ドローンウォーズ
ドローンがコントロール可能になったのは、エシャーが飛び立って三時間後の事。僕はヘッドマウンテッドディスプレイを装着して、三機のドローンの内の一機を起動させた。
四つのプロペラを、対角線上に配置したもっとも一般的なタイプだ。
とりあえず、紫電と命名。
最初にドローンから送られてきた映像に現れたのはシャトルの胴体。カメラの向きを上に向けると、シャトルの翼が映った。
エシャーは言われた通り、シャトルの主翼の陰に置いてくれたんだな。
カメラを動かして、他のドローンを見てみる。
一台は、オスプレイタイプのVTOL。
もう一台は、三角翼のジェット機。これも三角翼の中に、リフトファンが内蔵されていて垂直離着陸が可能なVTOL機だ。
とりあえずオスプレイタイプを桜花、ジェット機を菊花と命名。
「紫電発進」
紫電が飛び立った。
最初は低空飛行でシャトルから離れる。
十分離れたところで急上昇。
下で、エシャーとロットが翼を振っている。
「ご主人様。十時の方向より、極超短波をキャッチしました」
「了解」
極超短波の方向へ紫電を向かわせる。
今のところ、映像には青い空しか映っていない。
「極超短波、強くなります。もう向こうのレーダーに捉えられたでしょう」
「じゃあ、こっちのレーダーも入れるか」
今まで、逆探知を避けるために止めていたレーダーの電源を入れた。
レーダーディスプレイに、ドローンの光点が現れる。
いくつも……
「十機もいますよ」
一機だけがレーダーを使って、他の機体は逆探知を避けるために止めていたな。
予想通りだ。
鈍足のドローンでは、超音速で飛行するシャトルを追いかける事はできない。
では、どうやってドローンでシャトルを攻撃したのか?
考えられる方法は、待ち伏せしかない。
シャトルの予想進路に、複数のドローンを配置してシャトルが通りかかるのを待っていたのだろう。
しかし、攻撃チャンスは通り過ぎる一瞬しかない。
予想進路だって、どのくらい、ずれるかわからない。
だから、十機ぐらいのドローンを投入したのだろうと予想していた。
「映像を拡大」
二つの気嚢を装備した、飛行船タイプのドローンが映った。
気嚢と気嚢の間には、太陽電池パネルがある。
なるほど、これならシャトルの予想進路で長時間待機できるわけだ。
問題は武器に何を使っているかだ。
シャトルの傷を見たところ、レーザー兵器とかではなく実体弾のようだが……!
太陽電池の下に、ミサイルらしきものが二つ見える。
いや、らしきものではなくミサイルだ。
だって撃ってきたし……
二発のミサイルが、ぐんぐん迫ってくる。
「Pちゃん! 紫電の操縦を代わってくれ。僕は桜花を出す」
「はい……あわわ! こんなところで、交代しないで下さいよぉ!」
「すまん」
僕は、オスプレイタイプの桜花を発進させた。
紫電には武装がなかったが、桜花には赤外線誘導ミサイル四発と、小口径のバルカン砲が装備されている。
桜花は、高度をある程度稼いでから、翼を水平にした。
ヘリコプターから飛行機にチェンジ。
一気に加速する。
戦闘空域まで、あと少し。
紫電が、激しく動き回っているのが見えてくる。
ミサイル一発を躱した。
しかし、二発目は避けきれなかった。
紫電は、炎に包まれる。
「はうう!」
Pちゃんが、意味不明の声を上げて両手で胸を押さえた。
「ごめんなさい。紫電が、やられちゃいました。しくしく」
「よく頑張った。カタキは取ってやる」
「やっちゃって下さい。非武装機を落とすような極悪非道なドローンなんか、お仕置きです!」
まだ、ミサイルを残しているドローンを優先的にロックオン。
ミサイル全弾発射。
四発の赤外線誘導ミサイルが、真っ直ぐに敵のドローンに迫った。
一応、回避運動らしきことはしているが、航続距離最優先で、速度、機動性を犠牲にした飛行船では躱しようがない。
たちまち、四機の敵ドローンは大きな火球に変わる。
それにしても、爆発が思ったより大きい。
こりゃあ、気嚢の中にヘリウムではなく水素を入れているようだな。
この惑星では、ヘリウムは貴重品なのかな?
