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ご対面

 リミリアは首を傾げ、大きな目を丸くして驚いている。

 いつものようにシロを起こしにきたはずなのに、そこに寝ているのは小さな男の子。


「誰なの?」


 シロを探して部屋をきょろきょろするがいない。

 恐る恐る、男の子の体を揺する。最初は優しく、徐々に力を加えていく。


「うぅ」


「はひっ!?」


 声を発した男の子に驚いて後ずさる。

 男の子は起きてはいなく、何事もなかったように寝息をたてる。

 リミリアはなんだか無性に男の子を起こしたくなった。起こせない悔しさで奮い立つ。寝間着の猫の袖を捲り気合いを入れて近付く。


「おーきーて!」


 男の子から布団を剥ぎ取ろうと力を入れて、さらに頬を膨らませながら懸命に引っ張る。それはもう意地だ。


「むにゃむにゃ」


「誰だかわからないけどおきて! そこはシロのベッド!」


 青い髪が乱れることなど気にする素振りもなく布団を引っ張るが力及ばず。体を激しく動かして悔しさを表すと、男の子に向かって飛び掛かった。


「ごふぅ!?」


 男の子は痛みで目を覚ます。自分の体に乗っているリミリアを見るや察した。

 リミリアは、男の子が起きたことに気付いていない。男の子の腹に指を這わすことに集中している。


「くすぐりくすぐり」


 相手を痛くせずに起こす方法としてシロに教わったくすぐりを実践している。

 しかし、まだぎこちなさがあるため、男の子はあまり感じていない。


(どうしよう)


 男の子は、くすぐりで起きたようにするべきなのか悩む。まだ完璧ではないが努力を認めないと落ち込んでしまうだろう。

 リミリアの表情は暗い。どんなことをしても起きない男の子に負けたと肩を落とす。


「あはははは! くすぐるなよ!」


 リミリアを落ち込ませたくない。そのためにできることをしよう。男の子は迫真の演技で起きてみせた。


「起きた!」


「ぼくのまけだよ。リミリアのくすぐりにはかなわないや」


「ワタシを知ってるの?」


「そうか、ぼくのこのすがたをみるのははじめてなんだな」


「誰なの?」


「ぼくだよ。シロだ」


「シロ!?」


 リミリアの目が大きく開かれる。突然のことに頭を抱える。理解が追いつかない。


「おどろかせてごめん。ぼくもよくわかってないんだ。でもげんきだからしんぱいしないで」


「元気なんだね!? 良かった!」


 とにかくシロが元気だということに安心するリミリア。シロに頭をぽんぽんされて頬を染める。

 シロとリミリアが一緒にリビングに向かうと、ルリが笑顔で出迎える。シロが小さくなっていることで笑顔は二倍。


「ショタモードおおおお!」


 笑顔のままシロに抱きつくルリ。鼻息荒く興奮を隠す気はない。シロの首に腕を回し、自慢の胸にシロの顔を埋めさせた。

 もうお約束である。だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。耳を真っ赤にしながら抵抗するシロだが逆効果。


「可愛いのおおおお!」


 じたばたするシロの姿は、ルリの興奮を加速させるだけ。小さくなった体ではルリに力負けしてしまう。

 生唾を呑み込むルリ。笑顔の奥に隠していた欲望を解き放ちシロを押し倒す。


「ね、ねえちゃん!?」


「我慢の限界きちゃったのぉ。だからぁ、いただきます」


 体の自由を奪われたシロの唇に迫るルリの唇。顔を逸らして回避を試みるシロだが、そんなことは無意味なのはわかっていた。それでも避けたい。姉とだけはなんとしても。


「ダメだねえちゃん! きょうだいでダメだ!」


「ファルスは絶対王政。お父様なら許してくれるのぉ」


「こんちくしょうめええ!!」


 シロの脳裏に浮かぶのは一人の少女。

 喜怒哀楽。いつも見せる何気ない姿が愛しい。そんなことは口が裂けても言えないが、心の中で少女の名前を叫ぶ。シロも不器用なのだ。


「お姉ちゃん、ごめんなさい!」


 ルリの体が押し倒される。そこで理性を取り戻す。

 シロに助け船を出したのはリミリア。全身に力を入れてタックルをしたのだ。

 まさかリミリアに助けられるとは思わなかったシロは驚いている。どこにそんな力があるのかと目を見張る。


「リミリアちゃんに押し倒されちゃったのぉ。ぐへへ」


「シロが嫌がることはダメ。シロのことが好きなのはわかる。だからこそ自制して」


「リミリアちゃんならいいのぉ?」


「胸に顔を埋めるくらいならいい。気持ちいいから好き」


「リミリアちゃん!」


「気持ちいい……気持ちいい」


 リミリアは自分を差し出してシロを救うことを選んだ。ルリの胸の柔らかさを堪能したかったのもあるのだが。

 事なきを得たシロは、優しくリミリアの頭を撫でる。自分よりも背丈が高いリミリアが新鮮に映る。


「ねえちゃん。リミリアをかなしませたらダメだぞ」


「はぁ~い」


「やれやれ。さてと、そろそろいこう」


「どこかに行くのぉ?」


「きのういっただろう? くつをかうんだよ」


「靴ならいっぱい持ってるでしょう?」


「おれのならな。ぼくのはもうダメだ」


「そうなんだぁ。そうだぁ! リミリアちゃんも一緒に行ってきたらぁ?」


「ワタシも?」


「うん。自分で選べば愛着が湧くものぉ」


「一緒に行ってもいいの? シロ」


 リミリアに問われたシロが笑顔で頷くと、リミリアが笑顔を咲かせ、シロの手を握りぴょんぴょん跳ねて喜びを表す。


「いってらっしゃい。楽しんできてねぇ。デート」


 ルリの言葉を聞いたリミリアの手に力が入る。ルリを見て力強く頷くのだった。

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