私は悪役令嬢、文句あっか!
彼女は、悪役令嬢として立ち向かう。
王国の学園卒業パーティー。多くの貴族令息、令嬢、何人かの平民と召使い、がいる中で、第三王子アクア=トーヨータルはやや震える声で宣言した。
「スカーレット、き、君が、公爵令嬢の地位を使ってビリジアン男爵令嬢をいじめた事、許せない! ここに、君を糾弾し罪に問う。そして君との婚約を破棄し、新たにビリジアン男爵令嬢と婚約する」
彼の前に腕を組み、肩幅に足を広げ、豊かだが均整がとれた胸をはる一人の美少女が立ちはだかった。髪の色は黒く、同じ色の瞳は力強い意志を秘めている。絹のシンプルなドレスは彼女の魅力を十分以上に引き出していた。
「突然、何を言い出すのですか? 殿下? 身に覚えがございませんが?」
顎を突き出し、眉をひそめてアクアに尋ねる。
「とぼけるな! ビリジアン男爵令嬢から聞いた。彼女の教科書を破り、何人かで吊しあげ、果てはさっき階段から突き飛ばしたそうではないか」
「なるほど、そのことですか」
スカーレットは嫣然として微笑んだ。
スカーレットは鋭いまなざしでビリジアンを見た。
彼女の教科書の中には禁呪に関する古文書や、その発動や研究に必要な古式魔法の解説書があったのだ。不完全な知識で、危険な魔法を使われては困るので、スカーレットは全て焼き捨てたのだ。更に、ビリジアンのルール違反やマナー違反については、学園の同級生のほとんどが不満に思っており、それを抑える為にスカーレットが代表して注意したのだ。更にビリジアンを突き飛ばしたのは、彼女に婚約者をたぶらかされた令嬢であり、彼女はスカーレットが保護している。
「スカーレット、言い訳はいい! 証拠は全て揃っている」
「わかりました。しかし、婚約破棄はしないほうがいいわ。殿下。ビリジアン嬢になにがあるか分かりませんからね。あと、御家族の方々」
「スカーレット、僕を脅すのか? がらにもなく」
「いえ、事実を言ったまでです。それに、第一、私なら邪魔な御方を排除する必要などありませんもの。いなくなりますから」
スカーレットは、こう言っているつもりだ。ビリジアン嬢と、その家族は各所に大なり小なり恨まれている。たとえばビリジアン嬢に夢中な貴族令息の婚約者、男爵家の商売上の競争者等々。自分の家が手を出さなくとも狙っている貴族はたくさんいる。むしろ、スカーレットがかばっており、被害が少ないのだ。
「殿下、もし、ビリジアン嬢を愛していらっしゃるのなら、愛妾になさいませ」
「な、なにいっているの? この国は一夫一婦制よ」
ビリジアン嬢が可愛い顔に似合わす驚く。
「あら、アクア殿下は王族。多少の無理はききますわ。私の家の影響力を無くすよりは二人とも手に入ってお得よ」
「わかった。君の言うとうりにしよう」
「アクア様! 私を日陰者にするのですか?」
あっさり手のひらをひっくり返したアクアにビリジアン嬢は怒る。
「ビリジアン嬢、君は優しいが、王族の妻は大変だ。君に務まるとは思えない」
そして、アクアはスカーレットに顔を向け、つぶやく。
「スカーレット、君にはかなわないな。学問も魔法も礼儀作法も学年1位。君は王太子妃、王妃に相応しい。僕がビリジアン嬢を娶ればプリウス兄さんも喜んで君を伴侶にするのに……」
いや、正直に言おう。アクアはスカーレットに本音をぶちまけた。
「スカーレット! 君は、プリウス兄さんの方がいいだろう! 美人で賢く、礼儀作法も完璧だ。魔法も最高級。君は王妃に相応しい。そして、兄は眉目秀麗で賢しく魔法も最高級。君に相応しいのは私は、だから、婚約破棄してくれ。兄も、君を求めている」
「嫌です! アクア! 第一、この婚約は王からの指示。勝手に破棄出来ません。それに、私は大変なお仕事には向かないですわ。だから、殿下の妻がいいの。多少の遊びや愛妾は目をつぶるわ。流石に浮気するとは思ってなかったし、その相手がビリジアン嬢とは思っていなかったけど」
スカーレットは思っていた。アクアは確かにビリジアン嬢を見ていたが、何か違う様子だった。いや、自分の勘違いだったのだろう。
「其処までだ。アクア」
人が割れ、眉目秀麗な貴公子が現れた。王太子、プリウスである。
「兄さん! なんでここへ? 第一、このパーティーは卒業記念。三年前に卒業した兄さんには……」
「お前の卒業を祝に来たのだか、お前、ビリジアン嬢を愛妾にすると聞いてな」
そう言うと、プリウスは、アクアの隣にいるビリジアン嬢の前に行き、微笑んだ。そして、跪き、優しく手を差し伸べる。
「ビリジアン嬢、いきなりだが、私の伴侶、正妻となってもらえないだろうか。必ず幸せにする。アクアのそばにいたいと言うならば止めはしないが」
「はい、わかりました。プリウスさま! あなたについていきます!」
周囲のものはみな、ビリジアン嬢の変わり身に唖然とした。アクアとスカーレットはその中でも比較的に早く回復したが。
「……アクア、これで婚約破棄する理由がなくなりましたね」
「……スカーレット、私は負けないよ」
「あらゆる点で私が勝っているのに?」
「うあーん」
アクアは、瞳から汗を流しながらその場を離れていった。
「……そんなあなたが大好きなんだ。あたしは」
実は、すれ違い気味の二人だったりします。