第95話 リクの活躍
その夜、アメーリアの宮殿にクィンを、ジャンの背中の屋敷にココアを残し、全員ロンレーンの屋敷に集合した。
クィンには一度ロンレーンの屋敷に来てもらって、エース、ジョーカーと共に皆に紹介をした。
「皆元気にやってるようだな。そっちの報告はあとで聞くとして、今はこっちの件で全員の協力が必要になった。その話をする前にアジトができたのでそっちに移るぞ。」
短刀で全員と転移する。
「あれ?ロンレーンの屋敷にそっくりだ。」「ここはどこ?」「同じ屋敷が3つもある。」
など、口々に感想を述べている。
「私達は真ん中の屋敷を使うぞ。右の屋敷は今お客さんが使ってる。さぁ、入ろうか。」
さっきまでと全く同じ家だし同じ家具だし。本当に移動したのか?と思う程、逆に違和感があった。
今後の課題だな。いっそ宮殿の解析をしてやろうかな。全然隠れ家って感じが無くなりそうだけどなぁ。
ココアも合流して会議を再開した。クィンには再び【監視】の為に宮殿に戻って貰った。
「知らない者もいるだろうから初めから説明するぞ。事の始まりは冒険者ギルドから受けたダンジョン攻略の依頼から始まっている。そこにマルコシアスという悪魔が召喚されており、その召喚した者が王家の秘密を握っていた。王家がフォルファクスという悪魔を召喚して操られていることを掴んでいた。このフォルファクスという悪魔は生贄好きで有名らしく勇者召喚でも相当の生贄を出したようだ。このままでは大変なことになりそうなのでフォルファクスの排除をやろうと思っている。別に王家にもこの国にも何の義理は無いが、悪魔に操られる王家とその犠牲になる人間というのが見過ごせないというか、王家を操るぐらいだから今後私達の邪魔をしてくる可能性もある。ショーンとの約束もあるんだが、そのフォルファクスが気に入らないっていうのが本当の所だ。」
久し振りの全員集合ということもあり、ソラもノアも真剣に聞いていた。
「フォルファクスを排除することは誰に頼まれた訳でも無い。冒険者ギルドの依頼でも無い。だが、皆に手伝ってほしいと思う。」
「私達はタロウ様の従者です。タロウ様のやりたい事をお手伝いすることが私達の使命です。」
「そうだよ兄ちゃん!任せとけ。」「主様のご要望通りフォルファクスを血祭りにして御覧に入れます。」「必殺技ー」「全員でやるとぉ弱い者いじめみたいですわねぇ。わらわ一人で十分ですわぁ」「おいらがやっつけてくるよ!」「タロウ様・・・」「タロウ様・・・」・・・・。
嬉しいなぁ、ありがたいなぁ、いい仲間を持ったなぁ。
「ありがとう皆。本当にありがとう。」
「主様、それではこれから城に乗り込むのですか?」
シャキーン!全員の目が光る音が聞こえた?おいおい、ちょっと待て。
「いやいや、そんな事をしたら全員お尋ね者になってしまうじゃないか。まずは情報集めだよ。今、クィンに宮殿を見張らせているから何か動きが出ると思うんだ。それからだな。」
おいおい、残念がりすぎだろ?
