動き出す者たち
ゴッツィズのことが王に伝えられる。
水の大陸だけで四百人の犠牲が出ていることを聞かされ言葉を失い、火、風、土の大陸にゴッツィズの三人がきている可能性や、四百個の武装石による犠牲者出現の可能性を聞かされ頭を抱えてしまった。
伝えにきたカザトとムロに緊張が走る。一国の王には重すぎる話である。
「王。俺と彼も近衛騎士に協力します。その間、王子の面倒を見ることが叶いません。もっと稽古をつけてやりたいのが本音ですが、とてもそれどころじゃないので」
「事情が事情だ、仕方あるまい。それよりも、君はそれでいいのかね? 近衛騎士ではなく、君は民間人なのに」
「正直言うと、俺の柄じゃないんです。でも、彼も民間人ですが戦っていると聞いて、ちょっと疼いちゃいました」
「いいのかよ!? 王様に対しての態度がそれで。おっかなくないのか?」
「ムロ君、だったかな? ファルスにようこそだ。本当はのんびりしてもらいたいのだが、そうも言ってられないのだろう」
「は、はい! すでに四百人の犠牲が出ている以上、のんびり観光とはいきません。微力ながら、オレ――私のできることをしようと」
「そんなにかしこまらなくていい。普段通りが一番なんだ。それが普段ならば構わんよ」
「えへへ。そういうことなら甘えちゃおう。ごほん。ファルスは、火の大陸の国の中でも大きい。狙われる可能性は十分ある。警戒に越したことはない」
「特にベルリスは危険だと思います。人が多く集まるところなら、身を紛れ込ませることは容易い。王城の警備を強化するのはもちろん、街の警備も強化しないといけない。クーゴの魔術で不穏な気配を追うことはできるが、それにも限界がある」
「うむ。火の大陸全体でゴッツィズとやらの確保に動かなければいけないな。武装石とやらも物騒だ。魔法を増幅させるものが出回るとどうなるか……想像に容易い」
「想像するだけで身震いする。平和を脅かしてどうしたいのだろうか。俺にはわからない」
「オレにもわからん。うっし。とにかく、これで前進したかな。ここまでが長く感じたぜ。花束踏まれたし」
ムロが肩を回して苦労を表す。
カザトは立ち上がると、体を動かして伸ばす。
「そのことは謝る。それよりムロ、宿は決まっているのか?」
「いんや。そんなもんは後回しにしていたからなぁ」
「じゃあ、近衛司令部に泊まってくれ。俺も一緒だ」
「王城じゃダメか?」
「変に緊張させたくない。専属と増援の騎士だけでも気が詰まるはずだ」
「そういうことならそうするか。よっと!」
ムロも立ち上がり体を伸ばす。カザトとは身長や体つき、年齢も同じなのだが、左手の甲に傷痕がある。
カザトは傷痕を見て、ただならぬ強さをムロから感じていた。だが、確信はない。絵を愚弄されて落ち込んだ姿から、強い想像ができないのだ。
「腕っぷしは間違いない」
「なんか言ったか?」
「なんでもない。行こう」
白と黒の背中を王に向けて出ていく二人。刀と拳に視線を移すと、纏う空気を変えるのだった。
※ ※ ※
火の大陸の一国に、黒いローブに身を包む怪しげな三人の男女。人口数百の小国が滅びる様子を満足げに眺めている。それぞれの手には、武装石が輝いている。
「だいぶ作れた。これで計画に移せる」
「七人の役立たずのせいで遅れた分、アッシらで巻きに巻いて暴れてやらなくちゃ」
「仲間に対して役立たずはないだろう。まぁいい。ゴッツィズの力、世界に知らしめよう。水の大陸で生み出した武装石を、まずは火の大陸で試し、次に風と土の大陸に上陸する。圧倒的な力でじわじわと攻めていく」
三人の足元に転がっているのは大量の武装石。一見すれば綺麗な石だが、石を輝かせているのは尊い命である。
血のように赤く輝き始めた武装石は、ガラスの破片のように一斉に割れ散る。赤い破片が、三つの武装石に形を変えて三人の手に。
「赤い。赤い。赤い」
「そそる色をしちゃってぇ。アッシは好きだ」
「喜ぶのは早い。これを使いこなせなければ意味がない。乗り込むぞ」
「どこの国に? こんな小国は嫌だね」
「もう決めている。ファルスだ。ナティ、ベオ」
「ファルス!? レオ、考えたじゃない。そりゃあいい。大国ってのは、潰し甲斐があるってもんだ!」
「殺す。殺す。殺す」
赤い武装石は、いったいどんな力を秘めているのだろうか。
ゴッツィズの手に世界は落ちてしまうのだろうか。
ただひとつわかっていることは、一国が三人に落とされたということである。




