第82話 ベッキー
入門したらまずは宿を取り、デルタは図書館へ行った。図書ギルドカードのAランクカードを持っているらしい。
ユニコとリクは冒険者ギルド以外のギルド登録のため別行動。リクは鍛治ギルドだって言ってたけど、ユニコは何にするんだろう?私とココアは冒険者ギルドに向かった。やはり通貨が違うので、この国の通貨が必要だったからだ。
そういえば、ココアは何のギルドカードを持っているんだろう?気になって聞いてみた。
ケーキ屋ギルドだった。前回の砂糖の依頼の時に報酬依頼でケーキ屋に行った時、色々教わりたいから入ったらしい。一緒に行ったショーン達は、ダンジョン攻略の時に仲良くなった商人と魔石などの売買で仲良くなり、商人ギルドのBランクカードを持っていたらしいが、アゲハとイロハとカインは一緒にケーキ屋ギルドにも登録したらしい。カインもか。隠れ甘党、もう隠れてないけど。
ココアの料理の熟練度はMaxだから、腕前を見せるとすぐにAランクカードをくれたらしい。
冒険者ギルドでは今回は他国の通貨の換金では無く、魔物を売ろうと思ってたし、大きな国だから冒険者ギルドの情報も必要だと思ったからだ。
ソラは相変わらず、町の外に出て行った。
到着した冒険者ギルドは、今まで見て来たどのギルドより遥かに大きな建物だった。5階建てで、敷地面積もすごく広かった。
受付でカードを提示し、依頼書ボードを見る。
Cランク以上の依頼が多い。大きい国だから依頼も多いのだろう。
知ってる魔物の討伐依頼を剥がして、倉庫に行き魔物を出した。
全部で30体魔物を出したが、流石に大きなギルドだ。倉庫が係りも動じずに依頼書にサインをくれた。
達成料も含めて、金貨200枚。当面の間は困らないだろう。なんせ、日本円で2000万相当。6人居ても普通は困らない。
精算が終わり、冒険者ギルドを出た。ここではギルマスからお呼びが掛からなかった。
前回のギルマス、フェリードが通達を出してくれたからか、ここではそんなに困ってないのか、困ってたとしても良い冒険者を抱えているのか。
今回は呼び出されて、良い情報も欲しいと思ってただけに拍子抜けした。
こちらから声を掛けてもいいのだが、今日は辞めておこう。
こういう不思議に思った時は、一応警戒だけはしておこう。
【那由多】にサーチで周辺の人間を覚えさせて、尾行などの追跡が無いか見張らせておこう。
鍛治ギルドも覗いておこう。鍛治ギルドに向かう途中でケーキ屋ギルドがあったので、ココアの為にも少し覗いてみよう。一応私も料理の熟練度はMaxだから。ケーキもすごく好きという訳では無いが嫌いでもない。どちらかというと好きだけど毎日はいらない。という程度のものだ。ケーキ屋ギルドカードを持っていても邪魔にはならないだろうし、私も登録してみようか。ここにも砂糖があるのかも興味があるし。
「ココア、ケーキ屋ギルドだ。入ってみようか。私も登録してみようと思うんだけど。」
「主様もですか?私はてっきり隣の服屋に興味があるのかと思っていました。」
「え?なんで?」
「あ、あのぉ、申し上げにくいのですが、だ、男性物の下着の新作と・・・。」
「え?そうだった?もうデカパンあるから別にー・・・え!?」
トランクスと呼べるほどの物では無く【デカパン】だったけど、褌だったころに比べたら100倍は満足していた。でも・・・
えっ!!新作ボクサーパンツ!?マジ?
「Tバックパンツも同時発売・・・。」
流石都会だ!あるんだね?
「ココア、私はこっちに用事があるみたいだ。悪いがケーキ屋ギルドには一人でいってくれないか。」
シリアス口調で、そんなに喜んでないよーって雰囲気を出しながら言ってみた。
「ティ、Tバック・・・で、ごございますか。かしこまりました。私は一人でケーキ屋ギルドに行って参ります。確かに褌姿の主様も素敵でございました。」
最後はスーパー早口で言うと、ココアは顔を赤らめながら走って行った。
「え?い、いや違うぞ!Tバックじゃない方。」
もうココアは聞いて無かった。さっき、心の声と出ている声が逆だったみたいだ。
ココアの誤解は後で解くとして、まずは店に入ってみるか。
入ってみると、確かに服の品揃いも良かった。デザインもこの世界の物には間違いないんだけど、どこか私の世界にも通ずるようなデザインの物が多かった。
いいな、幾つか買って行こう。そう思って、服を選定していると店の人がやって来た。
「あらぁ、いらっしゃいませぇ。今日はどんなものをお探しですか~」
ゾゾッ!今の男の声じゃ・・・。
そちらを向いてみる。私の目が大きくなって行く。
「オ・・カ・・マ・・・?」
まさかと思って意表を突かれ過ぎて、つい声に出してしまった。
デカいしケバいし気持ち悪いし怖いし。
「あらやだ~、その言葉を知ってるってことは、あなた異世界か・ん・け・い・しゃ~?でも古いわね~、私はミスターレディよー。」
ゾゾゾゾ!それも古いんじゃねーか?今は何と言うんだっけ?おねぇか?
「今日はなに~?私を捕まえに来たの~?あなたにだったら捕まっても、い・い・か・も。」
ゾゾゾゾゾゾー!ダメだ動けない。身体異常無効のはずの私が動けない。
男だか女だかわからない生き物が近づいてくる。いや、男で間違いないだろう。絶対男だ!
