それぞれの想い(3)
朝。
今日は体育館を他の部が使用する日であるため、バスケ部は外で校内の周りを走っていた。
別に顧問の先生もいないため、男子バスケ部はゆるーく、ゆったり走っていた。
「いやぁー、しっかし、あついなぁー。椋の力で何とかして。」
「何とかできるなら既にもうやってるな。」
「そうだな〜。・・・俺は今、この手に何か力が欲しいな。」
「権力とかか?」
「いや、そういうんじゃなくて、手にグッと力を入れたら、氷や雪が出てくるとかさぁ・・・」
「あー。死んでも無理だわ」
「えぇ〜。」
俺は、ゆるすぎるくらいに、ゆるい練習をしながら、ゆる〜い会話を瞬とやりあって楽しんでいた。
・・・にしても、
「本当に暑いな。」
瞬が魔法の手が欲しいならば、俺は権力が欲しい。(そしたらすぐに各教室にエアコンをつける。)
「あぁ。暑い。しかし、夏休みの練習はさらに暑い中やらされるぞ。今年こそは死ぬかもな。」
「そうだな。」
と、その時、後ろから1人、全速力で俺と瞬の横を走って行った。熱風が少し、俺らの頬を掠めた。
「・・・おぉ。先輩。速いな。」
と、そんな走っていく背中を見ていた。
そうか。この秋季大会でもう先輩は引退だ。
だから、負けて、すぐには終わりたくないんだ。
「ーー先輩のためにも走って、体力つけて、頑張るか。」
横にいる瞬がポツリと言った。
「おう。」
少し、速度を上げて走り始めた。
あと秋季大会まで3ヶ月ちょっと。
練習が終わり、バッシュを手にし、校舎内に戻っていた。
「ん・・・。なんだこれ、手紙?」
下駄箱のところで瞬がそう、1人呟いたのを聞き逃さなかった。
「ラブレターか?」
「さぁ?分かんねえよ。・・・えーっと、宛先は・・・。」
「・・・・。」
胸が痛むのを感じた。チクチクと。
藤川可蓮 だった。
瞬は俺の顔をチラリと見、手紙をポケットの中にしまいこんだ。
そして、何事も無かったかのように、俺にいつも通り接してくれた。
・・・別に、想いを伝えない自分が悪いし、そもそも瞬のことを好きということは知っていた。
しかし、その行動は、なんだか瞬に同情をされた気がして、少しモヤモヤした。