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勝機はフェイク

 近衛騎士の制服を着て街中を歩くカザト。剣に手を添えて、いつでも戦闘態勢に入れるようにしている。

 出歩いている人はいない。いつもは賑わっている表通りが閑散としている。街が空虚だと寂しさを覚えてしまう。


「もう現れたようだな」


 カザトの目の前に現れたのは、全身をコートで包んだ男性。力強さを感じさせる濃い顔が印象的。


「近衛騎士なのか。さっきの奴よりも歯応えがあればいいが」


「歯応え、ねぇ。俺の血も吸う気かい?」


「近衛騎士の血は上質だと思っていたのだが期待外れだった。今度はどうだかな」


 男性はカザトを見ながら舌舐めずり。濃い顔と相まって不気味さを与えてくる。

 カザトは剣を抜いて正面に構える。一切の隙を与えないように目でも威嚇。


「なんで彼を殺した。王族と親しくしていたからか?」


「王族? われはただ、強い奴の血が好きなのさ。近衛騎士は強いという先入観で襲ってみたがダメだった。貴様もダメならガッカリだ」


「誰が大人しく吸われてやるか。悪いがお前を斬る」


「ファルスは絶対王政だろう」


「俺、王族とは親しくてね。はっ!」


 瞬時に風を纏い斬りかかったカザト。だが、確実に命中したはずなのにその顔は曇る。

 男性のコートが破れ落ちる。カザトの剣を受け止めた右腕は鈍く輝いていた。


「同じ素材じゃあ、我に分があるようだ」


「義手……だと……!?」


「火の大陸だと珍しいのか? 水の大陸の北国では重宝されているんだがな」


「火の大陸で凍傷の心配はないんでな。剣と同じ素材で作られた義手は初めて見た」


「おっと。義手だと同情なんかするなよ」


「どんな奴だろうと命は命。その存在に優劣はない。だが、時と場合によっては選択を迫られる」


「綺麗事を並べようと世は非情だ」


「お前を生かしておくと命が次々に奪われる。なら俺は、お前という存在を奪う!」


 カザトの纏う風が人と成す。

 肉眼に映る風の姿は間違いなくカザトである。男性は舌舐めずりをして喜びを表す。


「風の分身だな? 本体と合わせて六人。血も六倍なのか?」


「そいつは残念。風に血は通ってなくってな!」


 六人のカザトが不規則に斬りかかる。一撃で仕留めようとはせず、男性の隙を狙う。


「甘い!」


 男性の義手が唸りをあげる。

 眩しく義手から雷が放出され、風の分身を消滅させていく。


「……たまげた。その義手、魔法の増幅器にもなるのかよ」


「水の大陸には、とても珍しい石があってだな。それを埋め込んだわけだ。ふふふ、降参するか?」


「誰がするかってんだ。降参なんかしたら弟子に笑われちまうよ。お前の強みは十分わかった」


 カザトは剣を納めて風を纏う。呼吸を整えて空高く飛び上がり、空中で体を回転させる。

 下でカザトを見上げ笑う男性。避ける気は毛頭ないようだ。


「回転と急降下の合わせ技というわけだな、面白い。我の義手と貴様の剣のどちらが丈夫か競おうじゃないか!」


 義手に雷を纏わせ構える。義手ということを除けば丸腰なのだが、男性の存在感がそれを忘れさせる。

 カザトはしっかりと標的を捉え殺気を放つ。威圧という形なき矛で、男性の存在感に対抗する。


「気衝閃!」


「おりゃああああ!」


 男性の義手が剣と触れ合い鳴り響く――ことはなかった。

 義手が触れたのは分身――つまりフェイク。


「勝負あり、だな」


「……ぐふぁ……!?」


 男性が分身に気を取られている間に胸を貫いた。どんなに強くても隙はできる。

 カザトは男性の胸から剣を引き抜くと、しっかり血を振り払い鞘に納めた。


「心臓は外した。聞きたいことがあったんでな」


「聞きたい……ことだと?」


「一人分の血、本当はどうした」


「……我の血じゃダメだった……たまたま目に入った……奴……を」


 そこで男性の息の根は止まった。

 カザトは男性の目を閉じて空を見上げ、静かに冥福を祈る。たとえ敵でも命は命、それがカザトの信条。


 遺体の男性を連れて司令部に戻ったカザトは、メトイークのマッサージで疲れを癒す。


「極楽だ~」


「メトイークがマッサージするなんて驚きだぞぉ」


「きちんと仕事をしてくれたらしますよ。きちんとです」


「まるでオラがいつもサボってるみたいに聞こえっぞ」


「事実ですからね。いつも椅子に座ってるだけね」


「そんなつもりねぇんだけんど。カザトはどう思うか?」


「俺はたまにしかきていないだろうよ。お前の仕事ぶりは知らない。証明したければ、今すればいい」


「オラに何をさせる気だ?」


「さすがに察しがいいな。男の義手に埋め込まれていた石をくれないか。それと生首。俺もちゃんと証明しないといけないんでね」


 カザトがクーゴに右手を出して催促する。

 クーゴは深いため息を吐く。カザトの性格を知っているため弱いのである。ゆっくり右手を出して拳を作る。


「じゃあ託す、近衛騎士団長としてな」


 拳を突き合わせ合意する。

 カザトは生首を持って王城へ。司令部から連絡を受けて、警備は通常のものになっている。

 王の元に向かい片膝をつく。両手で差し出すは男性の生首。


「それが犯人の首か」


「煮るも焼くも好きにしていいとのこと。まぁ、ファルスは絶対王政ですので、王の思うままにできますが」


「死者に傷を負わす趣味はないので遠慮させてもらおう。カザト君はどうしたいのかな?」


「俺は特に。ただ、王子の望む形で事件を締め括りたい」


「良かろう。それが君の望みなら」


「ありがとうございます」


 その後、シロは生首と対面した。

 犯人に対して言いたいことをぶちまけた後、「埋葬してくれ。たたられそうだよ」と言って横になる。

 シロの部屋に、しばらく嗚咽が聞こえていた。いつも声をかけてくれた近衛騎士に冥福を祈る声と共に。

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