自分でもミスターレディって言ってたし。
「その驚き方からすると、捕まえに来たわけじゃあ無さそうねぇ~。じゃあ、普通にお客さんかしら。」
私の目の前に立つ自称ミスターレディ。超近づいて私を嘗め回すように見定めている。
「私も元勇者だからー、【鑑定】はできるのよねー。オカマって言葉を知ってるってことは異世界人じゃないかと思うのぉ。レベル10なら、まだ来たばかりなのかしら?弱そうだしぃ、称号も付いて無いわねぇ。」
しっかり【鑑定】しているようだが、私の付けているコスモ系の偽装+遮断の指輪で誤魔化せたようだ。
「佐藤太郎さんって言うのー?私はベッキーって言うの。よ・ろ・し・く・ね。」
ゾゾゾゾー!ウインクなんか、するんじゃねー!絶対ベッキーじゃねーよな!
【鑑定】
名前: 浦辺 清
年齢: 21
種族: 人族
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル:61
HP 2010/2010 MP:1980/1980
攻撃力:2310 防御力:2280 素早さ:1993
魔法: 火Max・水(6)・土Max・風(6)・氷(3)・雷(6)・回復(8)・光(7)
技能: 剣(5)・槍(3)・弓(1)・拳Max・料理Max・裁縫Max・掃除Max・採集(3)・解体(8)・回避(4)・遮断(8)
耐性: 熱・風・木・水・雷・身体異常
スキル:【鑑定】8【亜空間収納】Max【超速再生】5【痛覚無効】Max【思考倍速】6
ユニークスキル:【連打】
称号: 南の元勇者
従者: ボイド
ウラベ キヨシ。ウラベのベと名前のキヨシのキでベッキーか?
あだ名じゃねーか!怒りでちょっとほぐれたよ。
でも人間にしちゃ強えーよなぁ。しかもまた元勇者って。
21歳って、その筋肉ムキムキで190センチ130キロぐらいの身体で化粧もしてるから、年もわからなかったよ。金髪ロン毛だし。
「ベッキー・・さん?」
「そうよー、ベッキー。よろしくね~。それであなたの目的は~?やっぱり私を捕まえに来たの~?」
「い、い、いや、パ、パンツを・・・。」
「あ~、Tバックパンツね~。やっぱりあなた、異世界の人なの~?」
「ち、ちが、ボ、ボクサー・・・」
「ボクは何~?」
「ボクはじゃなくて、ボクサー。」
「ボクはTバックパンツ~?私もなの~お揃いね。」
ダメだ、一度仕切り直したい。このままじゃずっと相手のペースだ。
店を出よう。
振り向いて店を出ようとすると、肩をガシっと捕まれた。
「どこに行こうって言うのよう、逃がさないわよ~。」
ゾゾゾゾー
怖すぎて肩を持たれたまま店を出た。
走って隣のケーキ屋ギルドに行ってココアを探した。
いた、ココアだ。
「おーい、ココアー。」
「あ、あ、主様?そ、その後ろの魔物はなんですか?」
「後ろ?」
振り向くと私に引きずられて血だらけになっているベッキーがいた。
でも、見た瞬間はベッキーとわからず、咄嗟にパンチが出ていた。
「あ、あなた最高・・・・。」ズーーン。KO!
ゾゾゾゾー「あ、べ、ベッキーかな?」
今の悪寒はベッキーで間違いないだろう。
追撃に薙刀を出して走って来たココアを止めて、魔物を見てみたらベッキーだった。
「あ、主様。知り合いですか?」
「断じて違う!絶対知り合いでは無い!知り合いにもなりたく無い!」
「知っていそうですが。では、止めを刺しますか?」
「それは辞めておこうか。人間みたいだし。」
「人間なのですか?魔物だと思っておりましたが。」
「あんまりいない種類だと思うが、私の居た世界にも偶に居たんだ。」
「そうなのですね、では回復いたしますか?」
どうする?回復するか?HPが100切ったな。まだ減り続けているし、【超速再生】でなんとか保っているというとこか。放って置くと死ぬかもしれんし。少しだけ回復するってどうだろ?
「そうだな、このままじゃ死にそうだし、少しだけ回復してやるか。」
「かしこまりました。」ココアが回復魔法を使った。
やっぱりココアは堅実な性格をしてるなぁ。覚えた魔法はキチンと熟練度上げをしてるようだ。
周りも何事かとゾロゾロ集まり出す。
「う、うーん」ベッキーが気が付いた。ココアの回復魔法でHPが満タンに回復している。少しって言ったのに。
俯せで倒れていたベッキーを見て、ケーキ屋ギルドの職員が「あれってベッキーさん?」みたいな声がチラホラ聞こえてくる。
店が隣だし、顔見知りなのかもね。ベッキーは目立つだろうし。
「あれ?ここは?」と座ったベッキーを見て、悲鳴が上がる。
何人かは気を失ったようだ。
そりゃ血だらけ大男を見たら、気を失う者も出るだろう。
余りにも見た目が酷い手負いの傷だらけの魔物みたいなので、クリーンの魔法を掛けてやった。
血は綺麗に取れ、化粧も無くなったスッピンのベッキーがそこに居た。
ベッキーの化粧は魔法目線では、汚れに当たるようだ。本人にとっては、人から直球で言われるよりキツイかもしれない。言わないでおこう。
職員たちは「だれ?」みたいな会話をしている。
「あっ!あなた、さっきの佐藤太郎!」
慌てて私はベッキーの口を手で塞いだ。
「声が大きいよ。フルネームで呼ぶな!こっちも言いたい事があるし、場所を変えないか?」
「わかったわ、Tバックパンツの件ね。」
「ちがーう!!」あ、私も大声を出してしまった。
ココアも、やっぱりみたいな顔をして腕組んで頷くんじゃない!
ケーキ屋ギルドをそそくさと出て、私達はベッキーの店まで移動した。
ココアもギルドには居づらくなったのか一緒に付いて来た。




