好きって何ですか?(1)
「椋ー。」
そんな聞き慣れた声がした。
1限目の授業が終わったところで 中原 瞬 が俺の席へとやってきた。
「何?」
と俺は言いながら次の授業の教科書を出していると、
「フッ。」
と俺の耳に息を吹きかけてきた。
「うわっ!!」
即座に片手で耳を塞いだ俺は、反射的に教科書から手を離してしまった。
瞬は俺の反応を見て、ニヤつきながら投げkissをし、
「ローズの吐息のプレゼントさ。」
などと馬鹿げたことを言って教室から出て行った。きっと他の奴らにもちょっかいをかけに行ったのだろう。
「あいつめ・・・。」
ため息をつきつつ、落とした教科書を拾っていると、周りのクラスメイトが、
「相変わらず中原面白いよね。」
「それな。ってか、石田めっちゃ愛されてんじゃん。仲良いよね。」
と、言っているのが聞こえてきた。
ーーーーいやいや、冗談じゃない。確かに一緒にいて楽しいけども、あれはあれで苦労しているんだ。こっちの身にもなってほしい。
心の中で毒づきながら、席に座った。
2限目の始まるチャイムが鳴り、担当の先生が入ってきた。
「今日は中原は欠席か?」
見ると、瞬の席には誰も座っていなかった。
・・・・通りで長い間静かだと思った。
全く、あいつは何をしているんだよ。と思いながらも、特に気にすることはなく、ノートと教科書を開いていると、
「先生!!すいません!!遅れました!!」
呼吸を乱しながら瞬はドアを強く開けて入ってきた。
そして、それだけを言うと、何事もなかったかのように平然と席に座って、「さあさあ 先生、何をボーっとしているんです?授業をしましょう!」などと言い始めた。
周りは笑いに包まれた。
先生は呆れながら、「どうして遅れたのか理由を言ってから席に着きなさい。」と言った。
「えーっと、そうですね。ちょっと色んな人に僕のローズの吐息をプレゼントしていました。」
そんなふざけた反省を言う瞬に、またもや笑いに包まれる。「おい、中原ー。」と、意味もなく名前を呼び、ふざけ始める男子もいた。
「ちょっとみんな!静かにっ!」
この五月蝿さを強引に先生はやめさせようとしている。
俺はそんな光景を頬杖をついてただボーっと見ていた。
ーーー中原 瞬。中学2年生。同い年。
バスケ部でセンスがあり、上手。すらっと背が高く、ルックスも良し。面白いため、男女ともなくモテる。頭はそこまで良くない。(平均そこそこ)
そんな瞬に比べ、俺は、同じバスケ部所属だが、背も低く、一応 瞬と同じくレギュラー入りを果たしているが、上手さでは瞬には劣る。ルックスも別にカッコ良くはない。どちらかといえば、可愛いと言われる方が多々ある。
・・・・この差って何なんだ?神様って不公平だ。
授業が進んでいく中、ボーっと、瞬のことを見ていた俺に気づき、瞬はヒラヒラと俺に手を振ってきた。
一応俺も手を振り返していると、先生に見られてしまっていた。
「こら。ちゃんと話を聞きなさい。遊ぶんじゃない。」と怒られてしまった。
「いやぁ、先生、俺と椋、愛し合っていてラブラブですから、今、手話で愛の告白をしてたんです。」
「なっ・・っ!」
「何言ってんだ。お前は。ラブラブなのはわかったが、授業は進めていいか?中断させるなよ?」
「いいですよ。な、椋?」
「あ、あぁ。」
瞬の先ほどの言葉に対し、ツボにはまったらしく、かすかにクスクスと笑い声が聞こえてきた。
俺はくしゃりと頭をかき回した。