第97話 ダンジョン跡地
またジャンの屋敷に戻って作業の続きだ。
ジャンの背中に建てた残りの屋敷の作業も終わると、浮遊大陸の作業に移る。
どういう物にしようかと考えたが、浮遊大陸と言えば城。
城でしょ、やっぱり。
こっそりバンブレアム帝国の城を解析する事にした。城の裏手で指輪と気配遮断を行使し、見つからないように隠れて解析を行った。流石に解析には1日掛かった。
更に【錬金】で建てた時には5日丸々掛かった。終わった時にはスキルに【棟梁】が増えていたよ。
浮遊大陸中央部分の平らなところの半分の場所を使ってしまった。真ん中に建てたので洞穴部分には邪魔になってないようだけど、城が飛んでるようにも見えるな。
浮遊大陸から浮遊城になってしまったな。
ノリで建てたはいいが、住むのか?私が。1人で?
それは淋しすぎるな、それこそ魔王になりそうだ。
こっちの使い方については保留だな。完成はしたし、いつでも使えるからな。中身は空っぽだけど。
久し振りにジャンの背中に戻って来れた。
「主様?今回は主様が当番でございますが。」
「うん?ロンレーンのアラハンのとこか。そうだったな、行って来るよ。」
ロンレーンの町の冒険者ギルドには定期的に誰かが覗いてギルマスのアラハンに用事が無いか確認している。当番制にしているが、今回は私の番だった。
バンブレアム帝国の冒険者ギルドにも当番制で覗いているが、こちらは他にもSカード冒険者が居るし、ほとんど用事は無い。
バンブレアム帝国の当番になった者は、大体その日は町で遊んで帰って来る。
余談だが、自称ミスターレディのベッキーは復活し新作の服を作っているようだが、ユニコの縫製の技術も格段に上がり、私の服を作ってくれているのでベッキーの所に行く必要が無くなった。ホッとしている。
前回のドッキリも、私達はまるで疑われてないらしい。
ロンレーンの町へは今回は屋敷には転移せず、町の外から入門した。
もしかしたら依頼があるかもしれないからね。念の為。
冒険者ギルドの受付でカードを確認してもらう。依頼ボードも確認。特別なことは無さそうだ。
Cランク以上の依頼書をいくつか剥がし、倉庫で魔物を出してやる。
精算を待っているとアラハンから呼び出された。
珍しいな、武器の催促か?
マスタールームに入ってみると、深刻な顔のアラハンが座っていた。
私も座って尋ねてみた。
「何かあったのか?」
「ええ、誘拐犯の時のダンジョンを覚えていますか?」
「ああ、悪者共を置いて来たダンジョンだな?」
「ええ、そうです。そろそろ魔物のレベルも下がって来たので調査隊を差し向けました。ところがもう1か月以上にもなりますが、その調査隊が帰って来ないのです。」
「それは心配だな?見て来てやろうか?」
「そうしていただけると助かりますが、まだ何もわからない状況ですので、依頼と言う訳にも行かず相談の為にお呼びだてしてしまいました。」
「構わないよ、じゃあ今から行って来てやる。どんな奴らが何人で行ってるんだ?」
「ブラックチキンというチーム名のCランクパーティです。5名のチームですが、探索や斥候には向いているんですが、戦闘には向いてないチームなんです。ただ、逃げ足は速いので魔物にやられることも可能性としては低いチームなのですが、ここまで遅いとやはり全滅の可能性も考えてしまいます。」
「わかった、じゃあ行って来るぞ。」
「お願いします。」
今日はヒマにしてる奴も多いだろうから呼んでやるか。
『エース?ジョーカー?』
『はい。』『はい。』
『手は開いてるか?』
『空いてます。』『私も空いてます。』
『ロンレーンの東の石碑は地点登録してるはずだから、そこまで来てくれるか?』
『わかりました。』『わかりました。』
私も町を出てから石碑の所まで転移した。
2人もすぐに来た。
「依頼という程では無いんだが、様子見を頼まれた。エース、馬車を引いてくれるか?」
「わかりました。」
「このまま南へ真っすぐ行ってくれ。」
御者台にはジョーカーに乗ってもらい魔物対応をしてもらいながら、なるべく低い所を飛んでもらった。
私も【那由多】に人間だけをサーチしてもらったが反応は無かった。
もしかしたらダンジョンに入っているのかもしれないな。
ダンジョンに着くまでにブラックチキンのパーティを見つけることはできなかった。
「見つけられなかったな、ダンジョンに入ってみるか。」
30階層から魔法陣で出て来れたが、今はどうなっているかもわからないので、一応魔法陣をダンジョン入り口に作っておく。
「では、私が先頭を行きます。」
とジョーカーが伸縮自在の槍を出し先頭を行く。エースが少しムッとした顔になった。
偶に雑魚の魔物と出会うだけで、ほとんど魔物とも出会わずに30階層まで辿り着いた。
以前、ケンジの村があった場所だ。今は悪者共が居るはずなんだが前に見た風景と違っていた。
大きなワンフロアというのは同じなんだが、魔物で溢れかえっていて悪者共を閉じ込めた酒場の大きな建物だけが残っていて、後は何もない更地になってしまっている。
「モンスターハウスになってる。この魔物たちを排除するぞ!」
「「了解ー!」」
フロアに溢れていた魔物ランクは高かった。大半がBクラスであとはAクラスしかいなかった。
壊された家はダンジョンが吸収したとして、なぜ酒場だけ残っているのか。
