第92話 ショーンからの願い
転移した後に気が付いた。
「しまった、マーメライの町の中から海に出たままだったな。マーメライの街中には地点登録してないし、明日誰かに付いて来て貰おう。」
町に入り宿に戻った。
宿に帰ると、ココアが直ぐに迎えてくれた。もう言いたくて言いたくて仕方のない顔をしてる。上手く行ったんだな。聞いてやるけど、まずは座って飲み物でも飲ませて欲しいな。
「ただいま。何か言いたそうだけど、先に飲み物を貰えないか?」
「はい!かしこまりました。」さっと走って行く。その間に部屋に入った。分かってるとは思いますが、宿では大部屋です。追加分は別部屋ですが。
ココアが冷たい飲み物を持って来てくれた。私は少し飲み
「じゃあ聞こうか。その顔はうまく行ったんだな。」
「はい、とても楽しかったです。またやりたいです。」
ドッキリって仕掛ける方は楽しいよな。しかも大成功した時って自分の予想を上回ったリアクションがあったりしてテンションMAXになるよな。わかるよココアさん。
「ベッキーはうまく連れ出せたのか?」
「はい!ベッキーさんから話しかけて来たので、連れ出すまで話はとても早かったです。」
「それで、冒険者は治ったのか?」
「はい!全員回復しました。もう明日から依頼を受けるって言ってましたから。」
「そんなにか、凄い効果があったんだな。それで分身は消したのか?」
「はい、冒険者が回復した後ベッキーさんと食事に行って、その途中で少しずつ小さくなって小さくなって小さくなって最後に消しました。その時のベッキーさんの顔は主様にも見せたかったです。『なになになにーなんなのよー』って絶叫もしてました。」
「ははははー、それは確かにに見たかったな。ホラー映画みたいだ。」
「ホラー映画?」
「ああ怖い見世物かな。今日は私もアリバイがあるし、私は無関係を装えるな。良くやったぞ!ココア。それにエースも。」
「ありがとうございます。主様の方はどうだったんですか?」
「私の方も思った以上の成果があったぞ。オーフェンは一時危なかったがうまく恩を売れたし、浮遊大陸に続く拠点候補も見つかった。デルタ、アスピドケロンの情報は役に立ったぞ確かに島だったぞ。」
「見つかりましたか、あれを見ても魔物だと気付かない場合が多いですからな。本当に大きいですから。大人しい魔物ですからあまり動きませんしの。」
「そうでもなかったのだぞ?シーワームが大量に居てな、甲羅を破ってアスピドケロンに食いついていたものだからジャイアントブレスを吐きまくって暴れまわっていたんだぞ。」
「そんな事があったのですか!奴が暴れたとなると相当な被害が出ておりますな。少し情報を集めませんとな。」
「ああ、いつから暴れていたかは知らんが、マーメイド達も知ってたぐらいだからな。情報を集めるんなら明日一緒に行こうかアスピドケロンに転送ポイントを作って来たから。」
「それは是非にお願いします。」
「行く前にマーメライで寄り道して協力もお願いしたい事もあるし、そうしよう。」
「私も参ります。」
「ああ、ココアも頼む。」
「かしこまりました。」
話が終わった頃、ショーン達もダンジョン攻略から帰って来た。
賑やか5人組の自慢話を聞いた後、ショーンから話があるという事で、私たちは二人で夜の町に出た。深刻そうな様子だったので2人きりになれた方がと思って出て来たのだ。
ショーンは食事がまだだったので、冒険者が良く使う飲み屋に来てみた。
客はまぁまぁ入っていたが、端の方の席に座れば邪魔も無さそうだったので、店に入って注文をした。
こういう店に来たら、やはりビールかなにかアルコールだな。周りの連中が飲んでるエールって奴を頼んでみるか。ショーンの分も頼みメニューからいくつか頼む。
そう言えばこの世界に来て初めてアルコールを飲むかもな。東の国の酒も少し味見をしただけで後は手を付けてないし、こっちの大陸に来てこういう店で食事もあまりしたことが無いしな。だいたいは宿の食堂で済ますからな。後は自分達で作るし。
まずはエールを一杯。うーん、不味い。なんだこれは?温いビールの気が抜けた様なものじゃないか! 飲めたもんじゃないな。ノアはいつもこんなものを飲んでるのか?慣れれば飲めるようになるのかな?
ショーンもエールはあまり進まないようだ。
少し食べた後、周囲を気にして誰も聞いてないことを確認してショーンから話を始めた。
「タロウ様、折り入ってお話がございます。」
「なんだ?大体の頼み事なら聞いてやるぞ。」
「ありがとうございます。ではお話しさせていただきます。実は、先日ダンジョンで倒したマルコシアスの件でございます。」
「うん?マルコシアスがどうしたんだ?」
「はい、マルコシアスと私は魔界では良く戦いもしましたが、何度か共闘もしました。私の方が若干実力が上でしたが奴は私に何度も挑んで来ました。いつもいい勝負でした。私達の戦い長引いた時に、疲れている私たちを狙って来る者もおりましたので、その時は共闘をして戦ったりもしました。」
いい悪友って感じなのかな?
