第68話 城
翌日、浜辺でミルキーとイロハとココアから、自分達で食べたい海系魔物以外を渡して貰い、送り出した後冒険者ギルドに向かった。
海の水系魔物だけで1500体以上持っていることになる。
どうすんの?どこで出せるの?
冒険者ギルドに着いたら、物々しい雰囲気に包まれていた。
城の兵士が500人いて、入り口は親衛隊のような他の兵士とは違う立派な鎧の者が50人で固められていた。
念のため、親衛隊の何人か【鑑定】したが、私から見ればやっぱり大したことなかった。攻撃力が400~450で、武器をいれても800程度。
ただ、一人だけ攻撃力が550。武器を入れると1000を超える者がいた。たぶん高いんだろう。比較対象が、私の仲間だから弱く感じてしまうが、兵士の中でも最強の部類に入るのかもしれない。人間をあまり鑑定したことないし、強い人間なんか一度も鑑定したこと無いから。
並んでいる兵士の中に、昨日の兵士長を見つけたので文句を言ってやった。
「なんだよこれ!魔物のご馳走のお礼がこれか!」
「ぐぐ、すまん。」
「私は使者を出せって言わなかったか?これが、お前たちの使者なんだな?」
「・・・・・面目ない。」
思ってた通り、城って面倒くさいな。
「貴様か、ウルフォックスのリーダーのタロウと言う者は。」
攻撃力が一番高かった騎士が話し掛けて来る。
「そうだが、お前は誰だ?」
失敬な!と騒ぐ周りを制止してその男が続ける。
「一介の冒険者だ、礼儀も知らぬのだろう。私は、マーメライメント王国軍騎士団団長ホーキンス・マグダライだ。このまま城まで付いて来て貰おうか。」
「何でだ?私には用事が無い。嫌だ、断る。」
「折角城に入れるんだぞ?それもわざわざ連れに来てやったんだ。感謝してさっさと来い。」
城に入れることは、そんなにいい事なのか?
「城に行ったら、何かいい事あるのか?」
「貴様は、色々良い物を持っているそうだな?」
「ああ、持ってるぜ?」
「それを私・・いや王に献上させてやるから、さっさと城に来るんだ。」
なんだ?こいつ。使者じゃないのか?
「なんだ?喝上げか? この国は貧乏なのか?」
「貧乏な訳ないだろ!!さっさと魔石を出せ!」
段々怒りで顔が赤くなって来た。
危険を察したメリアーナが慌てて飛び出して来た。
「タロウさん、ここは逆らわず、大人しく付いて行った方がいいです。」
「何で?この程度の数の兵士で私を拘束できると思って上から目線でしゃべる奴に、なぜ付いて行かないといけない。こいつら魔物にも勝てないんだろ?」
「タロウさん!そんな大きな声で言ったら。」
「聞こえたぞ!たかが、冒険者風情が何を偉そうに言っておるか!自分の立場がわかっておるのか!」
「ああ、わかってるさ。今までの冒険者や、軍が討伐できなかった水龍を討伐してきた冒険者だが?お前もそれをわかってしゃべってるんだろうな。」
「はっはっはっは!大法螺を吹きおって。構わん!力づくでも城へ連れて行け!」
「「「ははっ!」」」
500人の兵士が一斉に私に掛かって来る。倒すのは簡単だが 殺すとお尋ね者になりそうなので、加減してやらなければならないのが面倒だな。さて、どうするか。
こいつだけ倒せばいいんじゃね?指揮官だし、こいつがやられれば周りも大人しくなるかも。
一瞬で間合いを詰め、騎士団長にボディブロー。一応手加減はしたが、騎士団長はそのまま冒険者ギルドの壁まで吹っ飛んで気を失った。高そうな鎧の胴には、拳の形の跡が付いている。
兵士たちは立ち止まったが、副長が「ええい、怯むな!引っ捕らえろ!」って言うから、今度は副長をボディブローで吹っ飛ばす。
「さあ、次は誰が指令を出すんだ?」
誰も何も言わない。親衛隊を一人ずつ見る。
私と目線が合う者から目が合った瞬間に後退る。
「おい」親衛隊の一人に声を掛ける。ビクッとして目も合わそうとはしない。
「おい、一応手加減したから死んではいないとは思うが、お前らの隊長と副長は重症だと思うぞ。早く連れて帰って治療してやったらどうだ?」
言われた騎士たちは、無言で大急ぎで隊長と副長を担ぎ、その場から立ち去って行った。
他の兵士たちも、親衛隊に付いて帰って行った。
周りはシーンと静まり返っていた。
私は倉庫まで行き、満タンになるまで魔物を出して、水龍の牙も1本だけ出して、そのまま何も言わずに冒険者ギルドを出て行った。
冒険者ギルドはその間、ずっと静まり返っていた。
やっちまったなぁ。さぁどうするか。これでお尋ね者かな?
