デート
シロとリミリアが靴屋に向かって歩いている。そんな二人の顔は赤い。
すれ違う人たちから聞こえる「可愛い」の声。シロの体質を国民全員が知っているため注目されるのは仕方ない。今は女の子を連れているのだから尚更だ。
「ぼくからはなれるんじゃないよ」
「う、うん」
人に見られるのが苦手なリミリアは顔を俯かせている。
シロはリミリアの手をしっかりと握りサポート。不安を払拭しようと、できるだけ体を寄せている。
「もうつくよ。みせにはいればだいじょうぶだ」
「うん。ありがとう」
表通りを歩いて靴屋に到着。
二人はさっそく中に入って物色しだす。店員の声に耳を貸すことはなく、自分の世界に入っている。
「「これ!」」
気に入った靴を店員に差し出す。
履いてた靴は処分してもらうことになり、さっそく新しい靴に履き替える。
まだまだ違和感のある履き心地に苦笑しつつジャンプするシロ。シロのことを知らない人が見たら、本当に八歳の男の子だと思うに違いない。
「シロ、似合う?」
赤い靴を履いて踊ってみせるリミリア。青い髪と相まって彼女の魅力が溢れている。
「にあってるよ。かわいい」
「かっ、可愛い!? あっ、ありがとっ」
顔を赤くして俯くリミリア。さっきまで言われていた「可愛い」とシロに言われた「可愛い」は全く違って聞こえた。
シロは首を傾げながらも、リミリアが喜んでくれているのならいいと安堵する。
靴屋を出た二人は王城に向かって歩く。行きと同じく手を繋いではぐれないようにしている。
「あし、いたくないか?」
「大丈夫。ワタシ、靴を自分で選んだの初めて。奴隷のときは裸足だった。靴で足を痛めるのなんて気にならない」
「それもそうだな。うれしいひめいってやつだな」
奴隷だったことを過去として喋られるようになったリミリア。それはとても大きな成長であると同時に、それだけ今の生活に慣れたということ。
少し小腹がすいたシロは、パンを二つ買い、一つをリミリアに渡す。
リミリアは目を輝かせる。王城に住むようになってから、すっかりパンが好物になっていた。
「いいの?」
「いっしょにたべたほうがおいしい。ぼくはマーマレード、リミリアはクリーム」
「クリーム!? やった!」
クリームと聞いて我慢できなくなったリミリアは、一度喉を鳴らしてひとかぶり。口の中に広がる甘さと滑らかな舌触りに頬を緩ませる。
「甘い! 甘いー!」
「カスタードはじめてだろう。どうだ?」
「うん! ワタシ、カスタード好き!」
リミリアの喜びようにシロは嬉しくなる。マーマレードのジャムが入ったパンを食べて頬を緩ませる。
あっという間にパンを完食した二人は、幸せ気分で歩いていた。
(――!?)
気が緩んでいたシロが何かの気配を感じ取る。リミリアの手を握る手に力が入る。
「シロ!?」
「ちょっとはしるぞ。こっちだ」
裏通りに入って物陰に隠れる。表通りに比べて人通りが少なく見通しがいい。家が建ち並んでいるため寂しさはない。
しかし、シロが感じ取った気配には不気味さがあった。周囲を確認するが人の姿はない。
「シロ、大丈夫!?」
「わからない。なんともいえないけはいをかんじるんだ」
「じゃあ、早く王城に戻ろう」
「そうだな……くっ!?」
動き出そうとしたシロを頭痛が襲う。視界が眩み吐き気を催す。
リミリアはシロの異変に動揺を隠せず慌ててしまう。リミリアから不安をなくために繋いでいた手が逆に不安を与えてしまっていた。
「シロ! シロ!!」
「にげろ……リミリア……!」
「どういうこと!? シロ、しっかり――」
懸命にシロに声をかけていたリミリアを強い衝撃が襲う。
気絶したリミリアを小脇に抱えシロを見下ろす者が一人。シロの髪を掴み高々と持ち上げ笑う。
「ようやく見つけた。悪魔」
「あくま? ぼくはおうじだ」
「そうか。とにかく一緒にこい」
「ごふ!?」
腹を殴られ気を失う直前にシロが見たのは、黒い仮面と、気絶しているリミリアだった。
※ ※ ※
紅茶を楽しんでいるクーゴの耳に不穏な情報が入った。クーゴはボサボサの髪を掻き、腰に巻いている制服を着て、横にいるメトイークに目配せして一言呟く。
「おかわり!」
「おかわりじゃないでしょう!」
クーゴのボケに猫パンチで突っ込むメトイーク。差し出されたカップで叩いてやろうかと思ったが自重した。
「連れ去りでオラが出る必要あっかぁ?」
「連れ去られたのは王子らしいのです。団長が動かなくてどうするんですか!」
「んなこと言われても困っぞぉ。オラだけじゃ限界があるのわかるだろう」
「団長命令で騎士たちを動かしてください! こうしている間にも王子が!?」
「不確定な情報に振り回されてちゃダメだぞぉ。慌てたら負けだ」
「こういうときにに慌てなくてどうするの!」
「こういうときだからこそだ。ましてやオラたちは近衛騎士。慌てている姿を国民に見せるわけにはいかねぇ」
「そ、それはそうですけど!?」
「第一、連れ去られたのが王子だなんて関係ねぇ。どんな身分であろうと助ける。違うか?」
「う、う~!」
「オラに言い負かされるようじゃまだまだだぞぉ。さて、いってぇどこのどいつだぁ? ファルスで馬鹿をする奴は」
団長室を出るべく扉に向かうクーゴだったが、扉の向こうから声が聞こえて足を止める。
扉が開き団長室に入ってきたのはカザト。顔は青ざめ体は震えている。普段の姿からは想像もつかない。
「何か情報は……情報はないか!?」
「落ち着けカザト。わりぃけど情報はねぇ。おめぇが冷静さを欠くなんてなぁ」
「風の噂が耳に入ってな。ここにくれば何か情報があるだろうと思っていたのだがな」
「オラに協力しろ。おめぇの力が必要だ」
「当たり前だ。頼まれなくとも協力するさ」
拳を重ねるクーゴとカザト。カザトの拳の震えを感じたクーゴの目に火がついた。