「そこで先日ダンジョンで戦った時に頼まれたのです。再召喚してくれないかと。私は断れませんでした。奴の言った言葉で断れませんでした。」
私は良いとも悪いとも言わず黙って聞いていた。
「奴は今回の召喚で、召喚者の想いを知りました。もの凄い恨みだったそうです。そういった想いというのは私達悪魔にとっては召喚時に大きなエネルギーとなりますので、ありがたい話なのですが今回は少し違いました。それが50階層に縛られるという制約にもなったそうです。普通はそれだけ恨みを持った者なら誰かを排除せよと命令するものなのですが今回の制約は50階層に居続けろという変わったものでした。しかも自分本人を生贄にしてまでという重い恨みでした。生贄にされる前にその想いを語られたそうです。」
悪魔にもそういう想いを打ち明けると同意してくれたりするものなのか?あまり無いような気もするが。
「この国の勇者召喚の生贄として一族全員が犠牲になったということでした。1度目の召喚に10名の者が選ばれましたが失敗。2度目の召喚時には50名の者が選ばれましたがまた失敗。3度目の時には100名が選ばれやっと召喚できたそうです。残った一族の者は少しいたのですが、反逆を恐れた王族がすべて処刑したそうです。マルコシアスを召喚した者は一族の最期の生き残りだということでした。自分の技術と生贄では王族を滅ぼすことができるほどの悪魔を召喚できるとも思えず、せめてこのダンジョンを使い物にならなくすることを選んでの召喚だったようです。生き残った一族の処刑はそのダンジョン内で行われたそうですから。」
確かにダンジョンは密かに処刑するには向いているな。王家なら誰も入って来れないようにもできるし、殺された者はダンジョンに吸収されるから死体も残らない。糞みたいな王だな。たかが勇者の為に。
マルコシアスだったら王家をやっつけられたんではないかとも思うんだがな。実力は見てないけど、この世界の人間って大したことないんだけどな。勇者がいるからかもしれないな。でも勇者も召喚されたばかりで弱いんじゃないのか?その辺の情報はオーフェンが詳しいかもな。今度聞いてみよう。
「それで召喚を受けたわけか。しかし、その生贄の者の恨みを変わって果たす程、恩は無いだろ?マルコシアスだって。」
「確かにそうです。しかし、ここの王家に悪魔が召喚されていて、その悪魔が王家を操り今回の勇者召喚の為に惜しげも無く生贄を使い行なった。その悪魔がマルコシアスとも因縁があるフォルファクスという悪魔だということも生贄が掴んでいました。恐らく先に王家の悪魔召喚の情報を掴んだので一族を滅亡させられたのかもしれません。」
「その情報は確かか?」
「フォルファクスは生贄好きで有名な悪魔です。辻褄は合いますし、マルコシアスもその生贄から他にも何か掴んでいたのかもしれません。再召喚されたいだけでそんな事を言う奴ではありませんから。」
「私がマルコシアスを召喚するとして、マルコシアスはどうするつもりなんだ?王家を滅ぼすつもりなのか?あ、すまん。別に召喚しないと言ってる訳じゃ無いんだ。聞いておきたいんだ。私がしてほしくないことは制約で縛れるんだろ?」
「お気遣いありがとうございます。確かに制約で縛れます。制約の時に、このバンブレアム帝国に入るなと言えば入ることもできません。奴が何をしたいのかはわかりませんが、私を騙したり利用したりする奴でもございません。」
「わかったよ、ショーン。悪魔召喚はやってやるよ。でも、今すぐじゃない。少し確かめたい事もあるし、フォルファクスをこっちで始末してからだ。」
それが良いと思うんだよな。王家を悪魔が操ってるとなると、大変なことになりそうだ、生贄好きな悪魔みたいだからな。マルコシアスもフォルファクスがいなければ召喚されてからも無茶な事をしないと思うし。アメーリアの洗礼の時に魔物が出たことや従者の事も何か引っかかるしな。
「おお、タロウ様。ありがとうございます、それで結構です。フォルファクスの始末には是非私にも役目をお与えください。」
「わかってるよ。でも確かめたい事があるから、それからだぞ?先に情報収集もしないとな。折角だから残りのダンジョンも制覇しておけよ。」
「わかりました。」
その後、宿に戻り明日からの予定を話した。
「ショーン組は続けてダンジョン攻略だ。リクは仕事ができたからこっちに残れ。エースとジョーカーとクィンと一緒に行動だ。ユニコはベッキーの所で続行だ。しばらくベッキーはショックで何もできない状態かもしれないがな。明日はソラも私と一緒に行こう。」
【竜眼】と【監視】を持ってる3人と、【竜眼】には目覚めたばかりだが【隠形】を持ってるリクを組ませ、偽装+遮断の指輪を付けさせて王家の城や宮殿を見張らせて情報を集めさせる指示を出した。
私は、ココアとソラとデルタと共にアスピドケロンに行く予定である。




