第88話 【番外編】 ギルドカード・ゲット・ストーリー (ソラ編)
ソラ編
ソラが解説すると誰もわからないので、フォローを入れつつソラ目線で物語を語ってみましょう。
私が鍛治ギルドでグランプリを獲った頃の話です。
ロンレーンで、いつものように門の外へ出ていた日の事でした。
「ソラちゃん!今日も外へお出かけか?」
「ちょっとそこまでー。」
毎日の事なので、門兵たちとも顔馴染みである。
門兵もソラがCランクの冒険者であることは、すでに知っているし毎日の事なので心配もしていていない。
初めの頃は、女の子が1人では危険だから力尽くでもと思って止めていたが、毎回素早く逃げられていた。いつもちゃんと帰って来るし、もう諦めていた。
「いつも、どこに行ってるんだい?」
「ないしょー。」
「ほんと、掴みどころが無いね。あの娘は。」
最近、高ランクの魔物が出たとも聞かないし、門兵達も平和だなぁと思ってた。
ところが本当は、そうでも無かった。
「今日もスライムさん、いるかなー。」
町には普通、東西南北に門はあるが、このロンレーンには北門が無かった。
ソラがいつも通っているのは、初めの日に通った東門である。
「あ、いた!スライムさんだ。今日は赤い子もいるんだねー。」
いつもソラは、薄水色のスライムを見つけては寄って行く。別にスライムと話せている訳では無く、話しているつもりなのだが。お人形さん遊びみたいなものだ。
「今日は、どっちに行こうかなー」
ソラは式具を4本とも出し、空に向かって飛ばした。
始まりの部屋でタロウから貰った2本と、東の国の西の町で買って貰った2本だ。
性能としては、初めに貰った方が格段に上のようだが、ソラはどちらも上手く使い熟している。
「みんな戻れー」
式具が戻って来る。
「今日はこっちの方だねー、いつもと気配が違うよー。なにがあるのかなー。」
式具を四方に飛ばして周囲探索をしたようだ。
ソラが向かって行くのは、門の無い北側だった。
この町の北側は他の方向と違い、普段は魔物もあまり出ないのだが、定期的にランクの高い魔物が出るので敢えて門を作らず強固な塀を二重に作っていた。
高ランクの魔物が出た場合は、門の上からの遠距離攻撃と東と西の門から出た討伐対の挟撃作戦で打ち取る作戦だった。
その作戦は、いつも上手く行っていた。
最近では、Cクラス上位のウッズワームが12体出現して討伐を終わらせたところなので、兵士たちの警戒もは少し緩んではいたようだ。
ソラが町の外の北側の森に到着すると戦闘をしている気配がした。
ソラも行ってみると、そこでは5人の人間が魔物と戦っていた。
「なんで魔物がいるんだよ!この前討伐したんじゃなかったのかよ!」
「皆で掛かれば相手も諦めて逃げるかもしれない、皆で頑張ろう!。」
「ダメだ、こんな奴に太刀打ちできる訳が無い!ここは少しでもオレが食い止めるから、皆逃げてくれ!」
フォレストワームだった、ウッズワームの上位種だ。Bクラスは十分にある魔物だった。
パーティは5人だが、戦闘できる者は2人だけだった。
他の3人は採取目的で来ている薬師だった。
この辺りは良い薬草が採れるので、ソラも良く来ていた。
このパーティ達もそれを知っていたのだろう、魔物の討伐後という事もあり今が薬草採取のチャンスだと来ていたようだ。護衛も2人だけのようだし、前例から警戒も怠っていたのだ。
しかし、魔物が出た。しかも前回討伐した魔物より上位種が出たのだ。
このパーティに敵うはずもない。普通に考えれば全滅だ。
絶体絶命のピンチだった。
「ねぇー、どうしたの?やっつけないの?」
皆がその声に振り向き固まる。重装備を付けられない薬師よりも更に軽装の女の子がそこに居たからだ。
しかも、何事もないような口調で話し掛けて来る。
そこにフォレストワームからのブレス攻撃が来る。
全員が諦めた。回避などできないほど強烈で広範囲攻撃だったからだ。
だが、ブレス攻撃がパーティに届くことは無かった。
「ねぇ、どうしてやっつけないのー?」
護衛で来ていた冒険者のスラークはランクDの冒険者で、得意武器は剣だった。
相棒のメンダーはEランクで、槍が得意だった。
なぜ自分達が無事なのかもわからいし、なぜ女の子がいるのかもわからない。
余りにも現実離れし過ぎていて、もしかしたらもう自分達は死んでしまったのかもしれないと思うと普通に話せた。
「君は?」
「ソラだよー。」
「ここでなにしてるんだ?」
「見物かなー?」
「何を?」
「おじさん達が何してるのかなーって。」
「私達はあの魔物から逃げようとしてたんだが、もしかしたら死んでしまったのかな。」
「誰が死んだの~?」
「君は天使で私を迎えに来たんでは無いのか?」
「違うよー。うち天使じゃないもん。」
「魔物がいて逃げられなくて困ってたんだ。強くて敵わないし。」
「困ってたんだー。魔物をやっつければいいんだねー。」
必殺技弐号ー!
