ここは何処だ?
いつの間にか僕は夢を見ていた。
夕陽がさす土手の上を、中学の制服を着た僕が歩いている。
昔の記憶のようだ。
誰かに呼び止められたような気がして振り向く。
同じ中学の制服を着た少女がいた。
香子?
香子は、僕に向かって何かを言っている。
だが、声が聞こえない。
そこで目が覚めた。
徐に目を開く。
あれ? ここは何処だ?
見覚えのない部屋?
装置の中で眠りこけて、別室に運ばれたのか?
ん? 起き上がれない?
これが金縛りという現象か?
いや、違う。
どうも僕の身体はリクライニングシートのようなものに寝かされ、シートベルトで固定されているようだ。
ならばシートベルトを外せばいいのだが、どうやったら外せるんだ?
人を呼ぶか? 部屋の中には人の気配がないな。
「すみません。誰かいませんか?」
「どうかなさいましたか?」
女の声で返事が戻ってきた。
しかし、人の気配は相変わらずない。
声の主は別室にいて、スピーカーを使っているようだ。
「シートベルトが、外せないんですけど……」
「もう少しお持ちください。シートベルトは、大気圏突入が終われば自動的に外れます」
なあんだ、大気圏突入が終われば外れ……大気圏?
「あの……大気圏て?」
「大気圏とは、大気の球状層。惑星や衛星など大質量天体を取り囲む気体の事です」
いや、そんなウィキを丸読みしたような答えを聞きたいのではなくて……
「なんで、大気圏に突入するんですか?」
いや、その前にいつ僕は大気圏外に出たのか聞くべきでは……
「惑星上で、あなたを待っている人がいるのです」
惑星上?
「なんで、そんな言い方するの? 惑星上って……まるで地球じゃない惑星に、降りるみたいに聞こえるんですけど……」
「はい。地球じゃありません」
そうか。地球じゃないのか……え?
「は……今……なんて……?」
「地球じゃありません」
「……え?」
「地球じゃありません。大事なことなので、二度言いました」
いや、あんた三回言ってるだろ。
「えっと……地球じゃないなら……いったい僕は、どこに降ろされるのかな?」
「惑星です。名前は、まだありません」
猫じゃねえぞ!
てか、冗談はいい加減にしろよ。
こんな下手な嘘に騙される奴いるかよ。
確かにこの部屋、宇宙船の中のように偽装しているけど……ん?
なにかが、目の前を過ぎった。
掴んでみる。
ボールペン? これ、僕の胸ポケットにさしていた奴。
いつの間に外れたんだ?
いや、それより、なんで空中に漂っていたんだ?
そういえば、僕の身体、妙に軽い。
ていうか、さっきから重さを感じない。
この感覚……どこかで?
そうだ!
昔、どっかの遊園地のアトラクションで……高いところから落ちるゴンドラの中で体験した感覚に似ている。つまり、この部屋は落下しているって事?
「なあ、なんかこの部屋、無重力になってない?」
「はい。無重力状態です」
「なんで?」
「現在、私たちは自由落下状態にあるからです」
いや、そんな事はわかっている。
僕が聞きたいのは、なんで自由落下状態になってるのかであって……なんか、ロボットと喋ってるみたいだな。
「君ねえ、そのコンピューターみたいな喋り方、何とかならない?」
「そう言われましても、私コンピューターですし……」
「コンピューター……?」
「はい。私はこのスペースシャトルの船載コンピューターP0371です。Pちゃんと呼んで下さい」
「Pちゃん……て……」
あんまし、コンピューターらしくもないな。