってられないさ。さてと、朝食を済ませたら見張りにいくぞ。ムロ、準備しろ」


「食べなきゃダメか? オレ、朝飯は食べないんだ。胃が受け付けなくてな」


「無理にとは言わないが、何か入れとかないとバテるぞ。軽いパンでもビスケットでも構わないから食べておけ」


「はぁ、仕方ないなぁ。郷に従うとしますか」


 ムロは武装石をズボンのポケットにしまい立ち上がり、肩に掛けていた黒いワイシャツに袖を通す。しっかりと前をしめて気を引き締める。

 仮眠室の扉を開けて出ていく後ろ姿が頼もしく映る。男は背中で語るとはこういうものなのだろうか。


 ――ぐぅ。


「なんだ。腹減ってるじゃないか」


「だ、黙れ。胃の気紛れだ」


「そういうことにしといてやるよ」


 何気ないことで気が緩む。張り詰めた空気を一瞬でも変えてくれる出来事にカザトは内心感謝している。

 せめて食事のときくらいは、張り詰めた現実を忘れていたいから。


 近衛司令部・団長室。

 クーゴとメトイークの表情は険しい。心を落ち着かせるために飲んでいる紅茶に手をつけず、ただ頭を抱えていた。


「参った。まさか……」


「ボランが一夜にして様変わり。何者の仕業なのかは不明ですが、おそらく、ゴッツィズによるものでしょうね」


「見せしめのつもりなのか? 武装石を作るためだけにたまたまなのか? なんにしてもヤバいぞぉ」


「各近衛司令部からの定時連絡によれば、怪しい動きや情報はないとのことです」


「便りがないのは良い便り、か。全くそんなことねぇじゃねぇかぁ。元気じゃねぇじゃねぇかぁ」


「明日は我が身かもしれません。気を引き締めていきましょう」


「そうだな。オラが取り乱したらダメだ。うっし」


 クーゴが気合いを入れるために頬を叩いたと同時にカザトとムロが入ってきた。二人の表情も険しい。

 四人を重い空気が包むかと思いきや、険しい表情をしていたクーゴが笑い声を上げた。


「あーははは! なんだそれぇ。子どもがやるなら可愛げあっけど、おめぇがやっても可愛かねぇぞぉ」


「何が可笑しいんだ?」


「お前、気付いてないのか!? さっき食べていたシュークリームのクリームが口に付いてるぞ」


「……マジだ。全然気が付かなかったな」


「緊張感持てよ」


「持ってるから心配なく。ところで今、通りがけに聞こえたんだが、ボランって国が滅茶苦茶にってさ」


「その通りだぞぉ。ボランは、ファルスとは友好国なんだ。火の大陸のどの国よりも親交を深めていた。それが……はぁ」


「ファルスに対しての宣戦布告ってわけか。受けてたとうじゃないか!」


「他国のお前が言う台詞じゃないだろう。けど悪くない。心強いよ」


「今のところ、各司令部からの連絡は平常運転だ。嵐の前の静けさかもしれねぇけんどなぁ。カザト、ムロ、どうか頼む」


「任せとけよ。ライズのときは一番役に立てなかった分、今回で挽回するさ」


 腰の剣を掲げて宣言するカザト。漆黒の瞳の奥は熱い。二度と負けまいという意気込みを覗かせている。


「これ以上、ゴッツィズの好きにさせてたまるか。オレの力でねじ伏せてやる」


 ムロの手には武装石が輝いている。目には目を、歯には歯を、武装石には武装石をということなのだろう。


* * *


 黒いローブに身を包む少女が一人。

 黒い髪のポニーテールを揺らしながら歩く姿に、すれ違う人たちは振り返る。


「ふーん。作戦の時間稼ぎにきてみたけど、まぁまぁかな。アッシの暴れる舞台としちゃ文句ない」


 少女の視界に花屋が留まる。元気に店番をしているオレンジ色の髪の少女を見るや不快感を見せる。

 ローブの前を開けて体を露わにする。胸元で輝く赤い石。一見すると宝石だが宝石ではない。


「いらっしゃいませ。どのような花をお探しですか?」


「うーん……あんたの髪がいい」


「はい? ――うぐっ!?」


「花よりも綺麗な髪を持っているあんたが悪い。アッシの遊び相手になってもらう」


 ゴッツィズの紅一点――ナティ。カザトよりも漆黒の瞳に映るのは、どの花よりもオレンジ色が映える髪を持つ少女――フィリウス。

 シロにとって身近な存在のフィリウスが狙われた。戦いに無関係なはずの幼馴染が。このことをシロはまだ知らない。誰も知らない。

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