式具が2本飛んで行き、フォレストワームを簡単に倒した。
「・・・・君は・・・何者だ?」
「ソラだよー。結界はもういいよねー。」
飛んでいた式具が戻って来る。地面に差していた式具も回収した。
「我々は助かったのか?」
「信じられないが、どうやらそのようですね。」
相棒のメンダーが答えた。
「ありがとう、ソラさん。貴方は冒険者なのか?」
「そうだよー、これだよー。」
Cランクカードを見せた。
「君がC!?いや、今見せてくれた実力だとAだと言われても納得できる。フォレストワームはBランクでも中位の魔物だ。それを我々も守りながら1人で簡単に倒してしまったのだから。」
「確かにそうですね。凄い実力でした。」
「皆さん!我々は助かったようです。このソラさんに助けていただきました。」
メンダーの後ろに隠れていた3人の薬師に声を掛けた。
3人共ソラにお礼を言っている。代表して60歳を過ぎたぐらいの女性がお礼を言った。
「ありがとうございます。ソラさん、もしよろしければこの後も私達に付いて来て守って貰えませんか?」
「いいよー。でも、今日はまだ薬草を採って無いんだー。この辺に良い薬草がありそうなんだけどなー」
「薬草を採りに来られたんですね。では私達と同じではありませんか。一緒に採りましょう。」
今、危機が去ったばかりで、疲れ果てていたスラークには話が理解できなかった。
「ファリアス様?どういうことですか?まだ薬草採取を続けられるんですか?」
今回の依頼主でもあり、薬師のリーダーでもあるファリアスに尋ねる。
「当り前じゃない、折角ソラさんという護衛ができたのに勿体ないじゃない。」
「でも、私もメンダーも怪我をしてしまいまして、そっちの薬師さんも怪我をしているじゃありませんか。」
「怪我したの~?じゃ治してあげるよー。」
ソラが回復薬をそれぞれに飲ませた。
全員完治した。
「なんですか!これは?」
「回復薬だよー。」
「いや、凄い効き目じゃないですか!古傷まで治ってしまってる。何と言う回復薬ですか?」
「なんだろーね?わかんないー。」
「えっ?」
「まぁいいじゃありませんか。怪我も治ったんだし薬草採取を続けましょう。」
「ソラさん、回復薬のお代はいかほど払えばいいですか?」
「お金ー?いらないよー。」
「そう言う訳には。すごく高価な回復薬でしたから。」
「ご主人様にもらってるからいらないー。」
「まぁまぁ、ソラさんもこう言ってるんだから、いいじゃありませんか。さぁ、続けましょう。あなた達もいいわね。」
他の薬師たちも帰りたそうにしていたが、この一言で薬草採取を続ける事になってしまった。
「折角だから、もう少し奥まで行ってみましょうか。」
「しかし、この奥は私のレベルでは危険です。」
「今日はソラさんがいるんだから行きましょうよ。」
「しかし・・・。」
「いいわよね、ソラちゃん。」
「いいよー。いいお薬できるかなー?」
「もちろんできるわよ。この奥にマンドラゴラがあるのは知ってるのよ。それを採りに行きましょう。」
「な!ファリアス様!そこは危険です。私も場所は知っていますが、オーガの集落が近いので、いつ奴らが来るかもしれませんし。」
「大丈夫よ、今日の私はツイてる。本当なら死んでたかもしれないのに、問題無かったでしょ?だから大丈夫なのよ。」
いや、そこでツキを使い果たしたと言ってしまったら本当にツキが無くなりそうなので、スラークは口に出すことができなかった。
他の4人は渋々付いて行く事になった。楽しんでいるのはファリアスとソラだけだった。
道中、魔物も出てきたが「必殺技『弐号』!」でスラークもメンダーも出番は無い。
2人共出番は欲しくない相手ばかりだったので助かったが。
彼らのレベルでは敵わないレベルの魔物だったから。
「どうするー?解体するー?うち得意だよー」
「このレベルの魔物は解体したいが、時間が掛かり過ぎて遅くなってしまう。今は急ぎたいから帰りに残っていればその時に解体して回収しよう。」
「わかったー。じゃあ行くよー。」
「そうね急ぎましょう。もうそんなに遠くないわ。」
それから30分程度でマンドラゴラの群生地に辿り着いた。
「このマンドラゴラはね、採るのにコツがいるのよ。ソラちゃん、見ていてね。」
「わかったー。」
ファリアスはマンドラゴラに近づくと長い帯を出し、片側を持ってマンドラゴラに投げつける。すると帯は真っすぐに伸びて行きマンドラゴラにの顔に当たる部分に巻き付いた。
マンドラゴラの口元にも巻き付いていることを確認すると帯を引っ張って抜き取った。
巻き取られたマンドラゴラは、そのまま回収薬草ボックスに入れられた。
「こういう時に大きな収納ボックスがあればいいんだけどねぇ。私のは小さいから沢山入らないんだよねぇ。折角ここまで来たって言うのにねぇ。あー勿体ない。」
