第79話 盗む
先にアトムが帰って来た。
「タロウ様、魔王軍でした。勇者が現れたので迎撃に出てるようでした。続々と海から上がって来ているようでした。陸の魔物も海岸で合流していました。」
「魔王軍?地元ならユニコか。何かわかるか?」
「申し訳ありません、もう代替わりしましたから私にはわかりません。聞いてみましょうか?」
「ああ、出来るんなら頼む。」
ユニコは念話で確認しているようだった。同族だからできるんだろう。元幻獣王だし。
「タロウ様?魔王軍で間違いないようです。私の後継者も参戦していました。」
「そうか、やはり目的は勇者の迎撃か?」
「そのようです。勇者が大群で押し寄せて来たから、迎撃に出ているようです。魔物たちは、まだまだこれからどんどん増えて行きますわ。」
確かに、サーチでも海側の赤い点はドンドン増えて行ってる。
いよいよ、勇者対魔王か?でも、勇者対魔王って、こんな戦争みたいな感じでいいのか?
勇者パーティ対魔王1人ってイメージしかないんだが。
勇者パーティも勇者だけで16人いるし、魔王も1人ではやってられないか?
「とーちゃん!」
「リク、遅かったな。お前の方が近かったのに。」
「何人か【鑑定】してたんだ。そのおかげで、色々聞けたよ。勇者も何人か居たし。全部で1000人ぐらいいたよ。」
「やっぱり勇者か。何が聞けたんだ?」
「それが僕たちの事を探してるみたいだったんだ。砂糖はどこだ!とか、ウルフォックスはどこだ!とかも言ってたけど【鑑定】に集中してたから、内容はあまりわからなかった。でも、勇者って弱かったよ!僕一人でも全員やっつけられるよ。」
やっぱり弱いのか、勇者。砂糖って?
「タロウ様、私の予測を申し上げてもよろしいか?」
「デルタ、なんだ?」
「今までの会話と私達がこの国に来てからの行動、現状を考えますとある程度の予測が立ちました。恐らく間違ってはいないでしょうな。」
「言ってみてくれ。」
「はい、この状況は報告通り勇者達が軍を引き連れて現れたので、慌てて魔王軍が迎撃に出たことで間違いないでしょうな。その原因についてですが、先程のリクが言った砂糖で確信できました。」
「どういうことだ?」
「はい、私達はギルマスからの依頼と砂糖の鉱石採取の依頼で妖精樹の鎮静化に成功しましたな。その鎮静化のために妖精樹に巣食っていた魔物を排除しました。その排除した魔物は勇者が召喚した魔物で、その魔物の能力で砂糖を作っていたのではなかろうかと思います。魔物が排除されたため、砂糖の鉱石が無くなってしまったのでしょうな。そこで、確認に行った者が砂糖の鉱石が無いので私達を犯人として追って来たと思われますな。」
「なんだ?冤罪か?そんな事の為に大軍まで出すか?」
「そこは、我が侭に育てられた勇者が一枚かんでいると予測できますな。」
「勇者までか?会った事も無いのにか?」
「はい。勇者の力で砂糖の鉱石はできました。でもそのせいで、魔物の活性化を作ってしまいました。これは勇者も隠したい事実ですな。もしかしたら、勇者は自分が原因だと言ったかもしれませんが、過保護な周りの連中なら勇者様がそんなことをするわけが無いと言って聞かなかったか、結果は同じですがな。そして、その原因が我々だという結論になったと考えられますな。しかも、もう魔物はいませんから砂糖はできませんしの。その原因も我々が何かしたんだと結論付けをしたための大軍だとするとすべて符合しますな。」
「なんだ?砂糖は勇者のお陰。魔物は勝手に現れた。魔物を排除した私達は当然で、砂糖が無くなったのは魔物が居なくなったからでは無く、私達が盗んだと。しかも、砂糖の元まで盗んで行ったのだということで大軍を追手に出した?それに釣られて魔王軍まで出て来たのか。勇者も含めて、この国の奴らはおかしすぎるな。これ以上関わるとドンドン冤罪が増えて行くだろう。立ち去ろうか。」