まずは魔物をすべて排除してからか。3方向に別れて魔物と戦う。500体では利かないぐらい溢れていた魔物も私達3人で30分も掛からずすべて排除した。エースとジョーカーに落ちている魔石の回収を任せ、私は酒場に向かった。
酒場には悪者達がまだ居た。私の姿を確認した悪者達は結界を解き中へ入れてくれた。
魔物をすべて排除した私達は歓声で迎えられた。
「旦那ー、ありがとうごぜえやす。助けに来てくださったんですかい。助かりやしたぜー。」
「違うよ。まだ居たんだお前達。」
「え?」
「なんでお前達を助けなきゃいけないんだ?ブラックチキンってパーティを探してるんだ。」
「えっ!」
「お前達何か知ってるな!?」
「い、いや。」
「言えば助けてやらんでもない。」
「本当ですかい?奴らは今2階で閉じ込めていやす。」
「ふーん、なんで?」
「い、いや、冒険者だったんで、あっしらを捕まえに来たのかと思いやして。」
「私も冒険者だが?」
「もう勘弁してくださいよー。連れてきやすから。おいっ!連れて来い。」
連れられて来た冒険者はボコボコにやられており、重症のようであった。
回復魔法を掛けてやり、悪者共に食事も分けさせた。
「助かりました、ありがとうございます。私がブラックチキンのリーダーのカーターと言います。」
「私はウルフォックスのタロウだ。お前達はなんでこんなとこに居るんだ?ダンジョンまでに魔物がいるかどうかの斥候じゃなかったのか?」
「そうなんですが、ダンジョンに入っても魔物のランクが低いので大丈夫だろうと来てみたら急に魔物が現れて。逃げ込んだ先がここでした。そうしたらここの連中にやられてしまって。」
「お前達は慎重で逃げ足が速いから今回選ばれたってアラハンさんが言ってたぞ。これで仕事も減るだろうな。確かにここから上は魔物のレベルが低かったから帰るのなら今の内だろうな。」
「そうですね、じゃあ私達は帰ってギルマスに報告をします。」
ブラックチキンのメンバーはさっさとダンジョンを上がって行った。
「お前達はどうするんだ?私はこのままこの階を調べるからまだ帰らないぞ。」
「へい、あっしらも出て行きてえんですが、食料が底をつきやして。」
「わかったよ。」
魔物を1体出してやった。
「もうお前達の事は覚えたからどこへ逃げても私から逃げることはできないからな。ダンジョンから出たら近くの町の冒険者ギルドか領主の所へ自首するように。」
「わかりやした。野郎ども行くぞ。」
悪者共も上へ上がって行った。
私はダンジョン核があった所に来てみた。
変わってない。出口の魔法陣があるだけだ。
「エース、ジョーカー。何か変わったものは無いか?」
「こちらに階段があります。行ってみますか?」
「階段?前はそんなもの無かったんだがな。行ってみるか。」
「わかりました。では今度は私が先頭になります。」
エースはジョーカーを見てにやりと笑った。
ここからは魔物のランクが上がりそうだったし、さっきは先をこされたのでエースが先に立候補した。
ジョーカーがしまった!と思った時にはエースがもう階段を降り始めていた。
私は誰が先頭でもいいんだけどね。
31階層目からは確かに魔物のランクが上がっていた。
しかし、どういうことなんだ?ダンジョン核が30階層にあってダンジョン核が無いのに魔物がいて更に下への階層が増えている。
ダンジョンってそういうものなのか?それともここが特別なのか?何か他に理由があるのか?
37階層に降りた時、急に魔物が減り魔物のランクもガクッと下がった。
どういうことなんだ?さっぱりわからん。法則が無い。
「エース、休憩にしようか。食事でもしよう。」
広めのダンジョン部屋に家1号を出し、杭を打ち込む。
家1号に入り私が食事を作って3人で食べた。少し食休みをして家1号から出たら魔物のランクが少し上がっているような気がした。
38階層に降りるとまた魔物が減った。39階層では魔物は出て来なかった。
「うんしょ、うんしょ、うんしょ。」
何か小さな魔物が居る。
「何だあれは?」
「排除しますか?」
「ちょっと待て。」
【鑑定】
名前: なし
年齢: 13
種族: 聖獣 (アピス)
加護:
状態: 普通
性別: 男
レベル:10
HP 101/101 MP:1184/5884
攻撃力:201 防御力:236 素早さ:119
魔法:
技能: 錬成(5)・料理Max・裁縫Max・掃除Max
耐性:
スキル:
ユニークスキル: 【ダンジョン】
称号: ダンジョンクリエイター
「おい!そこのちっちゃい牛みたいな魔物!お前は何だ?」
ビクッ!
呼ばれた魔物がそーっとこっちを向く。
「ボクは魔物じゃないやい!聖獣だい!」
「聖獣?その聖獣が何をやってるんだ?」
「見て分からないか?作ってるんだよい!」
「何を作ってるんだ?」
「見て分からないものは言ってもわからんだろい!」
体長が50~60センチぐらいの小さな聖獣だった。
私は猫を摘まむように聖獣の首根っこを摘み上げて
「お前舐めてんのか?わからないから聞いてるんだろ?」
「何すんだよい!降ろせよい!ボクはダンジョンを作ってるんだよい!」
「ダンジョンを作ってるー!? そんなことができるのか?お前凄いな。私の仲間にならないか?」
「わかったよい!」
私の額が光った。
うん、今のは仲間にしたかったから言った。『つい』では無い。はず。ちょっと勢いはあったことは認めるよ。