「あくまでも目的はフォルファクスの排除だ。その為に城に乗り込むことになってもできる限り人間には手を出したくない。少々人間の兵が邪魔しても殺さずにあしらうぐらいお前達の実力なら簡単だろ?」
ニョキニョキ。おいおい、今度は鼻が伸びてるぞ。面白れーなお前ら。
「そこで作戦なんだが、近いうちに宮殿で動きがあるはずだ。アメーリアという王族が殺されるか攫われるかフォルファクス側が動いてくると思う。その実行者たちを尾行するんだ。デルタを中心に捜索をしてもらってるが、場所の特定ができていない。場所さえわかれば乗り込んで排除するだけだからな。」
「誰がやりますか?」
皆指名を受けたくてウズウズしている。
「【竜眼】か【魔眼】を持ってるものとクィンが交代で見張りだな。【隠形】を持ってるものか遮断がMaxいなっている者が尾行役だ。結界がある所もあるみたいだし、カインはいつでも動けるように待機しておけよ。それとユニコとココアにはアメーリアの世話を交代でお願いしたい。人選や作戦はデルタに任せる。」
「わかりました。」
「あ、言い忘れてたがこの屋敷が建って居る場所は仲間の背中だからな。20人目の仲間のジャンだ。」
『ジャンと申す、よろしく頼む。』
「あ、聞こえた。こっちもよろしくー。」
「すっごく大きいんだよー。」
「皆、地点登録はしておくように。この屋敷は今後拠点にするからな。あと、ロンレーンの屋敷も当番を決めて、月に1回はアラハンのところに顔を出すようにしようか。屋敷を貰う時の条件だからな。」
会議も終わり、アメーリアの所に顔を出した。
皆は自分の部屋を決め、過ごしやすいように模様替えなどをしているようだ。
「アメーリア、どうだ?」
「はい、ありがとうございます。今のところ何も問題はありません。」
「食事はどうだった?今日はココアが作ってくれたと思うが、宮殿程では無いにしても中々上手いだろ?」
「はい、じいと2人で大変美味しくいただきました。ケーキも久しぶりに食べたのですが、凄く美味しかったです。」
ココアはケーキも出したんだな。そりゃ砂糖を使ってるからな、美味しいはずさ。
バンブレアム帝国でケーキ屋にココアと一緒に行ったが、やはり砂糖では無く果汁を使っていたから大人の味って感じだったな。
「分身の方はどうだ?動きはあったか?」
「今の所ありません。ただ、じいが居ないことで反応が様々でした。訝しく思っている者や心配している者、中にはニヤリと嫌らしい顔をする者もいました。」
「近いうちに動きそうだな。思惑通りだ。向こうの分身がもしやられても、こっちは心配ないから指輪を外したらダメだぞ。」
「わかりました。何から何までありがとうございます。なぜそこまでしてくださるのですか?」
「ホント何でなんだろうな、自分でもわからないんだ。さっきも皆に説明で困ったよ。お前達を助ける理由が私には無いからな。」
「それはタロウ様がお優しい方だからですね。わかりますわ。」
「やめてくれ。何かあったら誰かを呼ぶか大声で呼んでくれ。じゃあな。」
恥ずかしくなってすぐに自分の部屋に戻った。
その日は何事も無く終わった。動きがあったのは次の日の夜だった。
クィンから連絡があり、アトムとリクが転移して行った。
アメーリアの分身は殺されること無く攫われたようだ。
アメーリアを攫った魔物は城に向かって行ったが、城門には入らず城門を通り過ぎて城の裏側に来た。
裏側には橋は無かったが、そこは魔物。アメーリアの分身を担いだままでも軽く堀を飛び越えて行く。アトムもリクも気付かれずに後を追う。裏側には小さな祠があった。
人が入れるほど大きなものでは無かったが、魔物は祠の扉を開けて中に祭ってある像を押し込む。
すると祠の横手に地下への階段が現れた。扉は自動で閉まるようだったが、閉まる前にリクが中へと入ることに成功。ショーンは私達に念話で連絡をくれた。
ショーンは転送ポイントを作り転移でアジトの屋敷まで戻って来た。
アメーリアに分身の指輪を外すように指示し、執事と待っているように言っておく。
私達は全員で城の裏側の小さな祠の前に来ていた。
「扉を開けるとバレてしまうかもしれんが、ここまで来たらバレてもいいだろう。リクも先に行ってるようだし、私達も中に入ろうか。」
「わかりました。」とショーンが祠の像を押し込む。
隠し階段が現れ全員で入って行く。
分かれ道も無く長い螺旋階段だけが続く。
5階分ぐらい降りただろうか、扉があった。サーチで確認するが、何も確認できない。
扉を開けて入ってみる。魔物の死体が続いている。切り口から見るとリクの刀で斬られた痕がある。元々魔物だったのか、元は人間だったのかわからないが、今は魔物の死体である。
通路に魔物の死体がずっと続いているので皆が通りやすいように魔物を回収しながら進んでいく。
広い部屋に出たらリクが居た。
「リク!」
「あ、とーちゃん!全部やっつけてやったぜ!」
えーーーと、終了? ミルキー班まで呼び寄せて、万全の態勢で挑んだんですが。
後ろに付いて来てる仲間からの視線が痛いんですが。リクさん?
「フォルファクスは?」
「あいつね、これだよ。」
と大きな魔石を見せた。
うーん、どんどん後ろからの視線が痛くなってくるな。威圧も混ざってないか?
「間違いないか?」
「うん!ちゃんと【鑑定】して確かめたよ。」
「そう・・か・・・。」
皆、出番が無くなっちゃったね。どうしよう。なんか誤魔化せないか?