「それで、よろしいのですかな?」
「何かあるのか?」
「このままだと、勇者軍と魔王軍の戦争になりますぞ?」
「知ったことか!どうせ戦う運命の奴らなんだろ?それに、止めに出て行ったとして魔物をやっつけるのか?そんなことしたって、自分中心の奴らの考えなら当然と思うか、何かと理由を付けて責任をこっちに押し付けられるぞ。それとも勇者を倒すのか?」
「いえ、私もそれが正解だと思っておりました。この戦いは魔王軍勝利で終わるでしょうな。ただ、その前に以前聞かせていただいたユニークスキル【盗む】を使われてはいかがかと思いましてな。勇者はどうせ負けるのですし。」
「あ、流石だデルタ!そうしよう。じゃあ、私は行ってくるから、すぐに出発できるようにしておいてくれ。」
私には【隠形】は無いが、技能の遮断はMaxまでなっているし、気配を消していれば問題ないだろう。
わたしは、ダンジョン前の勇者軍団の近くで潜んで様子を見た。
金色の装備が目立つ兵士の中に、更にキンキラキンの若い兵士が10名ほど確認できた。
あれか?金の産出国といっても遣り過ぎだろ!お前ら恥ずかしくないのか?私には到底真似できません。
さっさと【鑑定】するか。
名前: ミチロウ
年齢: 18
種族: 人族
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル:65
HP 1550/1550 MP:1432/1432
攻撃力:1307(350) 防御力:1295(453) 素早さ:1180(10)
魔法: 火(6)・水(6)・土(6)・風(6)・氷(6)・雷(6)・回復(6)・闇(6)・光(6)
技能: 剣(6)・槍(6)・弓(6)・斧(6)・回避(6)・遮断(6)
耐性: 熱・風・木・水・雷・身体異常
スキル:【亜空間収納】6【超再生】6【痛覚無効】6【MP消費減】6
ユニークスキル:【魔物召喚】
称号: 北の国の勇者
従者: なし
・・・・・・弱い。メタル系武器以下?いや、見て来た人間にしては最強の部類には入るか。
しかもなんだ?熟練度6揃え!武具は性能より見た目か?いやいや、今は突っ込んでる場合じゃない。急ごう。
【魔物召喚】これが砂糖の原因じゃないか?とりあえず、頂いておこう。
【盗む】発動。# 成功 #
おお!初盗み!
そういやデメリットとして、失敗したら同じスキルを100日間盗めませんってだけだったけど、連続で行けるのかな?試しに別の奴のを盗む
他の奴でも試して5つ盗めた。失敗してたら別の奴からも同じスキルは【盗む】が発動しなかった。試したのは【亜空間収納】に対して試して2つ成功して3つ目に失敗。他の奴の持ってるものでも【亜空間収納】に対して4回目は発動しなかった。
持ってるからいらないけど、他のもスキルがダブってるし試したいと思えるものが無かったから。
【盗む】【天気】【天使召喚】【贈る】【誕生】【亜空間収納】【亜空間収納】
また盗むがあった。お前達勇者だよな?ケンジといい、勇者には似合わないスキルだと思うよ。他のも意味不明の物もあるし。内容確認は、落ち着いてからゆっくりとやろう。
そろそろ行こうか、魔王軍も近いしな。健闘を祈るよ勇者軍。
急いで戻るとノアは準備万端で、ココア、ショーン、ミルキーで警戒に当たっており他は馬車に乗り込んでいた。
なぜか皆ニヤニヤしていたが。
【盗む】ってこっそりやらないと恥ずかしいな。
「待たせたな、さあ行こうか。ノア、南に飛んでくれ。ツンザンブレーン連邦から出よう。」
「わかりましたわぁ。」
眼下には、まさに戦闘に突入した戦場があった。誰も上を見る余裕など無いだろう。
総戦力数では10倍以上の魔王軍。勇者軍は勝てないだろう。でも、すべての勇者が来ていた訳では無かったからツンザンブレーン連邦側も立て直すんじゃないかな?過保護では無理か。




