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温かい心

 王城に戻ってきたマオは、父と母にリミリアを紹介する。誤解のないようにわかりやすく。たとえ信じてもらえなくても嘘をつくよりマシと正直に話す。


「うーむ」


「そういうことですか」


「……俺の言うことが信じられないか……」


 二人の反応に肩を落とす。信じてもらえないと思っていたとはいえ、両親に信じてもらえないのはだいぶ辛いもの。

 しかし、次に両親から出た言葉は意外なものであった。肩を落とすシロは耳を疑う。目を見開いて聞き返す。


「えっ!?」


「聞こえなかったのか? その子を王城に住まわすのは構わない。だが、王城に住まわす以上、その子にはそれなりの身分が必要になる」


「リミリアと言いましたね。奴隷にされていたのは不本意だったはずです。奴隷になった理由や過去を詮索するつもりはありません。しかし、自由の身になった以上、自分の身は自分で守らなければいけなくなります。まずは身体検査を受けてもらいます。それから色々と決めていきましょう」


「いいのか!? てっきり反対されるとばかり」


「誰がしますか。こんなに可愛い女の子を奴隷に返すことなどできません。ですがシロ、これだけは心に刻んでおくのです――あなたには、守る命ができたということを」


「王族は養子を持つことができない。一度でも許してしまうと、王族目当てに人が殺到するからだ。それはわかってくれ」


「いや、十分だよ。とりあえず安心した。良かったなぁ、リミリア!」


「うん、ワタシはついてる」


 リミリアはシロに微笑む。とても笑顔だけで返せる恩ではないが、微笑むことが今できる最大の恩返し。

 シロの胸は温かさでいっぱい。リミリアを奴隷屋から救い出せて良かったと。こんなにも温まる笑顔を見れていることが嬉しくてたまらない。


 とりあえず、いつまでも麻の服なのはどうかと思い着替えさせることに。ルリを頼ろうと部屋に向かいノックをしようとした瞬間、ノックよりも先に扉が開いた。


「やっぱりぃー! 私の気のせいじゃなかったのぉー!」


 その目にリミリアを捉えるや自慢の胸で出迎える。リミリアがリアクションに困っていることなどお構い無し。


「可愛いのぉ! 可愛いのぉ! 可愛いのぉ!」


「ね、姉ちゃん!? いきなりそれは刺激が!?」


「……気持ちいい……気持ちいい」


 リミリアの正直な感想。リアクションに困り行き着いた答えは、素直になることだった。

 シロは固まるしかない。リミリアが嫌がっていない以上、引き離す必要はない。ただ、このままだとキリがないので、申し訳なさそうに声をかけた。


「姉ちゃん。リミリアに服を着させてほしいんだけどさぁ」


「服を? 私がリミリアちゃんを好きにしていいのぉ?」


「着替えさせるだけだ! リミリアが嫌がることはなしだからな!」


「ワタシに服を? いいの?」


「当たり前だろう。姉ちゃんのお下がりで悪いけど」


「そんなことない。嬉しい」


「やったぁ! こんな可愛い子を……じゅるりっ」


「姉ちゃん!?」


「心配はいらないのぉ。さぁ、リミリアちゃん、お着替えしましょうねぇ。じゅるりっ」


 シロが不安になっているのを知ってか知らずか、口元を緩めながらルリは扉を閉めた。


(奴隷のままよりはマシだろう。きっと!)


「シロ」


「カザト兄ちゃん!」


「今日も稽古だぞ。外に出ろ」


「えー。今日くらいは休んでもいいだろう? リミリアのことで頭がいっぱいなんだ」


「いっぱいだろうが関係ない。守るものが増えたんだ。もっと強くならなくちゃいけないだろう」


「ぐぬぬ」


「この間のことなら気にするな。いっそ忘れてくれ。予期せぬことが起きるのが戦いだ。思い通りに勝てるのなら苦労しない。俺もまだまだってわけだ」


「またケガをさせたら」


「馬鹿かお前は。ケガするのを気にしていたら何もできないだろうが。剣を振るどころか、歩くことすらな」


 稽古をしたくないのは今までと変わらないのだが、シロは同時に恐怖を覚えていた。自我を失っていたため自覚はない。それでも話には聞かされている。自覚がないからこその恐怖。


「カザト兄ちゃん。今度、俺が暴走したときは躊躇なく――」


「こーら、物騒なことを言ってくれるなよ。その先は軽々しく言っていい言葉じゃない。俺が教える剣は、命を守る剣だ。命を奪うのは手段であって目的じゃない」


「守る剣」


「そうだ。なーに、お前なら大丈夫だ。俺の弟子に悪魔はいない」


 カザトはシロの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 シロは顔をたまらず伏せた。恥ずかしくてたまらなくて。けれどとても嬉しくて。


「そっ、そこまで言うならしょうがないなぁっ! やってやるよ!」


 必死に本心を隠して言うだけ言って外へ。いつもよりも体が軽く感じて走り出す。シロの心はとても温まっていた。

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