別にいいんだが、まだ仲間が帰って来てないからなぁ。念話でも連絡はできるが
このまま出て行くのも癪だしなぁ。釘だけ差しとくか。
私は城に来た。
門兵に名前を告げ、王への謁見を求めた。
王への謁見など叶うとは思ってないので、大臣か何かが出てくるだろうからそいつに言っておけばいいだろ。
と思っていたら、謁見の間に通され王に謁見していた。
なんで?こんなにすんなり謁見できたんだ?罠だとしても、短刀で逃げれるからいいけどね。
王はまだ30代ぐらいだろうか、若い王様だなぁと思って見ていた。
誰も何もしゃべらない。謁見の間はシーンと静まり返っていた。
ようやく王が、口を開いた。
「タロウと言ったか。何故何も話さない?そちの方から謁見を求めたのではないのか?」
確かに求めたな。でも、すんなり通したってことは事情は知ってて通したんだろうから、そっちの方が言いたいことがあるんじゃないのか?
「そうだな、確かに謁見は私から求めた。だが、謁見を求めた理由は知ってるんじゃないのか?」
「知っておるぞ。だが、理由は知っておるが、要件は知らぬ。その方が口を開かぬ限り、こちらも対応のしようがないがの。」
「私の言う事が通るとも思えんがな。だが私は喧嘩を売られたから買っただけだからな。」
「どういうことだ?大臣、何か知っておるか?」
なんだ?どこまで話が行ってるんだ?
「はっ、私が聞いておりますのは、昨日浜辺で海の魔物で宴をやっている冒険者がいたので、ホーキンス・マグダライが城へ招いて事情を聞くという報告は受けました。」
「余もそう聞いておったが、ホーキンス・マグダライはどうしたのだ?何故ここにおらん?」
「王様よ、本当に知らないのか?大臣さんも惚けてるんじゃないのか?私は謁見にすんなり通された時点で、事情はすべて伝わっていると思ってたんだが?」
「余は何も知らぬぞ?大臣は知っておるか?」
「いえ、ホーキンス・マグダライからはまだ何も報告が来ておりませんが、タロウと言う冒険者を招くという事は聞いておりましたので、謁見を認めました。」
どういうことだ?ますますわからん。話がすっごくズレてないか?
「そりゃ、騎士団長殿は今頃治療中だろうからな。ここには来れないよ。」
「なぜ治療中なのだ?」
「私がやっつけたからだよ。副長も一緒にな。」
「ほぉ、そりゃまた豪気だ。大臣は知っておったか?」
「いえ、知りませんでした。すぐに確認させましょう。」
「それでな、私がここに来たのはもう私に構うなと伝えに来たんだ。」
「そんなことで来たのか?余が聞いておったのは、海の魔物を馳走してくれる冒険者がおるということだ。楽しみにしておったのだがな。その見返りに何か要望されると思っておったのだが、見当がはずれたようであるな。」
「海の魔物ぐらいいつでもご馳走してやるが、もう誰でも獲りに行けると思うぜ?」
「どういうことだ?」
「元凶となっていた水龍を私が排除したからだよ。」
「おお!それは誠か!大臣知っておったか?」
「いえ、私も初耳でございます。すぐに調べさせましょう。」
なんかズレた王様だなぁ。水龍が近くに居たのに、こんな平和呆けの王様でいいのかね?
