エミリーとエレナ
正直に言って月の属性って謎の多い属性なのよね。
選定の儀から私には有名な魔法使いが何人も家庭教師になったけど、結局月の属性を満足に使えるようにはならなかったわ。でも当たり前よね、だって誰も使えないんだもの
後から知ったのだけどルシュタールで月の使い手は私以外に二人だけ、しかもその二人はかなりの高齢で私の指導を出来る体力もないほどだった。その人の弟子からも教わったけど、それでも使えない魔法なんて本気で学んでいるわけもなく、月の属性を持て余す日々を送っていたわ
「エミリーそんなの分かんない!」
まだまだ子供だった私は我慢の限界だったのよね、だって教えられても結局は教えてる本人も理解してないのだから満足に指導することも出来ずに中途半端な魔法しか出来なかった。
「エミリー様、ワガママを言わないで下さい」
オロオロする使用人達を無視して、私は暴れたわ。
「知らない、知らない、知らない、分かんない!」
そして私は飛び出したの、クレイを連れて
「行くよクーちゃん!」
「なんや姉ちゃん、俺はこれから魔闘技の修行なんやけど」
「そんなのいいの! いくの!」
まああれよね、弟なんだから姉の言葉には従わないとね、なのにぐだぐだ逆らおうなんてクレイはあの時から生意気だったわ。
「分かった、分かったから落ち着きいな、はぁ、しゃあないから付き合ったるわ」
「むう、いくよ!」
「はいはい」
こうして屋敷を飛び出して私は森に行ったの、だって街とかに逃げたらすぐに捕まりそうだったから
「姉ちゃんあかんで、こっち行ったら危ないで?」
「危なくないの、エミリーは強いから大丈夫なの!」
「そなんか、はぁ、今日は子守か」
なんか呆れた様について来たのよねクレイは、本当に二歳児だったのかしら?
「姉ちゃん、そっちには魔物いるさかいあっちに行こうや?」
「むぅ、そんなことないの、クーちゃんは初めての森だから分かんないの、こっちには秘密のお家があるの」
「はぁ、そうかいな」
私はカイエン家に伝わる、秘密の場所に向かっていた。ここなら絶対に使用人達は追いかけてこれないから、まあ今考えたらお父様が飛んで来る場所ではあったのだけど、あの時の私は使用人達から逃げれたら大丈夫と思ってたのよね。
「こっちよクーちゃん」
「そんな急いだら転けるで、この辺舗装されてるわけちゃうから」
「あっ!」
ドサ!
転けちゃったのよね、そして
「ふぐ、ふぇ、ふぇーーん、えーん」
泣いてしまったわ不覚にも
「あーあ、だから言うたのに、こんな道の悪いところで走ったら転けるのは当たり前やで」
そう言ってクレイが近づいて来て
「ちょっと血が出てるな、姉ちゃんちょっとしみるけど我慢しいや」
「ひっぐ、なに、何するのクーちゃん?」
「何って、治療やな、まあ薬草あてるだけやがな」
そう言ってクレイはどこからか取って来た薬草を私に使ってくれたわ。
「ふぐ」
「泣なや姉ちゃん、ちょっとの我慢やで」
「う、うん」
目に涙を浮かべてた自覚はあったけど、これ以上弟の前で泣くわけにはいかなかったから我慢したわ。
「よしこれで大丈夫やろ、偉かったな姉ちゃん泣かんかったやん」
「う、うん、エミリー泣かないよ」
「そうか、それならもう立てるかな? ここに留まるのはあまり良くないみたいやから行こうか?」
「う、うん、あっ!」
あの時は痛くて立てなくなっていたわ、そんな私をあのバカは!
「しゃあないな、姉ちゃんおんぶしたるから、ほれ」
そう言って背中を向けるクレイ、私は素直におんぶしてもらう
「よし、目的地はよう分からんけど、しっかり捕まっておけよダッシュでいくで!」
「えっ、クーちゃん走ったらダメって、わぁー」
私の言葉を無視して凄いスピードで走るクレイ、どう考えても二歳児では無いのよね、あいつ曰く
「魔闘技使えたら案外いけるもんやで姉ちゃん」
との事だったけど、それでもおかしな弟だわ。
「わぁ、ご、ゴブリン、逃げてクー……」
「おら、邪魔じゃ!」
「ふぇ?」
クレイは私をおぶりながら現れる魔物を簡単に倒していく、ゴブリンだって子供では倒すのなんて無理に決まってるし
「グオー!」
「あわ、お、オーガ!」
オーガはとても強いのよ、騎士が何人も束になって戦うってお父様が言ってたのに
「邪魔じゃ!」
「ギャ!」
あいつは一撃で倒していた。本当に無茶苦茶な弟、そんな無茶苦茶なオーガに背負われてやっと秘密の場所に着いたの
「ここか?姉ちゃん」
「うん、ここだよクーちゃん、ここがカイエン家の人しか来ちゃいけない場所なの」
そう言って私は秘密の場所にある、秘密のお家に入る。そこには
「なんやここ? まるで秘密基地やな」
確かに言われてみたらそんな感じだった。
お父様に聞いたんだけど、カイエン家の初代当主はルシュタール初代王様の親友だった人で、その親友と初代王様の妹が結婚して起こした由緒ある貴族なんだって
だからルシュタール王族とカイエン家はとても仲のいい親戚同士でもあるそうなの、そしてこの秘密の場所は初代カイエン家当主が妻である王様の妹と若き日を過ごした愛の巣なんだって言ってた。当時の私はそんな事知らなかったけどこの秘密の場所はカイエン家にとってとても重要でそして私にとっても重要な場所になったの。
「おばあちゃんだーれ?」
「へっ? い、いきなり何言うねん姉ちゃん!」
「何って、ここにおばあちゃんが」
「えっ? えっ? 」
キョロキョロしながら辺りを見回すクレイ
「誰もおらんやん、姉ちゃん変な事言うて俺をビビらせようとしてもあかんで」
「え、ここにいるよ、クーちゃん何言って……」
『その子には私は見えないわ、エミリー』
「ふぇ?」
急に頭に響くおばあちゃんの声、あの時は本当に驚いたけど、あれが私と初代カイエン家当主の妻にして初代ルシュタール王の妹である、エレナ様との出会いだった。