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 あれから何度も精霊との接触を試みているができず、なんとかならないかと頭を悩ませるシロ。稽古も勉強も身が入らない。精霊のことだけが理由ではなく、結局、あの優しかった近衛騎士――ライズを殺したのは自分であることに心を痛めているのだ。

 カザトにもクーゴにも「気にするな」と言われてはいるものの、それは無理な話。王子だ、絶対王政だと守られても体は覚えている。風を通して殺した感触を。


 王子が連れ去られたという騒動は、シロが元気に街を歩いてみせて収め、犯人は捕まえたということにしている。死んだ殺したと、王に対しマイナスなイメージを持たせないためだ。


「むむむ」


 机に向かっているシロの背後に立つ父。シロが連れ去られたことに強くショックを受け、無事に戻ってきてからは、なるべく側を離れまいとこの調子。

 シロはため息を吐くしかない。心配してくれるのは嬉しいし、幸せなことと感じている。だが、これでは落ち着けない。監視されているみたいで休まらない。


「俺は大丈夫だから。王城には護衛がいるだろう?」


「信用できん」


「信じてやれよ」


「えー」


「えーじゃねぇよ!」


 自分の身を守ってくれている近衛騎士を信用できないと一蹴した父に、シロは思わず突っ込んでしまう。そんな気力があったのかと自分に呆れてしまう。


「……ようやく笑ったか」


「え?」


「ずーっと思い詰めているように見えていた。それが心配で心配で仕方がなかった。また自分を責めているのかと」


「だからずっと?」


「当たり前だ。子を心配しない親がいるか。王だろうと親は親だ。そこに身分など関係ない」


 父が親指を立てて去っていく。安心したのか笑みを浮かべていた。


「まったく。なんちゅう父親だ。変なとこで勘が鋭い」


 口元を緩めて背筋を伸ばす。机に向かうシロから暗さが消えた。明るい表情で課題を見ている。


「えと……わからん」


 シロは頭を抱える。勉強で四苦八苦することの方がずっと辛い。問題が解けたときの快感はたまらないと思っていても、解けるまでは辛い。


「シロ、いい?」


 リミリアが、シロのことが気になって様子を見にきた。


「どうした? お前も俺を心配してたのか?」


「うん。あんなことがあったから」


「それは俺の台詞だよ」


「ワタシは大丈夫。不老不死だってこと、気にしてない」


「そうか……それならいいんだ。心配してくれてありがとうな」


 気にしてないわけがない。口に出していないだけ。

 永遠の十歳といえば聞こえはいいが、他の人と同じように老いることができないというのは、きっと想像以上に辛いだろう。

 シロは、リミリアの頭を優しく撫でるのが精一杯。他に慰めの方法がわからない。


「シロ、優しいね」


「これしか取り柄がないだけさ」


「そんなことない。心も体もシロは強い」


「それはどうかな。俺、どっちも打たれ弱いぞ。誰かに助けてもらわないとダメかもなぁ」


「じゃあ、ワタシが守る。シロを守ってあげる」


「年下に守られるのかぁ。嬉しいような悲しいような」


「大丈夫。ワタシの方が年上だから」


「えっ!?」


「ワタシが奴隷になった理由は、ワタシを、ワタシの両親が恐れたからなの。ずっと容姿が変わらないから」


「見えてないのにわかるのか?」


「前にも言ったでしょう? 見えてるって。心で見えるの」


「……心眼ってやつか?」


「うん。見たくなくても見えちゃうのが痛いけど、それさえ我慢すれば大丈夫。ワタシ、自分が不老不死だって知れて納得した。理由がわかれば恐くない」


「大丈夫、か。なんだか俺も救われるよ」


 リミリアの言葉は、シロの心に不思議と響く。聞くだけで安心する。どうしてなのかはわからない。

 わからないといえば、リミリアの実際の年齢だ。シロよりも年上ということは、十六歳以上となる。リミリアの顔を凝視するが、シロはわからない。


「そんなに気になる? ワタシの年齢」


「気にならないと言えば嘘になるかなぁ」


「しょうがない。シロには特別に教えて……あ・げ・な・い」


「えぇー! そんなああ!」


「女の子に年齢を聞くのはダメ、ご法度。ね?」


 口元に人差し指を当ててウインクしてみせるリミリア。

 見た目は十歳、中身は何歳なのだろうか。青い髪の可愛い少女に謎ができた瞬間である。


※ ※ ※


 カザトが手にしているのは、血を吸うことで魔法を増幅させる透明な石。見た目は綺麗だが、中身は復讐の血である。


「う~ん」


 風魔法の強化ができないかと試しているのだが、なかなか上手くはいかないでいた。


「俺の血を吸わせないとダメなのか? でも、奴は使えていたしなぁ」


「なーに一人で言ってんだぁ? 気味わりぃぞぉ」


 近衛司令部の屋上にカザトとクーゴはいた。風を受けながら考えに更けるのが二人の共通点。ただ、クーゴは何も考えてはいない。今は、ただのサボりである。


「お前には関係ないぞ。しっ、しっ!」


「安心しろ。関わる気なんかねぇ。面倒なのはパス」


 クーゴは颯爽と立ち去る――はずだった。秘書の姿を見るまでは。


「サボってんじゃないわよ! 今日、屋上で黄昏るほど働いてないですよね。書類に判を押すのもできないんですか!」


「こりゃあヤバい。カザト、助けてくれねぇか」


「面倒なのはパス。健闘を祈る」


「そりゃねぇぞおお!」


 メトイークに連れ去られるクーゴの姿には、近衛騎士団長の欠片もない。

 カザトは静かに笑う。クーゴとメトイークのやり取りで、頭が空っぽになる。


「頭がスッキリしたなぁ。考えすぎはダメなのかも。俺もまだまだ小さいな」


 体を伸ばすカザトの目には、青空の街が果てしなく、どこまでも続いているように映った。

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