「要件も言ったし、私は帰ってもいいか?魔物がいるんなら置いていってやるけど?」
「おお!誠か。余はホエーラーが好物でな。持ってはおらぬか?」
「持ってるよ。どこに出していけばいい?」
「大臣。」
「はっ。」
「あと、私の事は冒険者ギルドに問い合わせればわかるが、私自信には城に用事は無いからな。今後、関わりたくは無い。」
「あいわかった。大臣も聞いたな。」
「はい、確かに。」
ホエーラーを2体倉庫で出してやり、その足で冒険者ギルドに向かった。メリアーナが心配してたみたいだから、報告だけして、一度ローレンスの町に戻るか。
東の国の情報はこの町では得られないようだし、マーメイドの所に行ってる仲間が帰って来てからだな。
城を出ると、城門の所に50人ぐらいの人が集まっていた。
格好を見ると冒険者のようだった。
その中にメリアーナを見つけた。
「あれ?メリアーナ?どうしたんだ?」
「あ!タロウさん。こちらにいらしたのですね。探したのですが、見つけられなくて。」
「探してくれてたんだ。それで、なんで城に来てるんだ?」
「騎士団の横暴振りを王様に伝えて、タロウさんの事を弁護しようと思って。」
「みんなでか?」
皆が頷いている。へぇ~嬉しいね。しゃべったことも無い奴だっているはずなのに。
「嬉しいね、皆ありがとう。今、王様と話をしてきたよ。もう大丈夫だろ。」
「王様に会っていたんですか?それで、もう大丈夫とは?」
「ホエーラー2体で話は付いた。もう関わりになるなって言ってきた。」
「はぁ?」
「さ、もう帰ろう。」
さっきまで盛り上がってた気持ちはどうしてくれるの!って文句を言われながら、冒険者ギルドに戻って来た。
そんなこと言われてもねー。知らんよ。
マスタールームに通されて、精算をしてくれた。
「水龍討伐が認められました。それも含めて 金貨20000枚の報酬です。端数分はありましたが、切りのいいところで出しました。どうせまだ魔物を出して貰うんだしね。全冒険者ギルド始まって以来の高額報酬じゃないかしら。半分の10000枚は大金貨で支払わせてもらうわね。どうぞ お納めください。」
「では ありがたく。」
海の魔物が不足していて高額で取引されたことも、高額報酬になった理由に含まれていた。
「今回はアラハンの苦労が身に浸みて分かった気がするわ。」
「アラハンさんは、そんなに苦労してないと思うぞ?」
「あなたと居るだけで、苦労してると思うわ。だって、信じられないことが多すぎるもの。」
「そういうことはあるみたいだな。さっき言ってたけど、まだまだ魔物はあるが、どうする?」
「それはもちろん頂きたいわね。どのぐらいあるの?」
「昨日、またうちの連中が獲りに行ったみたいでな。1500体は超えてると思う。」
「・・・・はぁ。そんなもの、どうやって捌けると思ってるのよ!」
「あ、いい事考えたぞ!うちの連中に解体させよう。解体済みなら捌けるんじゃないか?」
「そんな事ができるんなら、なんとかなるかもしれないけど・・・できるのね。」
「だからさ、解体が終わったらうちの連中を全員、観光案内してやってくれよ。」
「わかったわ。最初からの約束だしね。」
「うちの連中の解体作業は早いから、1日も掛からないと思う。売りさばく先を確保しておいてくれよ。うちは、料理と解体は必須なんだ。」
「どこを自慢してるのよ。もう訳がわかんないわ。」
「今日はまだ時間もあるし、少しでも解体をやっておくよ。下の倉庫も満タンにしておいた方がいいだろ?」
「そうね、お願いするわ。」
倉庫を魔物で満タンにし解体する場所を考えたが、海辺が邪魔が無くて良さそうだし、砂浜に行った。