「また来ればいいんだよー。」
「そうよね、そうしましょう。ソラちゃん、また付き合ってくださるかしら?」
「いいよー。」
マンドラゴラを10体回収して、収納ボックスは一杯になり帰ることになった。
ガサガサ。横の草むらが揺れ、魔物が現れた。オーガだった。しかも緑色したオーガの上位種グリーンオーガだった。
「だから帰りましょうって言ったじゃないですか!ツキはあの時に使い果たしたんですよ!」
グリーンオーガを見ただけで諦めたスラークが叫ぶ。
他の場所からもオーガが現れだす。退路も断たれていた。横の草むらから出て来たグリーンオーガは退路を断ったことを確認してから出てきたようだ。
「そんなこと言ったって…ソラちゃん?」
「やっつけるよー。必殺技『弐号・改』!」
いつもは式具を2本しか出さないが、『弐号・改』は4本式具を飛ばした。
2本は遠距離、後の2本は近距離。出て来たオーガは30体いたが、数分のうちにすべて倒した。ソラの必殺技弐号・改はそれほど強烈だった。
もちろんグリーンオーガも例外ではない。
「これ全部は解体できないよー。」
「・・・・そこですか?いやいやいやいや、ソラさん?我々は助かったのですか?」
「凄いわーソラちゃん!あなた本当に強いのねー!全部解体できないならグリーンオーガだけは外さないでね。すっごくいいお薬ができるのよ。」
「そうなのー?わかったー。」
ソラが手早く解体する。1体にかかる時間は5分も掛かっていない。
流石に30体全部は解体できなかったが、グリーンオーガ3体とレッドオーガ1体を解体して薬の素材になる部分をスラークとメンダーに持たせた。
「な、なんですか?その解体の速さは!」
「さっき得意って言ったよー」
「確かに聞きましたが、そこまで早いとは思いませんよ!」
「帰るよー」
「え?もう興味ないんですか?あ、待ってくださーい。置いて行かないでくださーい。」
一行は無事、東門まで帰って来た。
「ソラちゃん、今日はありがとうね。私はこの町の薬屋ギルドにいるの。明日にでも来てくださいね。スラークさん達もご苦労様でした。報酬は冒険者ギルドで受け取ってくださいね。それとレッドオーガの素材はおまけで付けておきますね。ソラちゃんはいらないって言うし、私達も薬の素材にならないからいらないのよ。」
「え!いいんですか?こんな高価な素材を!今日の報酬の50倍どころではありませんよ?」
「ええ、予定も変えてマンドラゴラの群生地まで付いて来てくださったでしょ。」
「ありがとございます。大して役には立ちませんでしたがありがたく頂きます。」
全員無事に門を通り、それぞれ帰って行った。
次の日、ソラは薬屋ギルドに行くことも忘れて、町の外に出掛けて行った。
町に戻ってきたところをファリアスに捕まり、薬屋ギルドに連れて行かれた。
「昨日、来てくださいねって言ったでしょ?」
「忘れてたー。」
「もう、仕方が無い子ね。これ持っててね。落とさないでよ。」
薬屋ギルドのAランクカードだった。
「綺麗なカードだねー、こっちより綺麗だよー。」
冒険者カードと比べていた。
「うちはあんまり有名じゃないからカードで目立つようにしとかないと誰も気付いてくれないのよ。それで、次はいつ行くの?マンドラゴラの群生地に。」
「行って来たよー。」
「ええ?今日も行って来たの?でもマンドラゴラを持って無いじゃない。」
「もうお薬作って来たよー。」
「え?その場所で作ってるの?魔物がいっぱいいるのに?道具も無いのに?」
「いつもそうだよー。今日はいいお薬ができたみたい。いいね、あのマンドラゴラって子。」
「この子って天才?天然?ソラちゃん?カードを返して。作り変えるから。」
「どうしてー?綺麗なのにー。」
「綺麗なのはそのままにしておくわよ。内容を変えるだけだから。」
再発行されたカードも見た目は同じランクAのカードだった。が、Aの左上に星が3つ付いていた。
「あ、綺麗なお星さんが増えてるー。ありがとー。もっと綺麗になったよー」
「それはねソラちゃん、薬師の中でも最上位のカードなの。星にはそれぞれ意味があってね、1つは自分で高ランクの素材を見つけられること。1つは高ランク素材を採って来れること。1つは高ランク素材を調合できること。星が3つもあるカードなら冒険者カードのランクAより価値のあるカードなのよ。絶対無くしたらダメよ。」
「うんわかったー。うち無くさないよー。じゃあ、遅くなるとご主人様に怒られるから帰るねー。」
「今度、ご主人様も連れていらっしゃいね。」
「うん。」
佐藤太郎が薬屋ギルドを訪れることは無かった。
ソラはまったく覚えて無かった。が、カードだけは忘れなかった。




