第86話 初依頼
「切り捨てますか?」というココアとユニコを押さえて、事情が分かるまでは手を出すなと指示を出した。ユニコもそっち系だったか。出会いの時から分かってたけど。
私達は後から来た僧兵でも上役だろう者に、拘束され牢屋に入れられた。
拘束されるときに「なぜだ?」と聞いても誰も何も言わない。一言だけ「お前も終わりだな。」と言われた。
牢屋に入れられてから10分後、さっきの奴より更に上役っぽい奴が来た。
今から尋問が始まるそうだ。
順番に取り調べるそうだ。1番目は私だ。私が1番目でホッとした。ココアやユニコだと何を仕出かすかわからないから。
取調室に連れて行かれて尋問が始まる。
「お前か!神鳥を殺したという奴は。」
「神鳥?何の事だ?私が殺したのはミザイバードという鳥の魔物だぞ?」
「え?間違いか?」
取り調べ 終~了~。
魔物の検証が終わるまで牢屋からは出られなかったが、検証もすぐに終わり釈放された。
その間にアメーリアの荷物を全部渡して貰うように頼んだ。洗礼の儀式を受けるための衣装も入っていたから困っているだろう。
神鳥というのはバーミリオンの事で、神鳥はいかなる場合でも傷付けてはならないそうだ。
もし殺しでもしたら、殺したものも死罪だそうだ。
ただ、この国だけの法律で他の国では関係ない。しかし、他の国でもイクスプラン教の信者の場合は適応させるらしい。国の法律というよりイクスプラン教の教律なのだろう。
この国でも総本山以外では見逃される場合も多いというから。
今回のミザイバードは、非常にバーミリオンと似ていてよく間違えられるらしい。
そのお陰で間違いだとすぐにわかってくれたのだが。
似ているのは姿だけで、神精気を吸う事も無くただの肉食の魔物である。
普段ならこの時期に人を襲った時点でミザイバードと分かるのだが、今までミザイバードもバーミリオンも繁殖期に総本山内に入った事例が無く、「神鳥バーミリオンが神罰を降しに来た」と誰かが言い出したものだから誰も手を出せずにいたらしい。100年に一度だからわからないか。
でもいい迷惑だ。それでアメーリアが死んでたらどうするの。宗教に妄信するのも良し悪しだな。ミザイバードのただの餌になってたかもしれないんだよ。総本山の中で死ねるなら本望だという奴までいたよ。
アメーリアは一旦別室で待機させられた後、私達の疑惑が晴れると同時にアメーリアの疑惑も晴れ、祭壇の用意がされ洗礼を受けた。衣装も間に合ったみたいだ。
洗礼後アメーリアを見るとクラスチェンジしたのかと思う程、雰囲気が変わっていた。
【鑑定】はしてなかったし、今もしていないからわからないが、明らかに何かが変わったようだ。
洗礼も終わり、帰ろうと思ったが従者がいない。
「アメーリア、従者はどこへ行ったんだ?」
「彼女は先に帰らせました。」
???そんなはずは無いよな。一人で帰れるはずもないし。言いたくないなら聞かないでおこう。
「そうか。じゃあ、帰るか。」
「ありがとうございます。」
これは私の気遣いに対してだろうな。
私達は、魔法陣まで行くと転送で宮殿まで帰って来た。帰ってきたら魔法陣も消した。
洗礼が終わったお披露目のパーティがあるので招待しますから来てくださいと言われたが、ガサツな冒険者ですからパーティには似合いませんと辞退した。
転送魔法は、できれば内密にしてくれと頼んで宮殿を後にした。
冒険者ギルドのマスタールームにやって来た。
オーフェンはすぐに会ってくれた。1日で終わるとも言っていたので予想していたそうだ。
「オーフェン、1件目の依頼は終わったよ。」
達成のサインが入った依頼書を渡す。
「はい確かに。これが報酬の金貨2000枚です。しかし本当にできたんですね驚きました。」
「ここにも転送魔法はあるじゃないか。1階から5階まで転送魔法で来るんだから。」
「ここの場合は建物自体にも細工もしてありますのでできますが、外で出来る者は非常に少ないです。規模も違いますし、タロウさん以外でできるものは私の知る限り居ません。」
この魔法でもそのレベルだったか。馬車で行けば良かったか。短刀なんか絶対にバレたくないな。話題を変えよう。
「ところで相談なんだが、この前の話のSカード冒険者の件だ。精神的に回復していない奴の事だが。」
「はい、なんでしょうか。」
「なんとかなるかもしれない。」
「本当ですか!?それはありがたい話ですが。」
「できるんだが、協力はしたくない。それで良ければ話してやるが?」
「わかりました。情報の提供ということですね。それで結構です。情報の内容によっては情報料もお支払いしましょう。」
「関わらずに済むんなら情報料もいらないぐらいだ。私にはとてもできない。」
「タロウさんにそこまで言わせるとは、相当な難易度のようですね。では、伺いましょう。」
「経緯は省くぞ。やり方だけだ。ベッキーは勿論知ってるな?」
「ええ。」
「そのSカード冒険者の前で、誰かがベッキーと恋人の様に振る舞うと回復するんではないかという情報だ。相当確かな情報ではある。」
「・・・・・・。」
オーフェンはどこで葛藤しているんだろう?情報の正確さか?ベッキーの相手役か?
