エミリーの選定の儀
私が生まれたのはカイエン公爵家、そこの長女として生まれました。
お父様はルシュタールの英雄と呼ばれる騎士で、お母様はルシュタールの宝石と呼ばれるほど美しい女性でした。
私は全然記憶にないのだけど赤ちゃんの頃は手がつけられないほどの暴れん坊だったって、事あるごとに言われるの、でも赤ちゃんの頃なんて記憶にないし知らないわよね。
私の事を少し話すと、普通の女の子だったわ。普通にお勉強して普通に遊んで、そんで普通に恋して……
記憶に無いんだけど始めてあいつに出会ったのはクレイが生まれる前、私が生後間もない頃だったそうなの
「ふむ久しいなカイエン」
「そうだなルッドマン」
お父様とルッドマン公爵がとあるパーティーで会った時に母に抱かれた私と、向こうも同じような抱かれて挨拶したそうなの
「うちの娘でエミリーだ」
「ああ、可愛い子だな」
「ありがとう、その子が?」
「息子のグイスだ」
「良かったな跡取りが生まれて」
「そうだな、これで少しは落ち着ける」
「あう、あー」
「だぶ!」
「あっ、ダメよグイスちゃん」
その時私はあいつに叩かれたんだってそんで
「う、う、あーーー!」
「うお、何をするルッドマン、エミリーを泣かせおって!」
「ふん、落ち着け子供のした事だろう」
「あん、うちの宝石の様な娘が、お前んとこのくそがきに叩かれたんだぞ、ふざけるな!」
「何を、うちの息子の何処がくそがきだと!」
その時にケンカ別れして、私とグイスの婚約が破棄されたんだって、何でそうなるのよ!
そこからは屋敷で結構自由にさせてもらったの、そして選定の儀の日私は凄くおめかししてウキウキでその時を迎えたわ。
「きゃー可愛いエミリーちゃん」
「そうお母様、エミリー可愛い」
「ええ可愛いわ」
「えへへ、可愛い」
あの時のドレスはお母様も凄く気合を入れてたわね。今でも取ってるけど私の娘に着せると言って、まだ娘とも決まってないのに
「エミリー様、とてもお似合いですよ」
「ありがとうセリア、うふふ」
「なんやな馬子にも衣装ってやっちゃな」
「えっ、馬子にも衣装ってなーにクーちゃん?」
「クレイ様、その様な事は」
「おっ、そやな、なんや姉ちゃんの記念日らしいな今日は、よう分からんけどおめでとうさん」
「うん、ありがとうクーちゃん」
今思っても2歳の子供の喋り方では無かったのよね、あの頃は家族中がクレイの事天才天才って言ってたけど、私はあの頃からなんとなくアホだと思ってわ、だって喋り方に知性を一切感じなかったもの。
「クーちゃんもお姉ちゃんを見に来たのね」
「ちゃうで、俺は魔法の本探してんねん、なんか無いかな?」
「えー、クーちゃん今日はエミリーの日なんだよ、魔法は今度にしなよ」
「そうやな、しゃあないから今日は姉ちゃんの晴れ舞台を応援しよかな」
「晴れ舞台? それなーにクーちゃん?」
「頑張れ言うこっちゃ」
「そうなんだ、分かったクーちゃん」
『あの奥様、クレイ様は何処からあの様な言葉を覚えたのでしょうか、この屋敷の誰もあの様な喋り方しないのですけど?』
『クーちゃんは頭のいい子なのよ、多分自分で編み出したのね、天才よクーちゃん』
『……はぁ、リリア様はクレイ様のことになるとダメになるわね。旦那様も大概だけど』
確か選定の儀の時が初めての王都行きだった筈よね。生まれた時のパーティーはノーカンよね。
それで初めての王都でかなりはしゃいだのを覚えてるわ。
「わぁ! おっきいー!」
「はっはっは、このルシュールはルシュタール最大の都市、いやアルカラ最大の都市とも言えるからな」
「うふふ、うちの領地はこれほど大きな建物は確かに無いものね」
「まぁまぁやな、でもこれコンクリか、なら鉄筋入れたらかなりデカいもん作れるな」
クレイは全く違うところ見てたけど、私は初めての王都にそれどころでは無かったわよね。
「こらこら一人で何処かに行っては行けないよ、ってクレイ何してる!」
「おっちゃん、ケチ言うたらあかんで、これ買うさかい半額にしてや!」
「いや、あの、えっ? 子供だよな」
「わぁ、綺麗な建物」
「そうねエミリー」
お父様は既にクレイに振り回されてたわ、そして選定の儀の為にパピルにやって来たの、初めて見るパピルは素晴らしい神殿だったのよね、今じゃ全然行かないかど。
「これはこれは、お待ちしておりましたカイエン公爵」
「うむ、神殿長も久しくしておる、今日はエミリーの為によろしく頼む」
「承知しております、それではこちらへ」
選定の儀、今思えばあんなに何も考えずによく受けたと思うほどに重要な儀式なのよね。だから子供の時にさせるのかしら?
「ここにいればいいの?」
「はいそうですよエミリー様」
あの時来ていたのはカイエン公爵の派閥の貴族だけだったらしいのよね。クレイの時は王様まで来たのに不公平だわ。
「それでは始めますね
この世界を守る神々よ……」
神官さんが長ったらしい呪文を唱えたら石版に文字が浮かび上がって来たわ。あの時のみんなの驚きったら凄かったのよね。
「えっと、火に水に……! まさか」
「どうした、問題でもあったのか?」
「いや、あのカイエン公爵これを見てください」
「これをってエミリーの属性だろ、火に水に、まさか! 月だと」
お父様の声にみんなが騒ぎ始めたわ。
「月だって!」
「まあ素晴らしいわ」
「ちょっと待て、月の属性と他の二属性で三属性だぞ」
「本当だわ、なんて事でしょう」
「カイエン公爵家に三属性持ちの月の使い手が誕生したぞ!」
「おお!」
その時私は悪いことしたのかと思って凄く怖かったのよね、あまりにも怖くて泣いちゃったし。
「ふぇ、え、え、エミリー何かしたの、ふぇ、え、あーーん、お母様! お父様!」
「ああ、みんな落ち着きいな、こんなに大人が騒いだら五歳児の姉ちゃん怖くて泣いてしもたやんか、ちょっと落ち着き!」
「「「「へっ?」」」」
「姉ちゃん大丈夫や、周りの大人は姉ちゃん怒ってるんちゃうで、姉ちゃん凄いって褒めてるんや、泣くことないんやで」
「えっぐ、えっぐ、本当?」
「せや、周りよう見てみ、姉ちゃん褒めてるやろ、なあみんな」
「そ、そうですよエミリー様、エミリー様は素晴らしい才能をお持ちです」
「そうだエミリー、凄いぞ!」
神官さんとお父様が褒めてくれた、そして
「そうだ、ルシュタールに素晴らしい子が現れたのだ、これはめでたい」
「そうだ」
パチパチと拍手が鳴り始め、それは大きくなっていき
「お父様、エミリー偉いの?」
「ああ、凄いぞエミリー」
「へへへ、うん」
まああの時は何も思わなかったけど、あの子に慰められたのは納得いかないわね。あの子あの時は2歳よね、本当によく分からない弟だわ。
そこからは結構厳しい教育が始まったのよね。