「これで王が元に戻ればいいんですがのぉ。」
ナイスだデルタ!話を変えられる。
「そうだな、まずはその確認をしないとな。他にも魔物化しそうな奴がいたら排除しておかないとな。」
後の視線が無くなった??振り向いたら誰も居なくなっていた。
皆、出番が無くなったものだから、我先にという感じで城に向かって行った。
頼むよー、仕出かさねーでくれよー。国を敵にはしたくないからねー。
やはり魔物化のために魔石を埋め込まれた者は居たようだ。500名近く排除された。
結界がある所はカインが無効化し、【竜眼】【魔眼】で魔石を確認。
その者達を倒し回収。王の【鑑定】結果は状態:普通と確認できたと報告された。
勇者も居たそうだが、まだレベル5だったそうだ。
何のための勇者召喚なんだろう?
フォルファクスがレベルを上げさせないように仕組んでいたのかもな。
フォルファクスが居た場所を確認すると、何度も生贄を捧げていた跡があった。
名簿も作らせていたようで、1000名を超える名前が書いてあった。
その中には第1皇子から第3皇子の名前が確認できた。
次の日からはアメーリアの宮殿や他にも国の関係するところを回り、魔石を植え付けられた者達の排除に回った。
アメーリアの宮殿では10体ほど確認できたが、他の所では第4皇子と第8皇女が排除されただけで済んだ。
城に居た者も含め、全部で500名を上回ったぐらいだった。
誰にもバレてはいないが、王族がいなくなっても騒ぎは起こらなかった。
魔石を植え付けられていた王族は、何かにつけて処刑を行っており居なくなって安堵するものばかりだったのと、王がやっと我を取り戻したところで国政が混乱していたことも私達としては幸運だった。
しかも王は勇者が居ることにも初めて気が付いたようで、王族を含めて500名強の行方不明者の捜索どころでは無かったようだ。フォルファクスの所業を合わせれば1500名以上の行方不明者だ。
アメーリアと執事は宮殿の安全の確認後、転移で連れて戻った。
「もう安全だ。安心してくれていいぞ。悪魔関係の連中はすべて排除した。」
「タロウ様、ありがとうございました。これはお礼としてお納めいただけますか?」
アメーリアは綺麗な短剣を差し出した。
「この短剣は王家の者が信用に値する者にのみ授けるもので、これがあれば城にでも入ることができます。もちろんこの宮殿でもです。また来てくださると嬉しいのですが。」
「別に城には用事が無いから行く事も無いんだが。これぐらいなら頂いておくよ。」
「またお披露目式もやり直しますし、今度は是非タロウ様にいらして欲しいと思っています。来ていただけませんか?」
「そういうのは断りたいんだが。」
「私からも是非お願いいたします。」
いつもは無表情の執事も口を挟む。
「珍しいな、お前からも言って来るなんて。わかった考えておくよ。」
「はい、前回と違いお嬢様の王位継承権も上がっております。今度は王様も参加されるでしょう。恐らく勇者様も。」
「王とかそういうのが嫌なんだがな。しかし私の屋敷に居た割に色々知ってるなぁ。どこで情報を手に入れたんだ?」
今帰って来たところなのになんで知ってるんだ?
「はい、ジャン様に色々と教えていただきました。なんでもお嬢様が近くに居たことで【念話】が目覚めたとか。そのお礼に色々と調べて頂き分かったことを教えていただきました。」
確かに色々聞いてくるなぁとは思ってたけど。ダメじゃん!隠れ家本人がおしゃべりって。
「そうだな、確かに王位継承権は上がったみたいだな。3位ぐらいか?」
「はい、第3位になりましたが、実質1位と言ってもいいでしょう。お嬢様は洗礼も受けておりますし第3位ではございますが、発言権は王位継承者の中では1番になりました。」
「それじゃ、宮殿から出て城住まいになるのか?」
「いいえ、それはお嬢様も望んでおりません。実質1番でも第3位には違いありません。それに城に行ったらタロウ様が来られません。ここならまだ来られる可能性もございますから。」
フォルファクスを倒したあとで名簿を確認したら、魔石を埋められたものは別として王位継承者の1位から11位までと13・15・16位は生贄にされていた。
アメーリアも私が助けなければ生贄にされていただろうな。
アメーリアが聖女だからとも疑ったが、これだけやられてたら王家の者だったからだけかもしれないし。
これだけ生贄をささげて何を呼び出したかったのか、それともただ殺したいだけだったのか。今となってはわからない。何かが召喚された跡はあったのだが。