「わかっているとは思うが、ベッキーの相手役は男だぞ。」
「やっぱりですか。そんな者はおりませんね。確かに達成難易度は高いですね。」
「もし見つかったら、ベッキーに話は通してやるよ。」
「ありがとうございます。この情報については、治った時に達成とします。」
「いや、別に報酬はいらないよ。私には絶対に振らないでくれればそれでいい。」
「わかりました。情報提供ありがとうございました。」
良い感じで話題を変えられたな。
「じゃあ、残りの3件の依頼を聞こうか。」
「わかりました。これです。」
前回の残りの3枚の依頼書を出してくる。
「3つとも討伐依頼です。高ランクの魔物が2件。到達難易度が高いのが1件です。1つは西の森の奥にあるコーネライ湖に棲みついたヒュドラです。本来とても綺麗な湖だったのですが、ヒュドラが棲みついたことによって毒沼のようになっております。近付くだけでも困難な状況になっております。」
皆毒耐性は持ってたはずだから大丈夫だろ。
「次は、その湖から北へ行ったところにある火山に棲んでいるラドゥーンです。いずれもドラゴンですが、この2体は兄弟ではないかという情報もあり、片方がピンチになるともう片方も必ず現れるという情報もあります。」
そういう魔物もいるんだ。人間ならわかるんだけどね。
「最後に到達するのが難しいのが浮遊大陸に棲まう虹龍エインガナです。」
出た浮遊大陸。やっぱりあるんだ。
「討伐達成の証明は何が居るんだ?」
「できれば死体を持って来ていただきたい。それか魔石ですね。大きいでしょうから。後は牙か鱗か爪ですが、達成証明には時間が掛かります。」
こっちもやっぱりマーメライと同じだな。でも、魔石っていうのが一つ増えた。
仲間にしてしまう可能性がある以上、他の達成証明も考えておかなくてわな。
「いずれもSランクのドラゴンですが、受けていただけますか?」
「ああ、構わない、受けよう。」
「ありがとうございます。達成報酬はヒュドラが金貨2000枚、ラドゥーンが金貨1500枚、エインガナが金貨2500枚です。」
「これって達成料だよな?」
「そうです。素材に関してはこれよりプラスされます。何が持ち込まれるか、わかりませんからね。」
「わかった。こっちもお願いがあるんだがいいかな?」
「なんでしょうか?」
「東の国への行き方が知りたい。どんな情報でもいい。有効な情報なら報酬も払う。」
「わかりました、手配しておきましょう。できればどこまで知っているか教えていただけませんか?報酬の査定にもなりので。」
どこまで話していいものか。祠は触りだけ言って、壁の事でいいだろう。メインは壁で祠も少しは知ってるぞ。ぐらいで行こう。
「私の知っている事としては、東のマーメライメント王国から海を更に東へ行くと壁があるんだ。結界の様な感じでもあるんだが結界では無いようだ。魔物ですら通り抜けられないような壁が永遠に続いている。あとはロンレーンの東の祠が怪しいとも思っている。西側の国なのに東の勇者伝説があるようだ。」
「全く知らない情報でした。それ以上の事となると相当高額になりますが。達成報酬は金貨1000枚は用意していただくことになります。」
「ああ、構わない。今日2000枚貰ったし、他国の通貨で良ければ持っている。」
「わかりました。では正式な依頼として受けます。難易度が高いので依頼料は金貨10枚頂きます。」
「依頼料ってあるのか、頼むのは初めてだからな。確かにそうだな当たり前か。わかった。」
金貨10枚を手渡した。
「確かに。」
話も終わったし私達は宿に戻って、明日に備えた。




