それぞれの想い(1)
6月の中旬。梅雨の季節がやって来た。
梅雨といえば、行きとかは部活のジャージの裾が濡れて気持ち悪いだの、髪の毛が湿気で綺麗に纏まらないだの、いつ雨が降ってくるとか分からないだの、とりあえず誰もが苛つくこの時期。
そんな中、1人はっちゃける馬鹿がここにいた。
「ひゃっほー!雨だ雨。ねえ、椋、雨だよ雨。」
「知ってるよ!とりあえず走るぞ!瞬!」
「ちょっと待って。靴紐ほどけそう。」
「五月蝿い!!」
現在、俺と瞬は、雨に打たれながら帰っている。
今日は部活が休みのため、学校帰りにこのまま瞬の家で遊ぼうという話になり、2人で瞬の家へ向かっている最中の時に、このザマだ。
「ちょっと、椋 速いって。第一、椋が傘持ってたら良いだけのことで。」
「俺だけの所為!?」
そんな口喧嘩を交わしながらも俺らは無事、瞬の家へ辿り着くことができた。
「はい、瞬、入りなよ。」
「・・・おじゃまします。」
相変わらず綺麗な家。豪華だし、広いし。
恵まれてるよな。こいつ。
辺りを見渡していると、正面からタオルが飛んできた。
「何してんだよ。突っ立って。はい、これタオル。」
「サンキュ。・・・なんか、お前の家に来るの、久々だな。って、思って。」
「ん?そうだっけ?まぁいいや。とりあえず俺の部屋来いよ。」
「あぁ。」
予想通り。こちらの部屋も綺麗に整えられていることで、居心地の良さそうな部屋だった。
「綺麗だな。」
俺の部屋とは違って。
「ん?俺のことが?」
「んなわけあるか。阿保。」
何という珍回答だよこれ。
「・・・っていうか、何する?ゲームとか?・・だったら、俺の家の方がゲームの種類多いし。・・・にしても、瞬、俺を家に呼ぶって、何かすることがあったからか?」
そんなことを瞬に聞いてみると、瞬は自分のベッドの上に座って、ちょいちょい、と、あたかもこっちへ来いという仕草をしてきた。
俺は素直に瞬の方へと近づくと、グイッと腕を引っ張られ、ベッドへ倒された。
「・・って、これが目的かよ。」
「正解。今日 母親仕事で帰るの遅いし。・・まぁ、中学2年生ですからこの時期の男子の欲情は誰にも止められないんだよ。観念するんだな。」
「・・・・あー、もう。」
こいつって奴は。しょうがねぇな。
「一回100円な。」
「 えぇ〜。椋にそこまで価値な〜い。」
「瞬、短い付き合いだったな。」
「ちょっとww」
そんな茶番も終わり、瞬は俺にキスをしてきた。
「、、、っ、、ん・・・・っ。」
雨の音が瞬の部屋中に響き渡る。
先程濡れた制服がまだ乾いてなく、互いに体が密着して少し冷たい。
「、、相変わらずエロイ声出すね。濡れた椋最高。」
「ばか。」
「・・・・にしてもさぁ、制服濡れてて気持ち悪いんだよな。ほら、キスするときに密着して。冷たいし、脱がせていい?」
俺は軽く目を逸らした。
「別に。一線越えなきゃいいよ。」
「そっか。」
瞬は俺の制服のボタンに指をかけ、ひとつひとつと外していく。制服を脱がされ、その下に着ていたシャツも濡れており、瞬の手により、脱がされた。
外に瞬は俺を脱がせる前に、先に脱いでおり、つまりは2人とも今は上半身は何も布を纏っていない。
・・・・ここまでは来たことがなかったな。
雨で冷え切った体が瞬と抱き合うことで、温もりに満ちてゆく。
瞬は俺の薄い肩を持ち、様々な部分へ口付けを落とす。キスされた部分だけが妙に熱い。
「ははっ。 椋、体 あつっ。そろそろ慣れろよな。体も。」
「・・・・。」
にやにやと笑いながら瞬は、俺の指に指を絡ませてくる。そして顔を近づけて、俺の唇を自分の舌で軽く舐めた。
「んっ・・・・。」
こんなのに慣れろという瞬はやはりおかしいと思う。
キスだけでも過剰に意識してしまう。
・・・・ これじゃあまるで、瞬に意識しているみたいじゃないか。
第一俺には好きな人がいるし、向こうだって、別に好んで俺とこんなことをしているわけではない。
あいつとやっている時、あいつの目には、俺は映っていないのだから。
あいつには別のやつがいる。
「椋・・・・・っ。」
・・・・しかし、今日はやけに俺の名を呼び、キスをしてくる。
「・・・今日見えているのは、俺なんだな。」
自分の右手を瞬の後頭部に回してそう言った。
「うん。今日は 椋、濡れてるから、なんかいいな。って思っちゃってね。水も滴るいい男。」
「何を言ってんだよ。この浮気ものが。」
「そうだな。でも浮気とかしたら化けて出てこられそうだからな。今日限りでやめておくよ。椋だって藤川がいるし。」
「な、何で、そこで藤川が出てくるんだよ。」
急にその人の名前を出され、戸惑いを隠そうと、ムキになって起き上がった、その拍子に俺は瞬と額をぶつけてしまった。
「いっ、、て。でもさ、好きだろ?」
「ん・・・まぁ、好き、だけどさ、この事と藤川は別に関係ないだろ?」
「関係・・・つうか、藤川とはやんないのかなって。俺とするみたいなこういう事を。」
「ばっ・・・!誰がするか!そもそも、まだ告白だって、してないんだぞ?」
「じゃあ、告白は?」
「・・・・。」
俺は右手の甲を目元にあて、
「するつもりはないよ。」
と言った。
こっちは入学して間もない頃から、想い続けているが、向こうなんて見向きもしていない。
告白したところで振られる運命なんだよ。
「それってさぁ・・・。」と瞬は続ける。
「恋していて楽しいか?」
まさか。楽しいわけがない。永遠の片思いなんて。叶わない恋なんて。
「別に。」
短く、そう答えた。
「ふぅん。俺なら無理ってわかっていても絶対告白するのにな。」
「お前と俺とじゃ思考回路は別々のものだろ。」
「そうだけど・・・切ないな。」
何となく、その言葉が胸を打った気がした。