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ただそれだけの少年の物語 作者:ナゼル鳶
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どこにでも居る少女

少女の口から告げられた名はザール・エ・ザル。
俺が元居た世界に存在したペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』に登場する武将サームと後宮の女性との間に生まれる、英雄の名だった。
そして他者の思考を読む固有能力【真眼】。
いや考えるのはここを逃げ切ってからだろう。

「わかったザールちゃん、先に走ってくれ。
 その速度に合わせる。害をなすものがあったら俺が全て斬り落とす。」
「ちゃん?…いえ、わかりました。」

そう言って彼女はかなりの速度で走り出す。
50m走7秒台くらいか…?
それにしても彼女は『屍者』に対して怯えていなかった。
そして忘れていた。自身が大きな選択ミスをしていたということに。

―お姫様抱っこして逃げるという手があったことに!!

盛大なミスだこれは!!
ハーレム要員1号候補を先に走らせた理由は速度を合わせるためッ!!
普通の人間であれば追いつけないほどに俺の能力は強化されているッ!!
ならば彼女をお姫抱っこして逃げるなど容易いハズだった…。
その後倉庫につくまで後悔しかなかった。
3分ほど走り続けると全力で走っていたためザールちゃんが力尽きた。
それはそうだ。彼女は普通の人間の少女なのだ。

「いや、あの、あんな大見得きった割にこれってなんかもう…」
「いやだいぶ頑張ってたしな…」

本当に『屍者』は動きが遅かったためその後歩いていても倉庫につくまで追いつかれることはなかった。

「改めて自己紹介だ。
 茜 晋次、多分15歳。異世界転生者だ。
 能力は固有能力【剣想】。概念だろうが物質だろうか無制限に全てを斬る剣を生成できる。」
「…」
「どうした?」

見れば彼女は眼を見開きとても驚いているようだ。

「いえ、初対面の相手に希少な固有能力を説明するとは思っていなかったので。」
「あぁ、固有能力って希少なのか。知らなかった。
 この世界に来たばかりっていっても本当にまだ3時間も経っていないと思う。
 それにまともな人に出会うのは君が初めてなんだ。
 ん?でもそれじゃあなんでザールちゃんは初対面の俺に固有能力のことを教えてくれたんだ?」
「それは私に戦うための術はなく現状頼れるのはあなただけだった。
 それにあなたは異常なほど善人だ。」

時間の概念は元の世界と一緒なようだ。
それにしてもなるほど。思考を読む…か。
彼女が忌々しい能力といった理由をこの時点で察していた。
そして彼女は俺を頼ってはいるが信頼はしていないとも分かった。

「今度は私です。
 ザール・エ・ザル、17歳。固有能力は【真眼】。
 自身の意思で対象を決め思考を読むことができます。」
「バストサイズは?」
「へっ?」
「あっ、いや違う!!いや違わないが!!じゃなくってだな!!」

クソぅ…。上に羽織っていたマントみたいなものを脱いでから一層際立つあのおっぱいにしか目がいかねぇ!!

「よし。わかった。
 じゃあ、ここで待ってろ、すぐ片付けてくる。」
「…何を言っているのです?」
「このままじゃあの村の人たちを弔うことすらできない。
 それどころかまた犠牲者を増やすことになってしまうだろ?」
「…あなたも私を捨てるのですね。」

突如暗く低い声になった。
眼からは光は消え、小さい溜息を出す。
分かっていた。
彼女がこう反応することは俺は理解していた。
よくある話だ。
彼女は人を信じたいが信じられないという、よくラノベやアニメにある思考を読むという能力故に迫害され利用されそうとなった過去があったはずだ。
それ故に人を信じられない。
しかし、例外があった。
唯一彼女の口から出た人物。彼女の父であろう。そして彼女は今思考を読めばいいのにそれをしない。
まだ人を信じたいと願っている。
俺はさながらそのラノベや漫画における少女を救う英雄ってとこだな。

「捨てなどしない。
 俺はザールちゃんを必ず救う。」
「…もう救われました。
 あとは町などに逃げるだけです。何を言っているんですか。」
「救われていないだろう。
 父にちゃんと感謝は言ったか。
 なによりももう一度人を信じられるか、今のお前に。」

あぁ、カッコ悪い。言ってる本人が恥ずかしい。
どこかで聞いたようなセリフだ。
青臭くて何も知らない少年が吐く戯言だ。

「…なぜそれをあなたが!!」

倉庫から出ようとする俺に後ろから怒声のようなものが聞こえる。

「それだけ人は単純で複雑なんだ。
 それよりさ、ちゃんと俺が帰ってきたらその敬語やめてくれよな。」

ここまで言われても彼女は【真眼】を使っていない。
使っているならば俺を信頼できるに足る確証が得れるはずだ。
だがそれをしなかった。
彼女はまだ人の言葉を信じたいと思っている。
そんな人を救わずにハーレムなどできるわけがない。
そうだろう?俺が覚えていない俺。
言葉を紡ぐ。
それは何気ない行為だったがそれが新たな【剣想】のルールの発見だった。

―彼女は必ず救われなければいけない者だ。

想像などしていない。
しかし、その言葉を紡ぐと今までと違いどこからともなく青白く光る粒子が集まり剣を生成していく。
手になじむ。生まれた時からずっと握っていたようにさえ思えるほどだ。
姿は元の世界に存在した日本刀によく似ている。
刀身には000という数字が彫られていた。

それを両手で持ち、全力で跳躍する。
村までは10秒程度で辿り着いた。

『屍者』たちは聞いた。
爆発したような音と何かが飛んでくる音を。
そして見た。
飛来した者を。
全てを斬り裂く剣を携えた少年を。
その眼には光はなく、人一人を救うための物とは思えない異常な怒りを灯していた。
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