仮面の復讐
意識を取り戻したシロを頭痛と吐き気が容赦なく襲う。体が尋常じゃなく冷たいことと、目を開けているのに暗いことに驚く。
「お目覚めかい?」
「リミリアを……かえせ」
「そいつはできない相談だ。この女には死んでもらわなくちゃだ」
暗い空間が明るくなる。そしてシロの目の前に、手足を拘束され床に倒れているリミリアが現れた。体中に傷ができており、すでに虫の息である。
「リミリア!?」
「死ぬところを見せたくて生かしといたんだ。感謝してほしいくらいだ。さぁ、さようならだ」
「やめろおおおお!!」
シロの悲痛な叫びも虚しくリミリアの心臓は貫かれ、あっという間の出来事にシロの頭は真っ白になってしまう。
「やっぱ殺しは見せつけてこそだ。さぁ、泣けよ王子様。情けなく泣き顔を晒せよ!」
「…………」
「ちっ! あまりのショックに感情が欠如したみたいだな。これだからガキは好かねぇ」
「ぐは……あぁ……!?」
首を締め付けられるシロ。頭痛と吐き気とリミリアを目の前で殺されたショックと合わせて四重苦。頭が真っ白になっていても痛みは容赦なくやってくる。
「俺の名はライズ。この国に親を殺された男だ。無実の人間を二人も殺したファルスの王は悪魔だ! だから、王の子も悪魔だ。悪魔の血は途絶えさせなければ」
「あ……うぐ……」
「王の前で殺してやろうと思っていたが気が変わった。今すぐ殺し、その首を見せつけた方がショックだろうな!」
ライズの手に力が入る。
シロの首が締め付けられる音が強くなると共に、シロの意識が遠くなっていく。
「さぁ、さようならだ」
ライズの素手が尋常じゃなく硬くなり、シロの心臓を容赦なく貫いた。ライズが手を引き抜くと、シロの胸から大量の血が出てくる。
「よし、死んだ」
シロの脈がないことを確認したライズは、シロの首を躊躇なく切り落とす。首がなくなった胴体に用はないと言わんばかりに足で蹴りつけ唾を吐いた。
「さて、晒すとするか」
ライズは王城に向かうべく歩き出そうとするが、二人の男性が行く手を阻む。
「よくも……よくもおおおお!!!!」
「一歩遅かったか。えげつねぇ奴だ」
カザトは怒りの形相で剣を抜くや斬りかかる。風分身を囮に気衝閃を放つが簡単に避けられてしまう。
クーゴは冷静に物事を理解して戦闘態勢に入る。制服を脱ぎ捨てて髪を上げる――これがクーゴの本気の状態だ。
「よくここがわかったな。街外れの古小屋を選んだってのに」
「オラは気配を追えるんだ。王子の気配は追いやすくて最高だ。結果は最悪だったがな」
「そうだったのか。お前が生きている限り逃げられないわけだな」
ライズが手を硬くして狙いをクーゴに定める。床を蹴ると一瞬でクーゴに接近。手を剣のように振り下ろす。
クーゴは咄嗟に剣を抜いて応戦。剣によって手は斬られる――ことはなかった。
「いっ!?」
剣が手につばぜり合いで負けるという事態を目の当たりにしたクーゴは焦りを隠せない。ライズと距離をとって剣を見ると、見事に剣は欠けていた。
「素手に負ける剣など捨ててしまえ」
「こいつは驚いたぞぉ。おめぇみてぇな奴がいるなんてなぁ。正直逃げてぇ」
「逃げろ逃げろ。情けない負け犬として逃げてしまえ」
ライズの強さにカザトは手も足も出ず苦悶の表情を浮かべるしかない。
だが、クーゴは違った。弱音を吐きながらも戦意を消失させてはなく、体を構えて攻撃の意思を表す。
「わりぃなぁ。このまま逃げたところで王に殺されるのがオチだ。どうせ死ぬなら悔いなく死にてぇ。全力でおめぇと戦って死んでやっぞ!」
クーゴの体を稲妻が迸る。それによって髪が逆立ち、目付きが鋭くなる。
「クーゴ! それは禁じられているんじゃなかったか!?」
「そんなことを言っている場合かよ。王子を守れなかった時点で、近衛騎士の禁忌を犯したも同然だ。師匠の言いつけを破るくらい恐かねぇ」
「悪あがきはよせ――」
「油断は禁物って知らねぇか? すっかり体が留守番してっぞ」
雷速拳。
体の強度は剣を凌駕し、速さは雷と同等。しかし代償は大きく、技を使う者の体に負担を強いる。
ライズの手足を折ることに成功したクーゴだが、心臓を苦しそうに押さえ吐血していた。
「クーゴ!?」
「け、剣術に比重を置きすぎちまってたみてぇだ。か、体がすっかり鈍っちまってた」
「うぐ!? こ、この野郎がああ! よくも俺の手足を!」
「こ、これでおめぇは動けねぇ。おめぇの負けだ」
クーゴから稲妻が消え、その代わりに汗が出る。苦しそうに心臓を押さえて床を転がる。
「死ぬんじゃないぞ! 死んだら悲しむ人がいるんだからな」
「へ、へへぇ。オラ、初耳だぞぉ……ぐはぁ!!」
心臓の痛みが増え、転がることすらできなり、吐血量も増えてしまい意識が遠くなっていく。
「馬鹿な奴らだ。無駄な痛みを負うなど」
ライズは不敵に笑うと体を氷に変化させ、再び元に戻す。
カザトは目を疑った。クーゴが捨て身で折った手足が動いていることに。
「なんだと!?」
「切り札はとっておくもんだ。俺にとっちゃ朝飯前よ、骨折は」
再生した手足を動かして確かめ、痛みなど吹き飛んでしまったとばかりに左右の拳を突き合わせるライズ。そこに一切の隙はない。
カザトは死を覚悟して剣を構えた。何もせずに死ぬよりかはマシだという開き直りでもある。
「ひと思いに殺せ。ただじゃ死んでやらないがな」
剣に匹敵する体を持ち、体が傷付いたとしても氷に変化させ再生してしまう。黒い仮面から放たれる威圧感に呑まれれば最後。待っているのは――死。
「いいだろう。すぐ楽にして――」
ライズによる死刑宣告が阻まれる。背後からの襲撃により。ライズは振り向き目を疑った。自分を襲撃したのは、自分がこの手で確かに殺した者だったからだ。
「ゆだんたいてき、だ」
「シロ!?」
「カザトにいちゃん。ここはぼくにまかせて」
白い髪の一部と左半身が灰色に染まっているシロ。前に暴走した姿だが、違うところもある。
緑色に染まった左の瞳のおかげで、以前のような邪悪さは感じられなかったため、カザトは頷きシロに託す。




