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ドローンを回収に来た男

 塩の平原に、それは横たわっていた。

 さっきまで、空に浮かんでいたドローンのなれの果て。

 気嚢に微かに穴があいて、水素が少しずつ漏れて徐々に高度が下がり、最後にここに落ちたのだ。

 そのドローンに、何かが近づいてくる。

 バイクだ。

 バイクは、ドローンの傍らに停止した。

 バイクから降りた男が、ドローンに手を伸ばす。

「動くな! 背後から、お前を銃で狙っている」


 と言っても、僕が本当にこの男の背後にいるわけじゃないけどね。

 落ちたドローンを、誰かが回収にくると予想して、近くに桜花と菊花を配置しておいたのだ。

 狙い通り、男が……フルフェイスのヘルメットを被っているので男かわからないけど……とにかく、やってきたので、桜花を通じて声をかけた。

 声をかけたというのは正確じゃないな。

 僕は奴から二百五十キロ離れた車の中で、パソコンを操作して合成した音声を、桜花のスピーカーから流しているのだ。

 え? 直接マイクで話した方が早いって?

 いや、そうなんだけど、僕は声に迫力がないというか……ドスの効いた声が出せないので……ようする生声を聞かせると甘く見られそうなので、こういう方法にしてみた。 

 ちなみに合成音声は、渋い声の声優小杉十郎太に調整してある。


 男は、抵抗する様子はなかった。

「よし。両手を上に上げろ」

 男は、言われた通り手を上げる。

 ええっと、次のセリフは……カタカタっとキーボードを打つ。

「質問に、答えてもらおうか」

『何を、聞きたい?』

 答え早いって! キーボード打ってる身にもなれ!

「そのドローンを、操作していたのはお前か?」

『いかにも』

 まったく、悪びれる様子がなかった。

「操作していたのは、お前一人か?」

『いや、他にもいるが、近くにいたのは俺一人だけだったのでな』

「それで、一人で回収に来てたか?」

『いや、お前と話ができると思って来た』

 なに?

『最後のドローンは、わざと破壊しなかったな。しかし、活動は続けられないように、太陽電池は破壊。気嚢も爆発しないように慎重に穴を開けた。それは、落ちたドローンを誰かが回収に来ると思ったからだろう?』

 ばれてた?

『近くに、お前のドローンが待機しているのも分かっていた』

「分かっているなら、なぜ来た?」

『さっきも言った通り、お前と話がしたかったからさ』

 ううん……予定が狂ってしまったな。

 予定では、この男を脅迫して、いろいろと白状させるつもりだったのだが……

 それとも、脅迫する手間が省けたと考えるべきかな?

「ご主人様」

 ヘッドマウンテッドディスプレイの左半分を透過状態にして、Pちゃんの方を向いた。

「あの男の服、防弾服です。ドローンの小口径バルカンでは、貫通できません」

「ドローンに自爆装置は?」

「ついてます」

「よし、いざとなったら、自爆装置を使おう」

 なるべく、使わずに済ませたいが……

「話とはなんだ?」

『どうだ? 俺達と手を組まないか?』

 手を組む? いきなり何を……

「その前に聞きたい」

『なんだ?』

「三日前に、シャトルがドローンに襲われた。お前がやったのか?」

『そうだ』

「目的は、なんだ?」

『お前が邪魔だからさ』

「なぜだ? 僕がお前に、何をしたというのだ? 僕は、三日前にプリンターで再生されたばかりだ。お前に恨まれるような事はしていない」

『何も事情は、聞いていないのか?』

「聞く前に、シャトルを落とされた」

『そうか。それで、俺はお前を殺そうとしたわけだが、どうする? 俺を殺すのか?』

 防弾服だから殺せないと思っているな。まあ、ドローンの自爆装置で、殺せるわけだが……

 この惑星に来て初めて会った地球人だし、できれば穏便にすませたいのだけど……

 僕は、Pちゃんの方を見る。

「こいつ、殺した方がいいかな?」

「それは、ご主人様が判断することです」

 ですよね。

「ただ、私は殺すべきだと思います」

 それは分かるけどね、人を殺すのはちょっと……いや、甘いって言うのは分かっているよ。

「おまえが今後も、僕の命を狙うつもりなら殺す。僕も、死にたくはないからな」

『ここで俺が、『もう命は狙わない』と言ったとして、おまえはそれを信用できるのか?』

 できないな。

『ここで俺を殺しても、俺の仲間がお前を狙う。で、さっきの話だが、俺達と手を組まないか? お前は三日前に、プリンターで出力されたばかりだそうだな。そして事情は聞いていない。それならまだ、この惑星にしがらみはないだろう』

 まあ、しがらみはあまりないな。翼竜と友達になれた以外は……

『俺達と手を組むなら、悪いようにはしないぞ』

 『悪いようにしない』という話を信じると、たいてい悪いようになる気がするんだが……

『おまえ。見知らぬ惑星にいきなり放り出されて、どうすればいいか困っているのだろ?』

 確かに……

『俺達のところに来れば、お前が今後、この惑星で無難に生活していけるように世話をしてやる。望むなら、もっと高みを目指せるように手を打ってやるぞ』

 なんか、いろいろ世話してくれるみたいな事を言ってるが……

 しかし、一度でも僕の命を狙った奴の言う事なんて信用できない。

「悪い話じゃないな」

『そうだろ』

「だが、断る」

『なぜだ? 分かってるのか? 俺の話を断るという事がどういう事か? 今後もおまえは命を狙われるという事だぞ』

 それは困るな。

 だけど……

「知ってるが、お前の態度が気に入らない」

 ていうか、こいつは『手を組もう』と言ってるが、自分の素性とか、目的とか、肝心なことは何も話していない。

 迂闊に手を組めば、何をされるか分かったものじゃない。

『ククククク』

 突然、男が笑い出した。

 僕は、何かおかしなことを言ったかな?

『合成音声なんて、まだるっこしい事はやめて、直接話をしたらどうだ? 声を変えても、お前だと分かるぞ。北村海斗』

 な!?

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