「ご主人様。菊花の、発進許可を願います」
「許可する」
「らじゃあ」
許可するも何も、桜花はミサイルを撃ち尽くしてしまったので、菊花にはすぐ発進してもらわないと困るんだけどね。
敵は、残り六機。
一機は、ミサイルを撃ち尽くしている。
一機あたり二発として敵のミサイルは、まだ十発残っているはず。
二発が、こっちへ向かってくる。
ギリギリまで引き寄せて……
主翼を一気に、九十度動かして垂直に……
飛行機モードからヘリコプターモードにチェンジ!
桜花は、急上昇した。
その動きについていけなくて、ミサイル二発は桜花の真下を虚しく通り過ぎていく。
残り八発。
さて、主翼を水平に戻して……やべ! 失速した!
翼の向きを変えた時に、速度が落ちてたんだ。
ダメだ!!
ぐんぐん高度が下がる。
そういえば、オスプレイって、よく落ちるんだったっけ。
エンジン出力最大! 上がれ! 上がれ!
なんとか、揚力を得られる速度まで上がり、落下は止まった。
そのすぐ上を、ミサイル二発が通り過ぎる。
ひょっとして、失速してなかったら、ミサイルの餌食だったのか?
あぶない、あぶない。
「ご主人様すごーい! これが木の葉落としという技ですね」
え?
ああ、木の葉落としって、ゼロ戦が使っていた、わざと失速して敵の背後をつくというあれか。
ちょっと、違うような気もするが……
まあ、偶然とはいえ、攻撃を躱せたのだから良しとしよう。
「ご主人様。菊花、戦闘空域に入りました。これより参戦します」
桜花を、菊花が追い抜いて行く。
「紫電さんのカタキです。お空のチリになりなさい。サイドワインダーミサイル全弾発射!!」
なんでこいつ、ロボットなのに、こんなに熱くなれるんだ?
四発のミサイルが、吸い込まれるように敵ドローンに命中。
四つの大きな火球が生まれる。
残り二機。ミサイルは二発。
こっちのミサイルはゼロ。
敵は、最後のミサイルを撃ってきた。
一発のミサイルが、Pちゃんの菊花へ向かう。
「そんなヘナチョコミサイルが、菊花に当たるとでも思っているのですか!? 甘いのですよ。マロングラッセよりも大甘です!」
菊花は、ミサイルをあっさりと躱してしまった。
僕は躱さないで、桜花をミサイルに正対させる。
「ご主人様。逃げてください」
バルカン砲のトリガーを握った。
「無理です! 無理です! バルカンでミサイルを撃ち落とすなんて」
撃ち落とした。
「うっそぉ!」
残り二機。
ミサイルはゼロ。
「まだ隠し玉があるかもしれない。油断するな」
「大丈夫です。落としてしまえば、どうという事ありません」
菊花は、残った敵ドローンの一方にバルカン砲を叩き込む。
空中に大きな火球が生まれた。
もう一方へ向かいかけた時……
「ストップ。戦闘中止」
「どうしてですか?」
「最後の一機は僕がやる」
「わっかりました!」
言っておくが、僕は戦闘欲にかられて言ったわけではないよ。
桜花を、最後の一機に急接近させる。
向こうからは、撃ってこない。
ミサイルしか武器はなかったようだ。
僕は慎重に狙いを定め、気嚢を掠めるように撃った。
ドローンの太陽電池パネルが割れる。
水素への引火は防げたようだ。
「これでよし」
「落とさないのですか?」
「ああ。落とさない。今は、落としちゃだめだ」